第127話 別れと不安(3)
歌声に誘われ荷馬車の周りに人々が集まりだした。
その歌声にみなが耳を奪われた。その踊りにみなが魅了されていく。
いつの間にか、そこには、大きな人の輪ができていた。
蘭華が静かにその手を下げる。
蘭菊の歌が静かにその音調を閉じる。
そよ風に揺れる草のざわめきがカサカサと要らぬ雑音をたてる。
その瞬間、割れんばかりの拍手が沸き起こった。
二人は恥ずかしそうにお辞儀をする。
タカトは調子に乗って荷馬車の上で聴衆を激しく煽る。
タカトのわざとらしく大げさに振る手に合わせて、手拍子が起こる。
「アンコール!それ、アンコール!」
聴衆たちからも同じく声が上がった。
うれしそうな顔をする蘭華と蘭菊。
蘭菊がもう一度、胸の前で手を組んだ。
優しく、涼やかな音色が漂う。
いつの間に荷馬車を降りていたのであろうか、ビン子がそっと歩み寄る。
ビン子もまた、歌いだす。
二人の歌声が、美しいハーモニーを織りなしていく。
周囲の風が、まるで七色に染まるかのように観衆たちの間を吹き抜けていく。
音色の風は人々の体に触れる度に、その肌を泡立たせていく。
歌声に釘づけにされた観衆たちは、さらに魅了された。
蘭華もまた、再び手をしなやかに伸ばす。
優雅に、そして、のびやかに舞っていく。
まるで白鳥が、水面で美しくその首を伸ばすかの如く。
曲調のテンポが上がる。
蘭華の両手が白鳥の翼のように力強く羽ばたいた。
白鳥のように優雅に、そして、力強く天へと舞い上がる。
よほど体が、うずいたのであろうか。タカトも、俺もと言わんばかりに、その輪に飛び込んだ。
しかし、所詮、タカトの踊りは、ラ○オ体操と万命拳の型。
到底、ダンスとはいいがたい。
せっかくの歌とダンスが台無しである。
今のタカトが舞っているのは、確かに、ラ○オ体操と万命拳のはずなのだが……
タカトの動きは、背中を合わせた蘭華とピタリと息が合っていた。
今まで不毛なダンスバトルを何度も繰り返し互いに競いあってきた。
そんな二人は相手の手の動きの一寸先が見えていた。
息があった二人の動きは、アンバランスさを残しながらも、妙に味わい深さを出している。
またまた、周りから歓声が上がった。
膝に手をやり息を切らす蘭華とタカト。
「意外とやるわね……」
「お前もな……」
幼女と青年は、お互いの健闘を称え、右腕同士を組みあわせた。
ある意味……はた目から見るとシュールな光景ではあったが、二人にとっては、完全に一体になれた誇らしい瞬間であった。
タカトたちに走り寄る蘭菊。
「本当にありがとうございました」
「素敵だったよ」
ビン子が蘭菊の手を握る。
嬉しそうに顔を見合わせる、蘭華と蘭菊。
満面の笑みを浮かべていた。
夕日に向かって帰っていく二人。
タカトは笑いながら大声で叫ぶ。
「おーい、お金はお前たちが盗んだものだからな。今度は俺がお前たちから取り返すからな。覚悟しておけよ」
振り返る蘭華と蘭菊は嬉しそうに手を振る。
「はい!」
「はい!」
「これは餞別だ!母ちゃんによろしくな!」
タカトは、手に持つ金貨を二人に投げて渡した。
「また、怒られるよ」
その様子を、嬉しそうにみているビン子であった。
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