第136話 慰霊祭(5)

 ドーン

 パラパラパラ


 時折上がる花火が夜空を明るく光らせる。

 タカトとビン子は暗くなった道を家へと荷馬車を城壁に沿って進めていた。

 石畳に従いガタゴトと荷馬車が揺れる。

 それに応じて二人も仲良く揺れる。


 行きに比べて、握りこぶし一個分ほど二人の座る距離は縮まっていた。

 何もしゃべらない二人。

 しかし、ビン子の右手はタカトの太ももに置かれていた。


 ――このままタカトにもたれてみようかな……

 下をうつむくビン子はそんなことを真剣に悩んでいた。


 タカトもまた、この時ほど手綱が邪魔だと思ったことはなかった。太ももにあるビン子の手を握りしめたいという衝動に駆られていたのである。しかし、手綱を離せば、この暗い夜道、障害物にぶつかる可能性もある。


 ――片手で何とかなるかな……

 手綱を右手で操作し、左手でビン子の手を握りしめたらどうだろう。そんな想像をしながらタカトは荷馬車をゆっくりと進めていた。


 二人が、第六の城門に差し掛かった時であった。


 ドゴォォォォォォオン!


 激しい轟音が響き渡る。

 その轟音と共に、突然、第六の騎士の門が開いた!


 いや開いたというより、弾けとんだと言った方がよかったかもしれない。

 門を守備していた守備兵が、開いた扉の勢いで、いきおいよく跳ね飛ばされていく。

 皆が、身動きできずに固まり、門を凝視していた。

 タカトたちもまた、その場で固まり、門を凝視した。


 飛ばされた守備兵が地面を勢いよく転がり、やっと、その身を止めた。

 しかし、身動き一つしない。

 意識を失っているのか……それとも、既に死んだのだろうか……


 開いた騎士の門の中に怪しい緑の目が光っていた。

 緑の目はゆっくりと融合国の中に足を踏み入れてくる。

 騎士の門から、一人の魔人の姿が現れた。

 その筋肉質の体には、凶悪な棍棒が一振り握られている。


 守備兵たちが、とっさに、魔人に向かって槍をつく。

 しかし、その棍棒の一振りで、守備兵たちの上半身は、一瞬でなくなった。

 上半身を失った守備兵たちの体から、血しぶきがあがる。


『凶虫の棍棒』を肩に乗せた魔人騎士ガメルであった。

 ガメルが今、立つ場所は、人間の世界。

 すなわち、魔人の世界の魔人騎士ガメルにとってはフィールドの外である。

 そのため、絶対防壁である騎士の盾は、発動し得ない。魔人騎士といえども、死の危険がつきまとう場所である。


 そんなガメルが大声をあげる。


「第六の騎士はどこだ!」


 中型のガンタルトたちが、その大きな体でガメルを守るかのようにゆっくりと融合国内へと侵入してきた。

 おそらくこのガンタルト達、第六駐屯地で絶命した超巨大ガンタルトの子供たちなのだろう。

 だって、その証拠にお腹の下からは小さなチチカカコが飛び出し揺れていた。

 ということはこいつらは男の子なのかwww

 そんなガンタルトの子供たちの群れに続き、小型の魔物たちも門の中から次々とあふれだしてくる。


 宿舎内に居座っていた第一の守備兵たちが飛び出す。

 守備兵たちは槍で魔物を押さえつけようとするが、数が多い。

 数少ない魔装騎兵が、魔物たちを斬りつけていくも、やはり数が多い。


「第六の騎士はどこだ!」


 改めて、ガメルが怒鳴る!


「私が第六の騎士だ! これ以上、罪もない人々を傷つけることは許さん!」


 ケーキ屋から飛び出してきたアルテラが叫んだ。

 アルテラをにらみつけるガメル。


「小娘! お前が新たな騎士か!」


「そうだ!」

 アルテラはガメルに高圧的な態度をとるも、ガメルとのレベルが違いすぎるため、ガメルには威圧が全く通用しない。


「ふざけるな!」

 ガメルの怒声が周囲を震わす。


「お前が、エメラルダの跡を継ぐというのか!」

 その怒声に戦闘経験のないアルテラの足が震えだす。

 目の前にいきなり魔人騎士ガメルが立っているのである、それは無理からぬことなのかもしれない。


「お前が騎士だというのであれば、我と戦い証明せよ!」

 ガメルはアルテラへと棍棒を突き出した。

 神民を持っていないアルテラは絶対防壁である騎士の盾が発動しえない。

 全身に震えが回ったアルテラはガメルのその威風に恐れをなし、その場に力なくへたり込んでしまった。

 アルテラのスカートの下から漏れ出した黒いシミが路上に広がっていく。


 そのようなアルテラの危急を察知し城壁の門から、一人の男が駆け出してきた。

 その男はアルダインの神民となったオオボラであった。

 オオボラは、アルダインから、アルテラの護衛の任を仰せつかっていたのだ。

 しかし、今、その守るべきアルテラの身が風前の灯火であった。

 慰霊祭で悲しみに暮れていたアルテラを案じ、ケーキ屋で一人にしておいたのが仇になった。

 せっかく神民になったのに、ここで終わりか?

 必死で駆けつけるオオボラ。

 しかし、この距離ではさすがに間に合わない。


 オオボラは、門の出口に一つの荷馬車を見つけた。

 咄嗟に、馬の尻に剣を突き刺す。

 悲鳴を上げる馬。

 馬は驚き、慌ててまっすぐに駆け出した。

 そう、ガメルに向かって真っすぐに勢いよく駆け出していく。


 ぎゃぁぁぁぁあぁ!


 荷馬車の上で悲鳴を上げるタカトとビン子。

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