第197話 人魔パニック!(3)

 スグルは『お尻ラブ』と描かれたタンクトップをごそごそと脱ぎ上半身裸になると、

 そのタンクトップを丁寧にたたんだ。

 そして、それをクロトに渡す。

「これ、俺の大事な物なので、持っておいてもらってもいいですか?」

「なんか……汗臭いなぁ」

「それお気に入りなんですよ。破けたら嫌なので……」

 スグルは、目からコンタクトを外す。

 それに伴い、彼の腕の表皮にまとわりついた融合加工で作った人工皮ふがコンタクトの中に光と共に消え去った。

 まるでエメラルダの2.5世代の魔装装甲のようである。

 おそらく、この人工皮膚で人魔チェックをかわしていたのであろう。


 コンタクトを外したスグルの目が黒から緑に変わっている。

 腕が毛深くなっている……いや、あまり以前とは変わっていないような気もする。


「今夜は満月ですか……いっちょ、やりますか」

 スグルは下腹部に力を込める。

「おいおいここで魔人に戻る気か」

 クロトはスグルを止めようとするが、遅かった。

 スグルの体が膨れ上がっていく。

 おびただしい獣の毛が体を覆っていく。

 そこには大きなオオカミの魔人が立っていた。

「誰かに見られたらどうするんだよ!」

 顔を押さえるクロト。


「それじゃ、行ってきますね」

 そんなクロトを気にせずに大きなオオカミ魔人は高く飛びあがる。

 黒い大きな影は、神民街の屋根屋根をつたい、人魔たちが向かう先へと飛び跳ねていく。


 コウスケは、怪獣の着ぐるみを着て深夜の神民街を走っていた。

 夜間にタカトの病室に忍び込み、驚かそうという魂胆であった。

 神民街を走るコウスケの前に人魔が口を開けて襲い掛かる。

 咄嗟のことに、なんとか身をかわしたものの、こけてしまった。

 人魔の口が、コウスケの首を襲う。

 幸いにも、厚い怪獣の顔が、人魔の歯から身を守ってくれた。

 しかし、今度は、ずんぐりむっくりの着ぐるみが、邪魔で起き上がることができない。

 くんずほずれつの取っ組み合いが深夜の神民街で続く。

 がむしゃらにコウスケに噛みつこうとする人魔が口を離して体を起こした。

 その瞬間、人魔の首が跳ね飛んだ。

 何が起こったのか分からないコウスケ。

 噴き出す魔血。

 守備兵が人魔の首を後ろからはねたのであった。

 魔血が雨のように降り注ぐ。

 しかし、幸いなことに、ずんぐりむっくりの怪獣の着ぐるみが魔血を防いでくれた。

 守備兵が魔血まみれの怪獣コウスケを引きずり起こした。

「こんな深夜に何をしている」

「いや……お見舞いに」

「見舞いだと! こんな時間にか?大体、お前、魔血をかぶっているな」

「俺は神民だ、だから、人魔抑制剤を打っているから大丈夫だ!調べてみろ!第8のセレスティーノ様の神民だ」

「それならば神民の刻印を見せてみろ」

 コウスケは着ぐるみを脱ごうとした。

 しかし、脱げない。

 着ぐるみが厚すぎて背中のファスナーを掴もうとするが、全く手が届かない。

 というのも、身につけたときは、女店主に手伝って貰って、なんとかなったようなものである。

 一人で脱げるわけがない。

 くるくると回りながら守備兵から離れていく。

「こら、逃げるな! コイツを収容所に連行しろ!」

「脱げないんだって! ちょっと手伝えよ! コラ! 俺は神民だって!」

 着ぐるみのまま、檻の中に放り込まれるコウスケ





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