第57話 激闘?福引会場?(30)勤造の娘
蘭造……それは「情報国」の忍者マスターの名前、すなわち聖人世界の情報を統べるものである。
もしかして、このじい様が蘭造なのであろうか?
そうなのだ……だが、「情報国」と「融合国」とは現在、第二世代時に起きた大量誘拐事件のため険悪な状態に陥っており、蘭造は表立って融合国内で姿を現すわけにはいかなかったのである。
だが……どうしても孫である蘭華と蘭菊が心配でたまらない……
忍者マスターであるにもかかわらず、日々の偵察業務をほっぽりだして毎日、二人の孫娘を見守っていたのである。
まぁ、だいたい、蘭造が仕事をしなくとも、配下の忍者たちが情報を集めてくれるので、特に問題になるということはなかったのだがwww
うん? ちょっと待てよ……
ならば、この蘭造が蘭華と蘭菊に救いの手を差し伸べればよかったのではないだろうか?
先ほども言ったように、現在「情報国」と「融合国」とは険悪な状態なのだ。
常に、両国は互いに互いのスパイを警戒しているのである。
当然ながら、「情報国」から移住してきた蘭華と蘭菊の母親である紅蘭にもスパイ容疑がかかっており、常に監視の目がついていたのである。
実際に、かつて若かりし頃の紅蘭はアルダインの手によって拘束されていたのである。
だが、それも、ある事情と引き換えに身柄を解放されたのだ。
その時に、「情報国」に帰っていればよかったものを、なぜかいまだに「融合国」に残り続ける紅蘭。しかし、それには、人に語ることができない理由があったのだ。
そんな紅蘭の娘である蘭華と蘭菊には当然に監視の目がついていてもおかしくはない。
二人に直接手を貸そうものなら、そこから蘭造の素性が表に出てしまいかねないのだ。
しかも、ここは融合国。
融合国の騎士が出張ってくれば、さすがに忍者マスターの蘭造といえども太刀打ちできない。
もし、蘭造が融合国の手に落ちるようなことがあれば、情報国も黙っていない。おそらく、二国間は険悪な状態を通り越して戦争状態に陥る可能性すらあるのだ。
――そんな危険は冒せない……
だから、蘭造は歯がゆい思いをしながらも、蘭華と蘭菊を見守り続けていたのである。
そんな蘭造が、写真に残された暗号を見ながら渋い顔をしていた。
というのも「アイナを探す」という意味がしっくりこないのである。
そもそも写真に写っているのがアイナではないのか?
だが、この瞬間、蘭造は思考を巡らせた。
それは、迷探偵タカトとの我欲から推理したのとは異なって、あらゆる情報から現状を認識したのである。
――確か……アイナとはかつて大門をこじ開けた魔人世界の創造主たるアダムの従者。しかも、中でも人間ほどに知恵と感情を有していたという。
そんな従者であるアイナに勤造の娘が扮しているとはおかしな話である。
そもそも、真音子の本来の容姿はアイナのそれとはまったく異なる。
それを、わざわざアイナの姿に似せて、しかも、聖人世界のトップアイドルにまでになって8つの国を飛び回っているのだ。
まるで誰かにアイナの存在を見せつけるかのようではないか。
だれに?
もしかして、真なるアイナにか?
だが……確か……10年ほど前……融合国の第七駐屯地でアダムの従者たちの騒乱が起こった時……そこで、アイナは……勤造の手によって……殺された……はず……
しかし、その時、一緒に滅ぼしたはずのガイヤとオレテガ、マッシュは10年たった今、またもや復活を果たしているのだ。
ならば、アイナもまた……復活していてもおかしくはない……
だが、アイナの死は他の三人と違って、勤造によってしっかりと封印されたはずなのだ……だから……そうそうに復活などできはしない……
そもそも、アダムの従者たちの動きから察するとアダムと反目しているようにも思われる。
というか、今頃になってアダムの復活などありえるのだろうか?
もし、復活するというのであれば、やはり、アイナたちはその復活を阻止しようとしているのだろうか?
それとも……従順なる従者としてアダムを復活を手助けしようとしてるのだろうか?
