第177話 恋のかく乱(4)9/16改稿
キャァ!
アルテラは、再び悲鳴を上げた。
自らの体を犠牲にしたタカトがゆっくりと前のめりに倒れゆく。
今、目の前のタカトのケツに毒針が深々と突き刺さっている。
それも、自分を助けたために。
無我夢中でアルテラは、気絶しているハチビィをタカトのケツから取りはらう。
あうっ!
タカトは喘いだ。
無情にもハチビィの針は、そのタカトとの結合部分からポッキリと折れてしまった。
毒が回り始めたのであろうか。
タカトは軽くあえいだのち、ゆっくりとアルテラに手を伸ばしたかと思うと、ついに力尽きた。
タカトの手が短い一生を終えたかのようにポトリと地面に落ちた。
いやぁぁぁぁぁ!
アルテラの叫び声が森の中に響き渡る。
アルテラの叫び声を聞きつけ、オオボラが駆け戻ってきた。
あと少しでエメラルダを追い詰められたところであったが、やはり、アルテラに何かあれば、それどころではない。
オオボラの頭は、即座に優先順位を置き換えた。
「何かございましたか!」
森の奥から駆け出したオオボラは、息をつく間も惜しんで声をかけた。
肩で息をするオオボラ。
顔には、枝葉でこすれた細い傷が無数に出来上がっていた。
アルテラは泣き叫ぶ。
「このお方を、急ぎ、神民病院へ!」
オオボラは、アルテラが指さす方向に顔を向ける。
――タカト!?
そこにはケツを突き出したタカトらしきものが顔を地面に突っ込んでいた。
タカトのケツには、青いスライムが広く伸びていた。
まるで、ケツの傷をふさぐかのように、懸命に引っ付いていた。
「アルテラさま、今はエメラルダ捕縛が最優先かと思われます」
「そんなことは、どうでもいいのよ。大体、エメラルダは、もう騎士じゃないんでしょ。危険はないんだから放っておきなさい!」
「そうですが……なんなら医療班にあとは任せるというのはいかがでしょうか」
「何言っているのよ!よく見なさい!毒針が刺さっているのよ!もし何かあったらどうするのよ!」
「しかし、アルテラさま、このような下賤な男のために任務を放棄されては、アルダイン様のお怒りをかいます。今一度任務に戻られてください」
「お父様なら私の言うことは何でも聞いてくれるから大丈夫よ。いざという時には私が全責任を取ります!」
「いや、しかし……」
「ええい、うるさい。撤収といえば撤収よ!」
「御意」
オオボラは膝をつき頭を下げる。
そして、立ち上がったかと思うと、大きな声で撤収の合図を出した。
ビン子が、その一連の様子を木の影からオロオロと見つめていた。
「もう……何やってるのよ……急に方向を変えるから……」
そう、タカトは、オオボラたちを攪乱し、ミーアから遠ざけるために森の中を無我夢中で走っていた。
ミーアは、木の上で取り囲まれ逃げ場を失っていた。
守備兵たちの中に、今にも切り込みそうな雰囲気であった。
ここは融合国内である。神民魔人といえども、魔の国のミーアに勝ち目はない。
どう見ても死ぬ気である。
一瞬のスキ。それさえできればミーアなら……
一縷の期待を込めて、タカトは叫んだ!
「ちょっと! 待ったぁ!」
そして、走る!
走り回る!
少しでも自分の方に目が向くように、アホのように声をあげてひたすら走る。
もはや発している言葉に意味など全く何もない!
ただ、守備兵たちがこちらを向きさえすればそれでいいのだ。
もしかしたら矢が飛んでくるかもしれない。
もしかしたら剣で切り付けられるかもしれない。
そんな恐怖が頭をよぎらないわけではなかった。
しかし、体が勝手に飛び出してしまったのである。
木の枝が弱小タカトを斬りつける。
それでも必死に叫びながら走った。
走ることしかできなかった。
しかし、森の茂みの先で見てしまったのである。
恐怖におびえるアルテラの顔を。
今にもアルテラがハチビィに襲われようとしている。
その途端、タカトの足は方向を変えた。
何ができる訳でもないくせに、一直線に駆けて行く。
はいつくばって逃げるアルテラのもとへと懸命に。
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