第101話 ウサギさん!さようなら(1)

 今日も無駄に天気がいいようである。老馬が、足元を歩くアリに鼻息をかけて遊んでいる。背につながれた荷馬車に、今日も、ビン子が頑張って一人で荷物を運んでいる。

 一体タカトはどこに行ったのであろうか。


 入り口の横で防具が雪崩を起こして倒れている。

 よくよく見るとタカトが防具の下敷きになっていた。

 助けを求めるべく手を伸ばすも、だれにも相手にされない。

 その手がピクンピクンと痙攣をおこしている。

 どうでもいいが、これは、本当に死にそうなのかもしれない。


「早く運べ!」


 権蔵が防具を持ち上げると、タカトの頭を足で小突いた。

 タカトの手が力つき地に落ちる。

 そんなタカトを無視するかのように、権蔵は防具を荷馬車へと積み込んだ。荷馬車がシーソーのようにすこし傾く。


「タカト、これは別件だ。これを金に換えて来い!」


 荷物がなくなったことを確認したタカトは、復活の呪文でも唱えたかのように、ピンと復活していた。

 権蔵から小さな小瓶を受け取ると、まじまじとその中身を見つめた。

 小瓶には透き通る青く光る液体が入っていた。


「じいちゃん、これは何?」


「それは、スライムから作った万能毒消しじゃ」


 権蔵はしんどそうに荷馬車に腰かけながら、つぶやいた。


「それは、ぜったに盗まれるなよ。絶対に! 何度も言うが盗まれるなよ!」


「分かってるって」

 いつも通り根拠のない自信を示すタカト。


「もう一回いうぞ! それは絶対に盗まれるな!」


「俺を馬鹿扱いするなよ。大丈夫だって!」


 胸を張るタカトを心配そうに権蔵は見つめる。

 ビン子は権蔵がいつにもなくしつこく言うことが不思議であった。


「それ1個しかないからな。本当に分かっとンのか……」


「大丈夫、まっかせなさい!」


 胸を張るタカトと心配そうに見つめる権蔵を見比べるビン子。

 ビン子は何かに気づいたようである。

 ビン子は微笑みながら権蔵に念を押す。


「大丈夫。ケイシ―さんのコンビニに売りに行けばいいんでしょ」


「そうじゃ」


 権蔵はビン子の言葉に、やっと安堵の表情をのぞかせた。


「あれ、あの店って買取してたっけ?」

 いまだ分かってないタカトであった。

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