第104話 ウサギさん!さようなら(4)

 小門を飛び出したオオボラは、森をかけ抜け、小汚い町へと急ぎ戻った。

 薄暗い自分の部屋に入ると、オオボラは古い木の机の上に手紙と金貨を無造作に置いた。

 金貨が7枚が窓から差し込む光を反射した。

 そして、オオボラは、鏡を見ながら髪を整える。


 ――髪も整えておくか……


 誰もいないはずの部屋の中を伺うように確認すると、机の下の箱の中に手紙を隠す。

 それから、金貨をポケットの中に無造作に突っ込むと、部屋から飛び出していった。


 ほどなくして、薄汚れた部屋のドアが開き、オオボラが帰ってきた。

 先ほどまでの小汚い恰好とは異なり、ぴっちりとしたスーツ姿である。

 何も手入れがされていなかったぼさぼさの髪はオールバックに整えられ、清潔感が漂っていた。

 見るからにできる男……若干、詐欺師のようにも見えた。


 オオボラは箱の中にしまった手紙が盗まれていないことを確認すると、胸の内ポケットへとしまった。

 部屋の中をゆっくりと見渡すオオボラ。

 名残惜しそうに、椅子の背もたれに手をかけた。

 大きく息を吸い込み、意を決したオオボラは、ドアへと向きを変えた。

 部屋を出たオオボラは、ゆっくりと確実にドアに鍵をかけ、光り輝く外へと歩き出した。



 土がむき出しの道を歩くオオボラの足は、一般街の石畳を通り城門の方へと向いていた。

 しかし、城門は城門でも自分の近くにある第6の城門ではなく、なぜか反対側の第1の城門へと歩いていく。


 第1の城門を守備する守備兵がオオボラを呼び止める。


「ここから先は神民街だ。通行証はあるのか?」


 オオボラは守備兵をちらっと見る。


「この通行証で構いませんでしょうか」


 オオボラは守備兵の手を取り、持っていた金貨をすべて握らせた。

 手の中の金貨を覗き見る守備兵。顔がにやける。

 辺りを見渡した守備兵は、さも通行証を確認したかのように、大声でおらぶ。


「うむ、この通行証でいいぞ。しかし、早めに外に出るようにな!」


「ありがとうございます」


 鋭い目つきのオオボラは丁寧に頭を下げると、さっそうと神民街の中に入っていった。



 神民街に入ったオオボラは、宰相であり第一の騎士であるアルダインが住まう王宮へとまっすぐに進んだ。

 王宮の前についたオオボラは、入り口の守衛に言伝をすると、胸ポケットに入っている手紙を手渡した。

 面倒くさそうに守衛がドアを開けて中へと入っていく。

 その姿を見送ったオオボラは、その場に直立不動の姿勢で微動だにしなかった。

 残った守衛が、直立して待つオオボラを不思議そうに見つめていた。


 しばらくすると、先ほどの守衛があわただしくドアを開け戻ってきた。

 その顔は明らかに緊張し、尋常な様子ではなかった。

 守衛は大きな声でオオボラを呼ぶ。

 その結果を知っていたかのように、オオボラは静かにドアをくぐると、守衛に続き、謁見の間への廊下を歩いていった。

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