特に従者のなかでも頭が切れるアイナのことである。
その真意はガイヤやオレテガ、マッシュたちにも打ち明かしてないだろう。
そういった意味では、ガイヤやオレテガ、マッシュなどアイナがいなければ何もできないのである。
はっきり言って、現時点では何ら脅威にはなりえない存在なのだ……
だが、もし仮に……ここでアイナが復活を果たしていたとすれば話は変わってくる。
ガイヤたちがアイナとともに動けばそれは世界の脅威になりうるのだ。
そんなアイナの思惑一つによって、再び世界が混沌に帰するかもしれないのである……
だからこそ、勤造はアイナを探し出し、その真意を確かめようとしているに違いない。
だがそれは、もしかしたらアダムの従者との戦闘を意味するのかもしれないのだ。
いかに忍者マスターの座を争った勤造であったとしても、最悪、命を落とすことにもなりかねない……
本来……実力では蘭造に勝る勤造。
だが、跡目争いの内乱をおそれ自ら忍者マスターの座を降りたのである。
かつて昔、「情報国」を出奔しようとしていた勤造に声をかけたことがあった。
その日もこんな夕刻……街の風景が見える小高い丘の上だった記憶がある。
「必ず情報国に帰ってこい……勤造……」
「蘭造……俺は忍者マスターになりたいとは思ってないんだ……それより、もっと大事なことがあるんだ……」
「……だが、周りの者はお前が忍者マスターにならないと納得しないものもいるだろう」
「そうか……なら、俺はお前にビビって逃げたことにしておこうwwwそんな、腰抜けに忍者マスターを任せたいと、普通、思わないだろうwww」
「本当にそれでいいのか?」
「構やしないさ。さっきも言っただろ。俺にはしないといけないことがあるんだって」
「ならば……この
「それは忍者マスターの証。正統な後継者たる蘭造、お前が持っておくものなんだよ」
「いや……これは今から俺と勤造、お前との友情の証に変わったんだ……だから……」
おそらく、勤造もその
分かっていたはずなのに、自分に返してきたのである。
間違いなく、勤造は己の死を意識している。
そうなる前に、この
もし……この考えが正しいのであれば……
勤造がこの少年に
というのも、勤造が直接返しに来たとしたら、おそらく、自分は返還を拒絶するだろう……
それどころか……勤造の覚悟を前にすれば……おそらく自分は忍者マスターの地位を投げ捨て勤造の手助けをしに走るかもしれないのである。
そうなれば、情報国はどうなる?
だが、それは勤造の望まぬところ……に違いないのだ。
蘭造は急にタカトを離した。
それどころか、さも何事もなかったかのようにタカトの肩をササッと払うのだ。
そして、タカトの目を強い眼差しで見据えると、深々と頭を下げたのである。
「それでは、貴殿に改めてお願いする。その
だが、そんな礼儀正しい態度を前に、タカトは当然!
「あほか! つかみかかった上に、この
と、アッカんべぇ~www
しかも、それどころか蘭造の持っている写真をパッと取り返したのである。
さすがは我らのタカト君!
相手が忍者マスターという強者であってもブレることなく喧嘩を売ってくれるww
勝ち誇ったかのように腕を組み反り返るタカトとは逆に、ビン子は蘭造を心配そうに見つめていた。
「タカト……このおじいさんには何か事情があるみたいだよ……」
それを聞くタカトは顔を横に反らす。
「そんなこと知るか! だいたいな、あんなに感情的になるってことは、この
イヒヒといやらしい笑みを浮かべるタカトは、まったく渡す気はないようである。
それどころか、もうすでにタカトの頭のなかでは、この
――おそらく、この石っころ、売れば、金貨2枚ほど(20万円)にはなるだろう。そうすれば、アイナちゃんの写真集どころか、極め匠シリーズの道具だって買えるかもwww
前回……そう、あの時も金貨2枚だった……
いつもの配達代金と権蔵の言いつけを破り第一の駐屯地に毒消しを運搬した代金、併せて金貨2枚を、何をトチ狂ったのか……蘭華と蘭菊にあげてしまったのだ……
まぁ、仕方ないといえば仕方ない……
母親が病院から追い出されると聞けば、ついつい何とかしたくなるというのが人情というものだ……
だが!
今回はジジイだ!
可愛らしい幼女たちではない!
ならば、前回と同じ轍は踏まぬ! 断じて踏まぬ!
そう!
――この金は俺のもんだぁぁぁぁぁぁ!
