第123話 プロローグ(3)

 ダンクロールが、グレストールめがけて突進する。

 力で無理やり押し通るつもりなのか。

 待ってましたとばかりに、グレストールの三つの牙がダンクロールを襲う。


 瞬時に、ダンクロールが加速する。

 残影が続く。

 むなしく空を噛むグレストール。


 他の魔物たちも追随する。

 しかし、グレストールの三つの頭は、それぞれ別の三匹の魔物たちを咥えていた。

 おいしそうに魔物を飲み込んでいくグレストール。

 その足元で、飲まれゆく魔物たちの騎手であった人間たちが、腰を抜かしておびえている。


 魔物を飲み込んだグレストールの喉がゆっくりと膨らんでいく。

 その横を、残りのライオガルたちが駆け抜けていく。


 そんな魔物たちを構うこともなく、グレストールの口が、目の前で怯えて動けない人間たちを、ゆっくりと優しく包み込んでいった。


 上空を飛ぶカマキガルにとって、地上のグレストールなど問題ではなかった。トップで2週目の通過ゲートへと飛び込む。


 しかし、カマキガルの速度は、通過ゲートをくぐり抜けた瞬間、ピタリと止まった。羽をさらにはばたかせるも、その場から動けない。


 慌てふためき暴れるカマキガル。


 その体に、糸のようなものがどんどんと絡みついていく。

 通過ゲートの影から、白い足が伸びる。ピンクの体が糸を伝い忍び寄る。

 鶏蜘蛛は、カマキガルに近づくと、その頭からムシャムシャと食らい始めた。

 糸に絡まるカマキガルの騎手。

「助けてくれ! 何でもする!」

 鶏蜘蛛の騎手に助けを求める。

「アホか! ここは魔人国! 弱いお前が悪いんだよ!」

 鶏蜘蛛の騎手は、その背中で笑った。


 しかし、その瞬間、大きな衝撃と共に、鶏蜘蛛の騎手の体はパンと弾け散った。

 いや、騎手だけではない。

 カマキガルを捕食していた鶏蜘蛛も、カマキガルと共に、その肉片をまき散らしていた。


 飛び散る肉片の中をダンクロールが凄まじい勢いで駆け抜けていく。

 そう、ダンクロールが、通過ゲートの真ん中で食事を楽しんでいた鶏蜘蛛に、よけることなく突っ込んだのだ。


「助かった……」

 カマキガルの騎手は安どの表情を見せた。

 しかし、体に絡み付くこの糸をどうしようかと思案していた矢先、その騎手の手に何かがかみついた。

 瞬時に、糸から引き離され、通過ゲートの前方へと投げつけられる。


 空を舞う騎手は、ライオガルの背に親指を立てて笑っている騎手の姿を見つけた。


 ありがとう……


 放物線を描いて落ちていくカマキガルの騎手。

 しかし、落下と共に激しく地面に叩きつけられた。

「イてぇ!」

 でも、これで助かったと、お尻をこすりながら頭をあげた。


 頭上から落ちてきた生暖かい水滴が騎手の顔をなぞっていく。

 見上げる男、そこには、後続の魔物の大きな口が開いていた。


 2週目も終わりに近づく。

 依然トップのダンクロールがグレストールの待ち構えるスタートラインへと戻って来る。


 また、速度を上げるダンクロール。


 スタート地点から全く動こうとしないグレストールは、先ほどと同じようにダンクロールに噛みつく。

 またもや空振りか?

 いや、今度は、血しぶきが舞い散った。

 どっちの血だ? ダンクロールの血しぶきか? それともグレストールのものなのか?

 猛然と駆け抜けるダンクロール。

 その背後でグレストールの頭が跳ね飛ばされていた。

 


 そのあとをライオガルが追う。


 ダンクロールに追突されたグレストールの一つの頭はフラフラと頭を振っている。

 残された二つの首がライオガルを襲う。


 ライオガルが、前足に力をこめ身をひるがえす。

 その瞬間、乗っていた騎手が勢い余ってグレストールに向かって真っすぐに飛んでいく。

 グレストールの一つの口が、その騎手に食らいついた。

 グレストールのもう一つの口が、その人間の体を寄こせと言わんばかりに、騎手の足を引っ張った。


 ここぞとはかりに、ライオガルがグレストールの脇へと走りこむ。


 ダンクロールがぶつかったグレストールの首が正気に戻ると、ライオガルを襲う。

 その刹那、ライオガルの体が、三つの分身にわかれた。


 騎手の足しか食べられなかったグレストールの一つの首が、ライオガルへと頭をむけた。グレストールの二つの頭が二体のライオガルにかみついた。

 しかし、牙が立つと同時にライオガルの姿はかき消える。どうやらかみついたのは残影の方であったようだ。


 ライオガルが、グレストールの背後を駆け抜けていく。

 グレストールちゃん、またもや空振り。

 しかし、こんなことではめげないグレストールちゃん。そんな失敗をものともせず気を取り直す。そう、グレストールの目の前には、遅れてやってくる2体の魔物が、まだいるのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る