第二章 逃亡

第132話 慰霊祭(1)

 すがすがしい朝日が森の緑を照らしている。

 小鳥たちが、木々の上で互いに挨拶をしたかと思うと、井戸端会議を始めた。


 今日は誰にも起こされなかったのだろうか。

 ビン子が眠そうな目をこすりながら一人で奥の部屋からゆっくりと出てくる。


「おはよう」

「おー、おはよう。ビン子も朝ごはんにせい」

 既にテーブルについていた権蔵は、ちらりとビン子をみて、催促する。


「……」

 何も言わないタカト

 タカトは、もうすでにテーブルについて黙々と朝食を食べていた。


 権蔵は、タカトとビン子をそれとなく見比べた。

 しかし、見るだけで、特に何も言わずに、花の香りがするお湯をすすっている。


 ビン子が朝食を食べようとタカトの隣の椅子に座ろうとした。

 タカトは芋を口の中に無理やり詰め込む。


「ごちそうさま……」

 さっと立ち上がると、皿をもって奥へと入っていく。


「タカト!今日は特別に第5の門への配達じゃぞ!分かっとるか!」

「昼からでいいんだろ……」

 部屋の奥からタカトの声だけが帰ってきた。


「どうしたんじゃ……」

 権蔵が、タカトの不機嫌な様子をみて、一人で朝食を食べるビン子に尋ねた。


「さぁ!知りません!」

 ビン子もまた、いらいらしている。


 タカトは、ビン子がコウスケとケーキを食べた後から不機嫌であった。

 ビン子が話しかけても、適当に答える。

 ビン子が何かを頼んでも、忙しいと言い、作業机に向かってしまう。

 ビン子にも、さっぱり訳が分からない……



 自分の部屋に戻ったタカトは、ベッドの上に倒れ込んだ。

 普段は部屋に入ると作業机に向かうタカトであったが、ここ最近は、ベッドの上に直行していた。


 タカト自身も、なんで自分がムカついているかよくわかっていなかった。


 ビン子だけがケーキを食べたからなのだろうか。

 タカトもケーキを食べたかったのに食べられなかったからなのだろうか。

 それとも、ビン子がコウスケと楽しそうにケーキを食べていたためなのだろうか。


 しかし、今は、ビン子とあまりしゃべりたい気分ではなかった。

 作業机の道具たちが無造作に転がり、ここ数日、その動きを止めていた。


 天井を眺めていたタカトは、ため息をついてつぶやく。


「なんかつまんねぇ」


 おもむろにベッドの下に手を伸ばす。

 一冊のムフフな本を引きずり出して、顔の前に広げた。

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