第58話 激闘?福引会場?(31)勤造の娘

 ――これが……アイナ?

 ビン子もまた先ほどタカトが落としたアイナの入浴写真を拾い上げると、目の前の等身大ポスターとを交互に見比べていた。

 行き交うビン子の視線の先には、たわわに実る巨乳の果実。

 それに対して自分の胸は……不毛の大地……そう、そこはペンペン草すら育たないツルツルのお肌……奇麗なぐらいに何もないのだ……

 だからこそ、ビン子は思うのである。

 巨乳は敵だ! 世界の敵だ!

 ――大体、普通に牛乳を飲んだってあんなには育つ訳はないのよ!

 あんなに育つのはウシか魔物ぐらい!

 だから、絶対にあの乳はイミテーションに違いないわ!

 嘘つきは泥棒の始まり!

 そう、この女はきっと泥棒に違いないわ!

 だが、時に現実逃避の本能は、曲がりなりにも真実にたどり着く場合もあるのだ。

 そう、ビン子がこのとき導き出した答えは、当たらずとも遠からずといったところであった。 

 

 そんな巨乳の存在を敵視しているビン子にとって沸き起こる怒りを必死にこらえるのは大変なことwww

 もう、入浴写真を持つ手が、その写真を破かんばかりに震えていたのであった。

 ⁉

 だが、そんな時、ビン子は何かに気づいたのだ。

 人間メジャーとして名高い(タカト談)ビン子様。

 ちなみに、この人間メジャーとは自分よりも胸の大きなも胸のサイズをコンマミリ単位まで目測できるという、一体何の役に立つのか分からないビン子特有のスキルであるwww

 まぁ、幼女ですらビン子よりも胸のサイズがあるのだから、自分よりも胸の大きな女性といえば、すべからく世の女性たちのバストサイズであり、それら目測だけで測ることができるという意味では、もしかしたらかなり有用なスキルなのかもしれないwww

 しかし、そんなビン子だからこそ些細な事に気が付いたのだ。

 そう、ビン子の目が写真とポスターの胸のサイズを瞬時に測ると、なぜか、その数値が一致するのである。

 胸のサイズが一緒?

 ということは、この写真のアイナとポスターの女は同一人物?

 ――まさかねwww

 ビン子は、自分が導き出した結果がにわかには信じられなかった。

 というのも、ポスターは絵である。到底、その寸法を正確に書き写しているとは思えなかったのだ。

 ならば、数値が一致したのはタマタマということなのだろう。

 となれば、さほど気にすることもないのかもしれない。

 というか……もっと気にしないといけないのはこのグチャグチャになった入浴写真の存在のほうである。

 こんなものがあれば、タカトが夜な夜な変な声を上げるのだ。

「スイッチぃ~ オン!」 

 ワン

 ツー

 スリー

「電流火花が股間を走るぅ~! タカト~♪ ちぇぃんじ~ 気合だぁー」

 これではタカトのベッドで寝ようにも、うるさくて眠れない!

 ――って! やっぱりダメじゃん!

 ならば! タカトが忘れている今のうちにwwww


 などと、ビン子がよからぬことを考えているとも知らずに、タカトはこのポスターの女に対して一つの答えを出していた。

 ――そうだ! アイナちゃんはアイナちゃんでも別のアイナちゃんなのだろう!

 実に回りくどい思考である。

 だが、ビン子同様に、タカトの現実逃避の本能もまた、なぜか、奇妙にも真実にたどり着いたのである。

 まぁ、100%正解とはいいがたいが、当たらずとも遠からずといったところだったのである。

 ――似ているのはあれだ! あれ! コスプレか何かに違いない!

 だいたい……あの写真だって、湯けむりで顔の表情もよく見えないし……

 もしかしたら、もっとしっかりと見たら全然似てないかも!

 ――って……あれ? 写真はどこに行ったんだ?


 そう、アイナちゃんの入浴写真は今、最大の危機を迎えていたのであった。

 写真を必死に探すタカトの目に映ったのはM字開脚をしたアイナちゃん!

 いや……写真がM字開脚などするわけはない。

 そう、M字のくぼんだVの所のように……

「巨乳は敵よ……巨乳は敵よ……巨乳は敵よ……巨乳は敵よ……巨乳は敵よ……」

 まるで呪いでもつぶやくようなビン子が気色の悪い笑みを浮かべつつ、写真の両端を持ちながらゆっくりと破いていたのであった。

 その笑みはまるで写真の中のアイナの股を引き裂くかのようなサドスティックな笑み。

「イヒヒヒヒヒ! 巨乳に天罰を! 巨乳に死を!」

 それを見たタカトは、とっさに手を伸ばす!

「やめろおぉぉおお! ビン子ぉぉぉぉ!」

 だが、それは一瞬遅かった……

 タカトの手が写真に届いたと思った瞬間……アイナちゃんの写真は二つに分裂したのである。

 だが分裂といっても、オリジナルが二つになったわけではない。

 たんに真ん中から真っ二つに破けただけwwww

「なにをする! このボケ!ビン子! それがどれだけ貴重なものか分かっているのか!」

「ふん! 何よ! こんなおっぱいだけの尻軽女! こんなもの! こんなもの!」

 ヒステリックな叫び声とともにビン子は、写真をさらに破きまくりはじめた。

「巨乳は敵よぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 敵なのよぉぉぉぉぉ!」

 そして、今度は勢いよく足元に投げつけると、それをさらに何度も何度も踏みつけるのだ。

 まるで、その様子は地団太を踏むゴリラwww

 うほっ! うほっ! うほっ! 

 ま……まあ……この行為だけを見ても、いかに日ごろからビン子が巨乳を目の敵にしているか分かってもらえることだろうwww。

 だが、憎しみと憧れとは表裏一体。

 おそらく、ビン子自身、巨乳への切なる想いがあったのだろう。


 いまや、土にまぎれてグチャグチャの写真の残骸たち。

 そんな切れ端をいとおしそうにつまみ上げるタカトの眼には今にもこぼれ落ちそうな涙がたたえられていた。

 まるで便所でなくウマオイが秋の哀愁を運ぶかのような……か細い声で泣くのである。

「スイッチョ……オン……」 

 一つ……

 二つ……

 三つ……

「でんでらりゅうば……かけらを拾ぅ……」

 でも……もう、全部は拾いきれないの……

 その写真の残骸は、まるでちぎり絵でもできてしまいそうなぐらい原型をすでにとどめていなかった。

 しかも、ビン子が力いっぱい踏みつけたせいで、土に混じって回収不能のモノもある始末。

 もうこうなれば、拾い集めたパーツをジグソーパズルのように頑張って組み合わせたところで完全復旧はまずもって不可能……

 ガクリと肩を落としたタカトもまた呪うのだ……

「でんでらりゅうば……でてくるばってん……でんでられんけん……でーてこんけん……こんこられんけん……こられられんけん……こーんこん……」

 ちなみに、この「でんでらりゅうば」は長崎県に伝わるわらべうたである。

 その昔、丸山という遊郭に売られてきた女郎の悲哀を歌ったものだそうだ。

 現代語に訳すと、

「出られるならば、出て行くけれど、出られないから、出て行かないよ、行けないなら、行かないよ」となるらしい。


 だが、なぜかビン子ではなくて蘭造が、そのタカトの歌に目頭を押さえて天を仰ぎだしたではないか。

 今の蘭造は、孫娘の蘭華と蘭菊を前にして出ていくことがかなわなない。

 助けたいと思っても助けられない……

 この少年は自分のそんな気持ちを汲んでくれていたのだろうか……

 きっと……蘭造にとって、そのタカトの歌は今の自分の気持ちを代弁してくれているかのように思えたのだろう。


 そんな蘭造が一枚の絵を取り上げた。

「おそらく君なら……きっとこの絵が気に入ってくれると思うのだが……」

 それは母と幼女二人の絵であった。

 しかも、絵の中の母と幼女達は満面の笑みを浮かべ幸せそうに切り分けられたリンゴをほおばっているのだ。

 だが、どことなくこの幼女……蘭華と蘭菊にそっくりなのは気のせいだろうか?

 いや、まさに蘭華と蘭菊そのものなのである。

 その絵を見たとたん、タカトは何かを思い出したかのように頭をボリボリとかきはじめた。

「そうか今日は月末か……」


 そして、おもむろに上空を見上げると太陽の光を手でさえぎりながら何かを考えだした。

 ……かと思うと……

 はぁ……と大きくため息をついた。

「あ~あ~……まぁ、しゃないか……これとなら交換してやるよ……だいたい、この翠玉すいぎょくもさっきのジジイとアンタの間に何か特別な思いでもあるんだろうし……そんなもん売って金に換えたと(権蔵)じいちゃんにバレたらマジで殺されるからな……」

 と、タカトは素直に翠玉すいぎょくを蘭造に手渡した。


 それを受け取る蘭造は深々と頭を下げていた。

「本当にすまぬ……何から何まで……本当にすまぬ……」

 その声がかすかに震えている。

「別に~ジジイに感謝されたところで、な~んも嬉しくないからなwww これが巨乳の姉ちゃんだったら、代わりに一晩、添い寝でもしてもらうんだけどなぁwww」

 などと、へらへらと笑うタカトの後頭部には当然。

 ビシっ!

 ビン子のハリセンがヒットしていた。

「いてえな! ビン子! 何しやがんだよ!」

「何が巨乳よ! 何が添い寝よ!」

「というか! お前! さっきの入浴写真のこと忘れたとは言わせないからな!」

「ふん! あんな写真いくらでも私が撮ってあげるわよ!」

「なに! 女風呂で盗撮でもしてきてくれるのか?」

 ビシっ!

「この変態! なんでそんなことしないといけないのよ!」

「ならビン子お前の入浴しているところでも見せてくれるのかよ!」

 とたん、顔を赤らめるビン子は自らの体をぎゅっと抱きしめ身をよじる。

「な! なんでよ! 私……じゃないわよ……そう! 権蔵じいちゃんの入浴写真よ!」

 でも、まんざらでもない様子のビン子ちゃんwww

 だが、その権蔵が入浴しながらウインクを向ける姿を想像したタカトは、そんなビン子の気持ちを察するわけでもなく。

「おえぇぇえぇ……そんなものいるか! ボケぇ!」

 などと、二人がじゃれ合っている間に、蘭造は先ほどの絵をさっと丸め、一本の竹筒の中に収めていた。

「本来、君に対しては感謝しても感謝しきれないことばかりなのだが、つい、あの翠玉すいぎょくを見た瞬間、感情が押さえきれなくなってしまっていた。本当にすまなかった」

 タカトは、ハイハイそうですかといわんばかりのそっけない態度で竹筒を受け取る。

 だが、それで終わりではなかった。

 というのも、先ほどまでとは打って変わってにこやかな表情の蘭造の表情は言葉をつづけたのである。

「さて、翠玉すいぎょくの話はこれで終わりだ……」

 ――うん? これで終わり?

 何か違和感を感じたタカトの目の前では、蘭造がニコニコと笑顔のまま両指をバキバキと鳴らし始めていた。

 それはまるで、これからタカトをシバきますよぉ~というジェスチャーのようにも思えた。

 ――なんで?

 当然この意味が分からないタカトの表情は引きつりはじめた。

 ――訳が分からん!

 わざわざ翠玉すいぎょくを一枚の絵と交換してやったのだ。感謝されることはあっても恨まれることはないはずなのである。


 そんな、ニコニコ顔の蘭造の顔が急に真顔に変わった。

 そして、静かに、ゆっくりと……それでかつ、しっかりとタカトを問い詰めるのだ。

「君は……この前、蘭華と蘭菊に小便をかけようとしてたよね?」

 ――はあ? 一体、何のことだ?

 タカトは後ずさりながら必死に考える。


「確かに翠玉すいぎょくの事は感謝しているが、歌を歌っている蘭華と蘭菊の邪魔をするのはいただけない……」

 この前?

 歌を歌っている蘭華と蘭菊?

 ――そう言われれば、このジジイは毎朝、蘭華と蘭菊が川の土手で歌の練習をしている時に橋の欄干に腰かけて絵を描いていたよな。

 という事は、この前の朝ってことか?

 ――この前の朝……に何があった? 思い出せ! 思い出せ! 俺!

 この前の朝……

 この前の朝……

 この前の朝……

 って、もしかして! あの朝の事か!


 数日前……この土手の上で、コウスケとバトルをしたあの熱い朝!

