第122話 プロローグ(2)
石で囲まれた暗い通路には、オレンジ色の光を落しているガラスのツボが両壁の上部に列をなして続いていた。
そのガラスの中では何かが怪しくうごめき、発光していた。
オレンジ色の通路を通り抜けると、突然、目の前に、大きな歓声と共に競技場かと思われる広場に大きな火の輪が広がった。
その輪は、トラックとおぼしきものに沿って、地面に二つの線を描いていた。
うす暗い夜空に赤い月が妖しく浮かぶ。
天空の星々を揺らすかの如く、魔人たちの大きな歓声が鳴り響いた。
スタートラインには、魔物たちが10匹並んでいる。
そして、その背には、人間とおぼしきものが騎乗していた。
魔物たちの足は、スタートの合図を今か今かと待ち望み、落ち着きなく動いている。
その魔物を制するかのように、人間たちは手綱を引くものの、魔物たちは、全く意に介していない。
ファンファーレが鳴り響く。
ひときわ歓声が大きくなるとともに、手拍子が沸き起こる。
オレンジ色の通路を抜けてきた一人の女が、誰かを探すかのように観客席を見渡していた。
その女のいでたちがメイド服であったのが目立ったのだろうか、女の周りに魔物とおぼしきものどもが集まってくる。
それらは、まだ、魔人と言うには人型になり切れていない魔物たちである。
人の脳を食べれば食べるほど、進化して人型に近づく。
目の前に人間がいれば、それは、格好のごちそうであった。
女を取り巻く魔物たちの口から、大量のよだれが流れ落ちる。
メイド服の女は、慌てる様子もなく、メイド服の胸に指をかけ布を引っ張る。
女の豊満な白い胸があらわになる。
「ちっ! ミーキアンの奴隷かよ……」
女の胸の刻印を見た魔物たちは、ぶつぶつと言いながら離れていった。
女は、たいぎそうに胸をしまうと、また、周りを見渡し始めた。
最高潮に達した歓声に導かれるかのように、スタートの合図が鳴り響いた。
一斉に走り出す魔物たち。
ダンクロールは、一瞬遅れるものの、激しい勢いで走り出した。
しかし、その背には、すでに人間の姿はなかった。
落下したのであろうか?
いや、ダンクロールが走り抜けた上空から血が滴り落ちている。
見上げると、巨大な蛇の三つの頭が、その騎手とおぼしき人間の体を奪い合い、引きちぎっていた。
その蛇の魔物は、三頭蛇のグレストールであった。
「グレストールちゃん! 頑張って!」
グレストールの所有者らしき大きな体の女とおぼしき物体が、体中の脂肪を揺らしながら叫んでいる。というのも離れてこの女らしき物体をみれば、紫の塊そのものなのだ。まさに、紫のウ●コ。いや、食事中の人がいるかもしれない。ここは、ソフトクリームと言い換えよう。そう、ムラサキ芋ソフト! しかし、形が違う。ソフトクリームのように長細いのではなく、三角なのだ。そして、巻数が三段。やっぱりウ●コだ! だがこのウ●コは、ただのウ●コではない。
そう、そのウ●コこそ、第5の魔人騎士であるシウボマであった。
一方、カマキガルは、スタートの合図とともに上空に舞い上がった。
羽ばたきながら、トラックに設けられた通過ゲートを目指して滑空する。
これは、魔物バトル。
数少ない魔人たちの文化の一つである。
その元は人間たちのバトルを真似して生み出されたということらしい。
その名残に、魔物の背には、意味も分からず人間を騎手としてのせていたのである。
この魔物バトル、ルールは簡単。
目の前のトラックにある通過ゲートをくぐりぬけ、先に三周、回ったものが勝ちと言う物である。
ただし、相手を食おうが、殺そうが、何でもありである。
魔人国では力こそが正義。
強者が、弱者を捕食する。
弱者は、強者の庇護下に入りその身を守る。
強者の所有物を害すれば、その強者に補食される。
これが魔人国の掟であった。
しかし、魔物バトルでは、そんな掟は関係なかった。
目の前のものをただ食らう。
それがたとえ魔人騎士の所有物であったとしても、ただその身を食らうのみ。
ただ、これだけであった。
人間をのせていないダンクロールが通過ゲートをくぐる。
この魔物バトルでは、人間はただのお飾りであった。
ダンクロールに続き、ライオン型の魔物ライオガルなど他の魔物たちが通過ゲートを次々とくぐっていく。
スピードを上げる魔物たち。
トラックを回り、スタート地点に戻ってくる。
しかし、そこには、よだれを垂らす三頭蛇のグレストールが3つの首が、戻って来る魔物たちを待ち構えていた。
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