第105話 ウサギさん!さようなら(5)
謁見の間では、大きな椅子に肘をつき腰かけるアルダインがいた。
そして、その横にスラリとしたスーツに身を包んだネルが立っていた。
スリットからのぞく白い太ももが、暗い謁見の間でひときわ目を引いた。
アルダインの前で守衛とオオボラが膝まづき、頭を下げた。
顔をあげた守衛がネルへと報告する。
「手紙を持参したものを連れてまいりました」
「下がれ!」
「御意」
守衛は頭を下げると、ネルの命令に従い謁見の間から出ていった。
残ったオオボラを椅子に座ったアルダインの目が鋭くにらみつけていた。
封筒から出された手紙をすでに読んだのであろう。
手紙を手に持ちながら、アルダインはオオボラに問う。
「お前はこの手紙の内容を見たのか」
「見ておりません」
手紙には封蝋がされており、その封蝋はネルの手によってはがされていたのである。
ネルから封蝋が偽造されていないことを告げられていたにもかかわらず、アルダインはオオボラに問うたのである。
肘をつきながらアルダインの目はオオボラを微動だにせず冷たくにらんでいる。
「では、中身がなんであるか知っていたのか」
「いえ、全く存じておりません」
アルダインは、くどいように同じ内容を、言葉を変えて質問した。
「第六の宿舎ではなく、なぜ、ここにも持ってきた」
「ここならば、私の希望を必ずや聞き届けてくれると思った次第です」
「内容も知らずに、自らの希望がかなえられると思ったのか」
「はい」
手紙の封蝋には第六の門の騎士エメラルダの印がついていた。
まぎれもなく、その手紙はエメラルダが書いたものであった。
しかも、その手紙が、魔人国と聖人国をつなぐ小門の中に落ちていた。
オオボラは、この状況のみでその手紙が重要な手紙であると感じ取っていた。
しかし、その手紙を第六の騎士エメラルダに渡すことなく、第一の騎士アルダインへと手渡したのである。
不遜な目で見つめるアルダイン
「して、その希望とは」
「私を、ぜひ、アルダイン様の神民にしてください」
大声で笑うアルダイン。
「お前を、わしの神民だと。大きく出たな。命は惜しくないのか」
「命は惜しいですが、それ相応の内容かと思います」
オオボラは、アルダイン相手に勝負に出る。
ここに自分が呼ばれたことが、その手紙に書かれてある内容の重要性を物語っていた。
スッと笑いが消えたアルダインは、側のネルに手紙を無造作に手渡した。
「よかろう。ワシの神民に加えてやろう」
「ありがたき幸せ」
オオボラは再度、頭を下げた。
その目からは、怪しい笑みが漏れていた。
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