第196話 人魔パニック!(2)

 あわただしく、守備兵たちが人魔たちと応戦していた。


「思った以上に多いですね」


『お尻ラブ』のタンクトップ姿のスグルも、人魔を殴りつけながら呟いた。

 スグルは、神民学校の教師であると共に、第二の門の騎士クロトの神民でもあった。


 クロトもまた、剣を振り人魔の首をはねていく。

 この人魔騒動収束のために、内地にいる騎士たちにも召集がかかっていた。

 一刻も人魔たちを神民街から一掃する。

 そうでなければ、融合国内の神民たちが人魔となって、その数を減らしてしまう。そうなれば、騎士の門内のフィールドは、第六の門の時と同様に、魔人国に有利に働き、その魔人国のフィールドを押し広げてしまうのである。神民数が0とまでは言わないが、最悪、門内の駐屯地が魔人国のフィールドに含まれてしまえば、第六同様、全滅は必至である。駐屯地の消滅は、各騎士の門内の拠点を失う事。それは門内にあるキーストーンを守るうえでは不利に働く可能性があった。

 そのため、被害が大きい第五の騎士アグネスと第七の騎士一之祐は、すぐさま騎士の門内の駐屯地に赴き、魔人国の動きを警戒していた。


「しかし、何か妙だな」

 傍らのクロトは人魔たちの動きに一定の行動を見て取った。

 人魔は、魔物同様、人の生気を欲している。

 そのため、人に食らいつき、生気が宿る血肉をすする。

 本来は、魔物同様、生気がより多く宿っている脳と心臓を欲しているのであるが、もとは人間、魔物ほど力がないため、頭蓋を噛み砕くなんて芸当は出来やしない。そのため、柔らかな人の体に噛みつくのである。

 その、空腹をみたす食人行動のみが、人魔の行動原理であった。

 そこに、知性や統率と言ったものは一切ない。

 ただ、各個体が、それぞれ、自分の食欲に従って動くだけである。


 しかし、人魔たちは、何かに引き寄せられるかのように、ある方向に向かって歩き出していた。

 路地裏に潜んでいた人魔たちも、次第に顔を出し、流れに合流していく。

 五月雨のような個々の人魔たちが集まり、次第に一つの川のように群れをなしていく。


 第二の門の騎士であり、融合加工院の主任技術者でもあるクロトは、通常では考えられない人魔たちの行動に興味を示した。

 そう、興味……好奇心である。

 この非常事態にもかかわらず、人魔騒動を収束させるのではなく、その異常行動を確かめたい。そんな気持であった。

 はやり、技術者と言うのは、どこか、通常では考えられない行動を示すのであろうか。


「まるで何かに引き寄せられているようだな」

 実際に人魔達が群れるというのは珍しい。だが、そのおかげで、神民達の被害がかなり少なくなっていた。この行動が、無ければ、神民街は壊滅的な状態になっていたことであろう。不幸中の幸いである。


「クロト様、その先で人魔どもを一網打尽で駆除すればいいのでは」

「それもいいのだが、やはり、その原因がきになる。ちょっと、ここを任せていいか?」

「いやいや、それはダメでしょ! クロト様は一応、騎士として、ここの指揮を執っているのですから、いなくなったら現場は混乱しますよ」

「そんなもんか?」

「そんなもんですよ。大体、任務放棄は、アルダインに怒られますよ。ただでさえ目の敵にされているんですから」

「なんで、目の敵にされなければならんのか分からん。大体、第5世代というのが怪しすぎるんだよ……」

「だから、それが気にくわないんですよ。アルダインには」

 クロトが提唱する2.5世代の魔装騎兵は、第五世代の魔装騎兵化を推し進めるアルダインにとっては、邪魔な存在であった。しかし、エメラルダを筆頭に第五世代に異を唱える騎士がいるためおおっぴらには妨げることはなかった。


「そうだったのか」

「もしかして、今気づいたんですか?失態をおかせば、ここぞとばかりにアルダインが責めてきますよ」

 実際に、目障りだったエメラルダは騎士の座を追われた。クロトもまた、その毒牙にかからないとも言い切れない。


「じゃぁ……スグル、お前が調べてきてくれよ」

「俺がですか?」

 スグルは、ビックリした様子で自分を指差した。


「いやか……なら、やはり私が行こう」

 ラッキーとばかりにクロトが微笑む。


「分かりましたよ。行きますよ。ただ、ある筋の話では、人魔症にかかっていない者までも収容所送りにしているという噂があるので、なんとか対応してくださいよ!」

「分かった。分かった」

 面倒臭そうにクロトは答えた。




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