第133話 慰霊祭(2)
やっと、蘭華と蘭菊の母親の病気が治って、これからは、ちゃんと道具を売った代金を持って帰ってくるだろうと思った矢先に、第六の門の騎士の交代である。
新たな第六の門の騎士とのコネクションを持たない権蔵には、当然、道具の注文が入ってくるはずはなかった。
権蔵たちにとって第六の門からの依頼が途絶えたのは、非常に大きな痛手であった。
だが、第六の門から各門の宿舎への傷薬や毒消しの配給もエメラルダがいなくなると共に同時に止まっていた。
各門の宿舎は、あわてて高級傷薬などの手当てに奔走し始める。
しかし、エメラルダと同程度の傷薬などそうそう簡単には見つかる訳がなかった。
そこで以前から少しだけ取引があった第5の門の宿舎は、権蔵に目をつけた。
権蔵もまた、取引先を失い、新規の顧客開拓として、第5の門へ道具を納める提案に飛び乗ったのである。
今日は、その納品の初日である。
ただ、第5の門の宿舎の都合で、夕刻からの納入の約束であった。
権蔵たちは、いつもとは異なり、昼頃から荷物の積み入れを行い始めた。
しかし、その積み込みの作業には、タカトがいない。
タカトは自分の部屋で何かごそごそしている。
サボりであれば、権蔵の怒号が飛ぶはずなのであるが、今日にいたっては、権蔵は何も言わずに放っておく。
権蔵とビン子の二人だけで荷物を詰め込む。
よくよく考えると、タカトがいたとしても、実際に作業しているのはこの二人である。
その証拠に、タカトがいなくても、時間はあまり変わらなかった。
いや、邪魔する者がいない分、少し早く終わったのかもしれない。
「そろそろ時間じゃ、タカト!」
道具を積み終わった権蔵が、家の中に向かって大きく叫ぶ。
何も返事が返ってこない。
顔を見合わせる権蔵とビン子。
しばらくすると、家の中から何かを悟ったかのような賢者タカトが現れた。
「第五の門の宿舎に配達を頼むぞ。あまり失礼なことは言うじゃないぞ」
権蔵は念を押す。
「あぁ、分かってるよ」
タカトはそっけなく答える。
ビン子もなんでタカトが不機嫌なのかが分からないので、だんだんムカついてくる。
荷馬車の上でぷいっと横を向く
「それと、帰りはたぶん夜になるじゃろう」
何も答えずに荷馬車に乗り込むタカトの背を見ながら権蔵がため息をつく。
「今日は、この前の合戦の慰霊祭じゃ。花火も上がるはずじゃ。わしのとっておきの穴場を教えてやるから、帰りに二人でよって来い」
権蔵はタカトの頭を手招きして、近寄ってきた耳に小声で話しかけた。
「何があったか知らんが……ビン子も結構、精神的にまいっとる……お前から仲直りせい……男じゃろうが」
「分かってるよ……」
日がゆっくりと暮れていく。
星ぼしが、薄紫の夜空に姿を現し始めた。
第5の門への配達を無事終えたタカトたちは、権蔵が教えてくれた穴場へと荷馬車を進める。
ドーン
神民街の上で花火が上がる。
花火の火薬は兵器の国で作られているが、まだ、武器としての精度が高くないため、融合の国では実戦への配備は行われていなかった。
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