だが、タカトのどや顔もそこまでだった。
というのも、蘭造の恐ろしいまでの冷たい目……いや、殺気のこもった眼がタカトを貫いているのだ
「そうだ。小僧、お前にはその価値が分かるまい!」
低く抑揚のない声なのだが、それがかえって恐怖を誘う。
まるで今すぐタカトをシバきたい……いや、殺したいという感じがビンビンと伝わってくるのである。
――小僧……一人ぐらい殺したところで問題などないだろう……
だが、勤造があえてタカトに託した思いとやらを考えるとそれでは筋が通らないような気がするのである。
シバくも地獄……耐えるも地獄……
いつしか蘭造の額に浮かび上がった青筋がピクピクと引くついていた。
そして、我らのタカト君。
こういう気配にはいち早く気付くところを見ると、きっと前世はゴキブリだったに違いないwww
だが、そのゴキブリの感覚をもってしてもタカトの体が動かないのである。
というのも、タカトが何か言おうとした瞬間、目にも止まらないスピードでゲンコツが飛んできそうな気がしてならないのだ。
この状況はまるで……アシダカグモに睨まれたゴキブリのよう。
すなわち! 絶体絶命!
だと思うだろうwwww
――ところがどっこい! 実は俺、こう見えても凄いスキルを持ってたりするんだよね~www
そう……以前、鑑定の神ミズイによって教えてもらった2つのスキルの内の一つ。
「万死一生!」
万死一生……それは死を万とすると生はわずか一。
それほどきわめて危険な状況からかろうじて助かることができるというスキルなのである!
――ならば! このタカト様がこのいかんとしがたい状況を打破してみせようではないか!
得意げに高笑いするタカトの脳内で起動するスパコン腐岳が、どうやら一つの計算結果にたどり着いたようである。
――さあ! スパコン腐岳よ! 俺に、この難局を打破する方法を教えろ!
ぴっ……
ぴっ……
ぴっ……『命は大切にね♡』
――なんですとぉぉぉぉ!
こっ……この答えはまさか! 俺に無条件降伏をしろとでも言っているのだろうか?
というか、これ以外に生き残るすべはないということなのか?
万死一生をもってしても、助かる見込みなし……
――役に立たねぇ……俺のスキル……
いやいや、タカト君www 無条件降伏すれば助かるんだから、ちゃんと万死に一生得てるじゃないのwww
――アホか!
瞬間、タカトの額から脂汗というか、冷汗というか……とにかくイヤな感じの汗が一気に噴き出したのである。
「もう一度言う、その
蘭造は返せと言った。
さも、その
「いやぁ……ただではイヤだなぁーと思いまして……ですね……」
まあ、そんな事に気づくほどタカトに余裕があるわけではなく……ビクビクとおびえながら、何とか言葉を紡ぐの精いっぱいだったwww
だが、そのタカトの反応に、さも当然と言わんばかりの蘭造は少し身をひるがえし、先ほどまで自分が座っていた道の端を指さすのだ。
「ただでとは言わん。代わりに私が描いた絵の中から好きな絵を持って行きたまえ」
そこには等身大のポスターからゴマ粒の表面に描いたものまで十数枚の絵が並べられていた。
――うーん。
タカトはそんな絵たちをチラりと見ながら首をかしげる。
というのも、タカト好みの絵がないのである。
なんというか……こう……エロさが足りないのである。
絵画といえば裸婦像!
裸の女性が顔を赤らめ恥ずかしそうな視線を送る……
これこそ人間! いや男性の本能、欲望を掻き立てるゲイジュチュというものである!
だがすでにタカト君の欲望は、そのゲイジュチュ領域をも凌駕している!
そう、現代においてエロチシズムはさらに進化を遂げていたのだ!
いまや現代人にとって、ただ単なる裸婦像を見ただけでは想像力が掻き立てられないのである。
そこにストーリーはあるのか?
見た者にこの女性を抱きたいと思わせるような激しい衝動を与えらているのか!
まさに、ゲイジュチュとは絵をもって見るものに問いかけるのである。
お前は、この女を抱きたいのか? 否かと!
