第131話 別れと不安(7)
大門の低い鍵音が、ゆっくりと融合国中に響き渡っている。
融合国の国民たちは、皆、不安の面持ちで、一様に空を仰いでいた。
人々は不思議に思う。
本来、騎士の交代と共に、神民の任命も同時に行われるはずであった。
そうでなければ、門内の聖人国のフィールドが消えてしまう。
しかし、なぜか、新しい騎士は、神民を任命しなかったらしい。
魔人フィールドになった門内では、抗うこともできず、キーストーンが奪い取られたという。
新しい騎士は、馬鹿なのだろうか……
いやいや、どうも、新しい騎士は
やはり
きっと魔物と通じているに違いない……
そうでなければ、こんなバカなことが起こりえない……
人々は噂する。
人々の不安は、互いに共鳴し大きく育っていく。
ひときわ大きな音とともに、大門はその動きを止めた。
融合国の国民たちは、第6の門のキーストーンが魔人国の手に落ちたことを完全に理解した。
大きく育った不安は、はけ口を求めのたうち回る。
不安は、あらぬ噂を立て始める。
王はなんで
どうやらその
まさか、その
最近、王の噂を聞かぬが、もしかしたら、その
そして、不安はおのずと一つに向かい、まとまりだす。
そして、そのまとまった不安は、大きな黒い悪意となっていく。
これからどうなるのだろうか……
全てアルテラのせいだ……
アルテラのせいだ……
第六の門のキーストーンが奪われたのち、駐屯地の兵士達は誰一人と第六の門を開き内地へと戻ってこなかった。
もう、誰も生きていないのであろう。
人々は嘆き悲しむ。
私の息子が死んだのは、全部アルテラのせいだ!
主人を失い、私たちはどうすればいいんだ……
あぁ……愛する人を失った……
アルテラが悪いんだ……
全てアルテラが悪いんだ!
アルテラは、クズ公女!
アルテラは、バカ騎士!
アルテラなんか、死んでしまえ!
くしくも、一週間後に駐屯地の慰霊祭を控えていた。
慰霊祭では、花火を上げ、なくなった兵士たちの魂を慰める。
その式典には、新たな騎士であるアルテラも参加するらしい。
人々にとっては、アルテラに不満をぶつけるチャンスであった。
しかし、アルテラは、宰相で第一の騎士であるアルダインの娘。
手を出すどころか、侮辱するだけで、命の保証はできない。
なにもできない子羊どもは、侮蔑のまなざしを向けることしかできなかった。
口だけのチキン野郎どもは、陰でつぶやくことしかできなかった。
神様がきっとアルテラを罰してくれる、誰かがきっと仕返しをしてくれる、そのことだけを酒の肴に、彼らはひっそりと生きていくのだろう。
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