第152話 悲しみの先へ(2)

 エメラルダをコウエンが背負って戻ってきた。

 いつまでたってもエメラルダが温泉から戻ってこなかったことを心配したコウエンは、脱衣所の入り口をくぐった。

 身動き一つしないエメラルダが、床に倒れている。

 駆け寄るコウエン。

 頭を起こし、息を確認する。


 ハ―、ハ―……

 か細いが、呼吸はある。

 おそらく湯疲れであろう……

 コウエンは、てぬぐいを水でぬらすと、エメラルダの額に置いた。


 ――こんなに赤くなるまで……


 ぬれたエメラルダの体をふきながら、コウエンはつぶやく。

 エメラルダをふくコウエンの手に、しらずしらずに涙が落ちる。


 コウエンに連れて帰られたエメラルダは、一人ポツンと客間のベッドの上で眠っていた。

 冷たい手拭いが気持ちいのであろうか、その寝顔は少し安らいでいた。


 そんなエメラルダの横に、足音を忍ばせてまるで泥棒のようにタカトがゆっくりとやってきた。


 これはチャンスと言わんばかりに口元が緩む。

 タカトの両手の人差し指と親指が、エメラルダにかかる毛布を気づかれないよう摘み上げると、ゆっくりと足元へとずらしていく。


「よく寝ていますね……ちょうどいいや」


 タカトの指が、エメラルダの浴衣の襟を気づかれないようにそーっと開いた。

 ゆっくりとエメラルダの白い肌があらわになっていく。

 その襟がついにエメラルダの豊満な右胸を支えることができなくなった瞬間、その右胸は、やわらかな水風船の如く、プルルンと涼やかに揺れこぼれ落ちた。


 タカトの目が、白い胸の上の無防備なピンクのつぼみを視姦するかのように凝視する。

 タカトは、ためらうことなく、その豊満な右胸を両手で包み込むかのように触りだした。


 ひとしきり触ると、タカトは、膝の上に置いた紙に何やら懸命に書き出した。

 そして、エメラルダの右胸のつぼみを弄ぶかのように木の棒を押し当てる。

 エメラルダのやわらかいピンクのつぼみは、無骨な木の棒の圧力に屈し、恥ずかしそうに、その頭を垂れた。


 その様子を客間の入り口からビン子と権蔵がのぞいていた。

 ビン子は権蔵に小さな声で尋ねる。


「タカトは、今、エメラルダ様の胸に触っているという自覚あるのかな?」


 タカトは、今、エメラルダの左胸を再生するために、右胸の状態を確認していた。

 重さ、形、質感などありとあらゆる情報を紙に書き出していく。

 そして、その形から推測される乳房内の様子を、『乳房画像解像学』『乳房検査実践ガイド』などの、おっぱいの専門医学書をめくり考察する。

 その内部の神経、乳腺に至るまで、再現できるものは再現しようとしていた。

 瞬く間に、タカトの膝の上の紙は、走り書きされた汚い文字で埋め尽くされていく。


「あいつはモノ作りに熱中すると周りのものが目に入らなくなるからな。おそらくエメラルダさまの胸を触っているとおもってもないぞ」


 権蔵はタカトを見つめながら、あきれた様子で答えると、邪魔をしないように、静かにその場を離れた。


「ほんとモノ作りに熱中するといい顔するのよね……」

 入り口の立枠に手をかけながら、ビン子はいつまでもタカトを見つめていた。



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