だからこそ、現代のゲイジュチュはその欲望のままに裸婦像を装飾するのである。
それは荒縄であり、はだけた着物であったり、ロウソクであったり……
ちなみにロウソクは垂らすだけのモノではない。あの揺れる炎が作る陰影が、女の肌を怪しく美しく引き立てるのである。
あぁぁ! 想像するだけで、パちんこ玉赭ブローが起動してしまいそうだ!
――あっ! こんなところにさっきビン子からもらったティッシュが1枚www
ちょっと、使っちゃう?
使っちゃおうかwww
使っちゃえwww
ということで、なんかいやらしい妄想を膨らませていたタカト君は、ニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべながら膨らんだズボンのポッケに手を突っ込もうとしたのである。
だが、その時!
ビシっ!
「変態!」
と、ビン子のハリセンがタカトをシバいたwww
というか、ビン子ちゃん……タカトがSMチックな妄想を抱いていたのがよく分かりましたよねwww
――当然! タカトの事なら何でも丸っとお見通しよっ!
頭をこするタカトは、ハッと我に返った。
そう、ここは、外! 公衆の面前である!
こんなところで、パちんこ玉赭ブローを発射させようものなら、守備兵たちにわいせつ物チン列罪で逮捕されかねない。
――俺は一体何を考えていたんだwww
だが、この時、タカトは気づいていなかった……叩かれた拍子にアイナちゃんの入浴写真を落としていたことにwww
まぁ、絵画はエロ本ではないので仕方ない……だからこそ、それが無修正であったとしても芸術における表現の自由という事で世に問うたとしても問題ないのである。たぶん……
という事で、とりあえず、一番大きな胸の絵はないだろうかと見比べていると、ついに一つの等身大ポスターに行きついたのだ。
そのポスターに描かれている二つの胸は巨大なスイカ!
だが、その肌質はとてもソフトに、そして、柔らかそうに描かれていたのである。
特に自ら胸を支えた両の指が薄い布地を通してその下にある脂肪に食い込んでいる様、しかも、その細い指先に沿って深い陰影を作りだしているところなどはエロい!いや、秀逸である。
再びズボンの真ん中にテントを張り始めたタカトは、それとなくぼそりと呟いた。
「……これがアイナちゃんだったらな……」
それが服を着ている絵だとしても、蘭造によってグシャグシャにされたアイナちゃんの入浴写真に変わるのであれば、それでもよしと思ったのだ。
だが……
はぁ……と、大きくため息をつくタカト。
そう、この絵の中にはアイナちゃんはいなかったのである。
だが、そんなタカトに蘭造が思いもしないような言葉をかけたのであった。
「よく分かったな。それが勤造の娘だぞ」
!?
うん?
……?
って! ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!
先ほどのスパコン腐岳の計算結果では、勤造の娘=アイナちゃんという結果になったのだ。
「な! な! なんですとぉぉぉぉぉぉ!」
ということは、この女がアイナちゃんという事になるではないか!
だが、それはアイナちゃんとは似ても似つかわしくない女の姿。
いや巨乳という点では同じぐらいの巨乳なのだが……それ以外が全然違うのである。
七色に染まるウェーブの髪をゆらすアイナに対して、それは黒髪ボブでメガネをかけた少女。
確かにその少女……可憐といえば可憐なのだがアイナちゃんと比べると何か野暮ったいのである。
例えるならば……アイナちゃんが咲き乱れる桜の華であるとするならば、この少女は道の傍らに咲く一輪のヒナギク。
なんか存在感が全然違う……いわゆる垢ぬけていない田舎女ってやつ! 要は影が薄いのだ! 影が!
そんな存在感が薄いにもかかわらず……その眼光だけはやけに鋭い。
顔は満面の笑顔を作っているのだが……その目だけは笑っていないようにも見えるのである……
怖い……
それは……まるで……人の命など、まったく関心がないかのような冷たい目……
見たことはないが、おそらく殺人鬼の目が、こんな感じなのかもしれない……
そう、アイナちゃんの希望に満ちたあのキラキラした目とは、まさに正反対なのである。
――これが……アイナちゃん?
その絵を角度を変えて何度ものぞき込んでみたのだが、どうにもやはり信じられない。
ならば! という事で……今度はしゃがんで仰ぎ見ようとしたのであるが、やはりスカートの中は覗き見ることができなかった。
――って! やっぱりダメじゃん!
だって、それは一枚の絵! 二次元なんだからwwww無理ぃ~www
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます