第119話 凋落のエメラルダ(11)


 罪人の焼きごてを入れられたエメラルダは、手枷と目隠しだけを身にまとい、どこかに移送されていた。

 何者かが、手枷の鎖を強く引っ張った。

 とっさのことに体がついていかないエメラルダは、その場に前のめりに倒れこんでしまった。

 別の何者かが、倒れたエメラルダの髪を鷲掴みにし、顔を引きずりあげる。


「これは、これは、エメラルダさま。このようなむさ苦しいところにお越しくださるとは、ありがとうございます」


 その声に、エメラルダは、聞き覚えがあった。

 その何者かが、周りの誰かに指示するように声をかけるとエメラルダの目隠しが取り外された。

 エメラルダがうっすらと目を開ける。

 うんこ座りをしたジャックが、エメラルダの髪を鷲掴みにし、見おろしていた。


「ジャック!」

 とっさにジャックをにらみつけた。


「まだそんな反抗的な目ができるとは驚きだ!」


 掴んだ髪をそのまま後頭部に回しこみ、さらにエメラルダの顔を引き寄せた。

 反り返ったエメラルダの胸で、残った右胸が大きく揺れる。

 ブチブチとエメラルダの金色の髪が緊張に耐えきれず抜けて行く。

 痛みにエメラルダの顔が歪んでいく。


「懐かしいだろ。よく見ろ! 第六の宿舎だ。また、ここで働けるんだぞ。よかったな」


 痛みの中で、目を動かし、辺りを確認する。

 確かに第六の宿舎内の牢のような気がする。

 しかし、周囲に立っている、にやけた男たちの顔には、見覚えがない。


「誰か! 助けて!」


 エメラルダは、ありったけの力を込めて大きな声で叫んだ。

 第六の宿舎内なら、もしかしたら、カルロスや、ヨークたちがいるかもしれない。

 自分の声に気づいて助け出してくれるかもしれない。

 ジャックは大笑いする。


「叫んでも、誰も来ないぜ。ここには俺たちだけだ。しかも、駐屯地の部隊は、全滅だとよ」


 信じられないエメラルダは、言葉をつまらせ、嘘と言ってと懇願するようにジャックを見つめる。


「仕方ないよな! いきなり聖人国のフィールドが消えたんだからな。そりゃ、勝ち目ないわ」


 エメラルダの顔が震えだす。


「そいつら殺したのは、お前だぜ!」

 ジャックは、エメラルダの顔をさらに近付け、にらみつけた。


「イヤ……イヤ……イヤァァァ!」

 エメラルダは、叫んだ!


 エメラルダの激しい抵抗により、ジャックが掴んだ髪がすべて剥がれ落ちた。

 エメラルダの額に一筋の血が垂れた。

 ジャックは、手に残った髪をまるで汚いものが手についたかのように投げ捨てると、エメラルダを見下しながら立ち上がる。

 周りの男の肩をポンと叩くと、出口に向かって歩きだした。


「あとは、みんなで存分に楽しみな。罪人だから、気にする必要はないぞ!」

「ジャック様。ありがとうございます」


 嫌らしい笑みを浮かべた男たちがエメラルダに近づく。


 牢を出るジャック。

 エメラルダの悲鳴が背後の牢に響き渡った。

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