第102話 ウサギさん!さようなら(2)
土手の上を進む荷馬車。
タカトとビン子がゆっくりと揺れている。
運転席に座る二人の距離は、以前と変わらぬ距離なのに、なんだか少し離れたような気がするのはなぜなのだろう。
ビン子は、そっとタカトのシャツを掴んだ。
うん……?
タカトが何だとビン子を見つめようとしたとき、荷馬車の前に人影が走り出た。
「タカト! 今日こそ勝負だ!」
無駄に元気なコウスケであった。
タカトは、手綱を引き馬を止めると、荷馬車に肘をつき馬鹿にしたような目でコウスケを見下す。
「コウスケ……毎日毎日、暇だな。お前……」
「ビン子さんと結ばれるまで、俺は引き下がらん」
コウスケを見たビン子の顔は、少し赤らみ下を見つめた。その変化に気づきもしないタカトは、コウスケを取り除くかのように大きく手を振る。
「もういいから、邪魔だ! どけよ!」
タカトがそういう態度をとることを予想していたコウスケは、腕を組みながら、タカトをにらみつけている。今日のコウスケは一味違う。何か策があるようだ。
「タカト。お前も道具を作る者なら! 俺と勝負だ!」
「はぁ? なんでお前と勝負せにゃならんのだ……」
あきれるタカトをよそに、コウスケが不遜に微笑む。
「ほほお。俺に負けるのが怖いのか。まぁ、そうだな。下らん道具ばかり作っているおまえでは、勝負にはならんな!」
明らかにタカトを挑発している。こんな見え見えの挑発に乗るやつはいないだろう。
「何を偉そうに! よし、その勝負受けてやる!」
いや……ここにいた。挑発にまんまとはまったタカトをみてコウスケは、してやったりと言う顔をしている。
「勝った方が、ビン子さんに告白できるのだ! いいな!」
――うん!? もし、俺が勝ったらビン子に告白……なんで?
「それは、俺に関係なくない……?」
勝負の理由が一瞬よくわからなくなったタカトは、少々混乱した。
そこなんで否定するのよと言わんばかりにビン子がタカトをにらみつける。タカトの様子を見て焦ったコウスケは、気が変わる前に言質を取ろうと言わんばかりに、矢継ぎ早に勝負の内容を語りだした。その口調から、内容はすでに考えていたようである。
「それでは、題材は『輝ける世界を見つめるもの』。審査はビン子さんにしてもらう」
ビン子は自分を指さして、なんで私がと言うような顔をし、コウスケとタカトを交互に見つめている。しかし、そんなビン子は、タカトにとってアウト・オブ・眼中であった。二人の勝負の日程が粛々と決まっていく。
「いいだろう! して、勝負の日は!」
「今日から1ヶ月後、集合場所はケーキ屋「ムッシュウ・ムラムラ」の前だ!」
「よし、わかった。あとで吠えずらかくなよ」
訳も分からずに巻き込まれてしまったビン子は、ため息をつく。
「ねぇ、コウスケ……今の時間帯は神民学校じゃないの……」
「うっ……! まだ、間に合うか!?」
どうやら出席日数がぎりぎりのようである。
まぁ、毎度毎度ここでタカトたちの邪魔をしていれば、毎日遅刻するのは当然であろう。
「お前、留年確定なんじゃないのか」
コウスケを指さしながらタカトは笑う。
「学校などいつでも行けるわ!」
その言葉にムッときたタカトは、声を荒立てた。
「お前な! 学校行きたくてもいけないやつもいるんだぞ!」
「そうか。なら代わってやるぞ!」
「どうやって代わるの?」
ビン子もあきれた様子で問いかける。
「知らん!」
こいつ俺よりバカなんじゃないだろうか……
言葉が出ないタカト。
「早く行きなさい。学校は大事よ」
ビン子が優しく諭す。
「分かりました。ビン子さんがおっしゃるなら。タカト! 勝負をわすれるなよ!」
コウスケは言い終わると、城壁の方へ猛然とダッシュし始めた。
タカトは、なんか朝のすがすがしい気持ちが台無しになってしまったような気がした。
ビン子は、せっかくつかんだタカトのシャツをもう一度つかむ勇気がもてなかった。
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