第78話 タカトとオオボラ(1)
権蔵たちは、魔抜きをしたダンクロールを解体しはじめる。
権蔵は慣れた手つきで、手際よく豚を、皮、肉、骨ときれいにさばいていく。タカトは、カマキガルの時とは異なり、丁寧に骨から身をそぐと、肉を塩水につけていく。
ビン子は、近くの石に腰を掛け、はがされた皮から油をそぎ落としている。
一通り作業が終わった権蔵が、腰をたたきながら立ち上がり、タカトを呼んだ。
「おーい、タカト、この前の折れた小剣を持ってこい!」
肉を塩水につけ終わったタカトが、手をふきながら、近くの石に腰を掛け直した権蔵のもとに歩いてやってくる。
「この前やった小剣を出せ!」
「えー、もう返せとかいうの。じいちゃんセコくない」
「アホか! お前と一緒にするな」
権蔵は、おもむろにポケットから牙を取り出し、タカトに見せた。
「これはお前が戦ったダンクロールの牙じゃ。魔抜きをする前に抜き取っておいた」
タカトは目を皿のようにして、その牙を凝視する。あきらかに、その牙に興味津々の様子である。
「初めてにしてはよく頑張った。小剣を直すついでに、この牙を重ねて融合してやろう」
タカトは驚きながら折れた小剣を権蔵に手渡す。
「じいちゃん、融合加工の上に融合加工を重ねることってできるのか!?」
権蔵は得意げに答える。
「基本がわかっていれば可能じゃ」
タカトから小剣を受け取った権蔵は、腰を上げ家の方へと歩き始める。
「しかし、最近の融合加工は魔血やら肉体融合やらよくわからんから、今の技術ではどうなのかは知らんがな」
金魚の糞のように付きまとうタカトをうっとうしそうに見つめる。
「わしが知っているのは、大昔のカビが生えた技術じゃからな。しかし、その基本はどんなことにも利用できる、基本を忘れてはいかんぞ」
権蔵は、大事なことを教えるかのように、付きまとうタカトの頭に手を置き、その動きを制する。
「じいちゃん。融合加工の基本って何なんだよ」
権蔵はあきれて答えた。
「お前は、そんなことも分からずに融合加工やっておったのか……・」
ため息をついた権蔵は、初学の子供に教えるように優しく教え始めた。
「この世にはすべての物質に気が宿っておる。無機物の石にも生き物、そして人や魔物にもじゃ。その気が万気じゃ。そして、生き物に宿る万気は命の源となり命気となる。当然、命気が消えると命がなくなる。その命気から発せられるのが生気である。生気が多ければ体は元気であり、生気が少なくなれば、体は弱まる。戦うものはこの生気を闘気へと高める。騎士にでもなれば、その闘気は覇気にまで高められる」
タカトは、そんなことは知っとんねんと言う風に、鼻くそをほじりながら聞いている。
権蔵はタカトをにらむ。
タカトの指がびくりと動く。鼻から出てきた指には、若干血にまみれた鼻くそが糸を引いていた。
「融合加工においては、融合すべき物体、この場合は小剣の万気に魔豚の牙の万気を重ねるんじゃ。重なり合った万気は、互いに混ざり合い、新たな万気へと進化する。万気の中心を正しく見極めれば、いくらでも融合加工は可能じゃ。しかも、開血解放には一滴の血で十分となる」
タカトは指についたはなくそを丸めて、ピンと指ではじくが、ひっついてなかなか取れないらしい。そして、タカトは、指についた鼻くそをにらみつけ、何度も何度も指をはじきながら権蔵に聞く。
「じいちゃんって、万気が見えるのか」
「ワシにも万気は見えん。経験によってその中心のずれを把握し、道具を仕上げるんじゃ。何度も何度もやっていくうちに、そのうち体が分かるようになってくる。繰り返しじゃよ」
やっと鼻くそが指から離れ、うれしそうな表情を見せるタカトの頭の上に手を置き、家の中に入ろうとする。
タカトがそんな権蔵の背中を呼び止める。
タカトの手にはいつの間にか、ダンクロールの鼻が握られていた。
「じいちゃん、この鼻、くれないか?」
「何に使うんじゃ?」
いやらしくタカトの目と口が緩む。
あきれる権蔵は、勝手にしろと言わんばかりにそっけなく手を振った。
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