「全力全開フィナーレバスター!」

 そう叫ぶコウスケが力任せに棒を奥まで一気に押し込むと、その圧力によって持っていた丸いペットボトルのような筒が膨らみ、その先端に開けられた小さな穴から、まるでガマン汁のような何かをピュッと打ち出したのだ。

 ビュルルル・ル・ル……ル……ル……ル……

「お前は水鉄砲すらまともに作れないのか!」

 忌野清志子が引く荷馬車の上で高笑いをするタカト。

 あっ! ちなみに忌野清志子は、権蔵じいちゃんが飼っている馬の名前だからね。

 それはコウスケが作ったペットボトルの水鉄砲。それをタカトに向けて打ち出そうとしたのだが、圧力に負けて後ろに逆流してしまっていたのであった。

「俺のターン!」

 高笑いをするタカトもまた、ゆっくりと腰に手を当てた。

「俺のマグナムが火を噴くぜ!」

 次元さながらにニヒルな笑みを浮かべているタカトの指が凄腕ガンマンのようにサッと動いた。

「全力全開! 俺の必殺技! ザ・3rdサード! ホーリーウォーター!」

 タカトもまた小さなペットボトルをコウスケに向けていた。

 だが、そのペットボトルの水鉄砲から聖水が発射される、まさにその直前!

 ビシっ!

 ビン子のハリセンがタカトの後頭部に入っていたのであった!

「この変質者! こんなところでズボンを脱ぐな!」


 ――そうだ! ホーリーウォーターだ!

 って、ホーリーウォーターって何のことだよ!

 えっ? 分からない? ホーリーウォーターって聖なる水のことだよ!

 まぁ、それが幼女のモノであれば、その界隈では「聖なる水」と称されることもあるのかもしれないが……いかんせ、タカト君……君の場合はプロテインを含んだプロフェインウォーターでしかありえない! 残念!

 って、ちなみにプロフェインって不敬や罰当たりって意味だからな!


 どうやら、何かを思い出したかのようなタカト君は脂汗を流し始めていた。

 確かに……あの勝負の後、残尿感があったため、体内に残っていたホーリーウォーターを土手下に向かって放出したのは事実である。

 だが、土手上から二人がいた川そばまではかなり距離がある。

 さすがに、その距離を打ち出すというのは、どんなに腹筋を鍛えていようが無理というもの。

 だから、これは濡れ衣!

 そう、濡れ衣なのだ!

 ということで、タカトは必死に抵抗を始めたのである。

「いや……俺のホーリーウォーターはかかっていないはず!」

「なぜ、そんなことが分かる!」

「だって俺! あの後、メスガキの臭いを直に鼻でかいで確認したもん!」

 そう、タカトはその日の夕方、コンビニで出会った蘭華の頭の臭いをクンカクンカしながら確認したのだ。

 しかも、いやらしい笑みを浮かべながらwww

 だが、当然その様子を傍から見ると、変質者が幼女にイケナイ事をしているかのようにしか見えなかった。


 ――蘭華の臭いを? クンカクンカ?

 とたんに蘭造の表情が険しくなった。

 というのも、あの日、あの後……急に入った仕事のために二人から目を離してしまったのであった……

 ――それがどうだ……その日に限って……


 蘭造は硬く唇をかみしめる。

 ――あの時、あれだけ固く誓ったではないか……

 そう、それは蘭華と蘭菊の兄である蘭丸がいなくなった日のことである。


 蘭丸は一般国民の身分でありながら神民学校に通う秀才であった。

 そのため、その将来を有望され、多額の奨学金が与えられていたのである。

 それによって病院に入院している母親の治療費、そして、幼き蘭華と蘭菊の生活費まで工面していたのだ。

 だが、そんな彼が数年前、忽然と姿を消したのである。

 学校側の説明では、勉強によるストレスで悩んでいたとか。

 それが原因で、どこか遠くに逃げ出したのではないかというものであった。


 その知らせを人づてに聞いた蘭造は眉をひそめる。

 ――蘭丸が……母親や二人の妹を置いて逃げ出す?

 ありえない……

 あの子は人のことを第一に、自分のことは次にする子だ……

 これには裏がある……

 

 だが、情報を集めようにも当時の『情報国』と『融合国』の関係は表面上、激しい衝突こそ見せていなかったが、水面下では互いにけん制しあっていたのだ。

 そのため、忍者マスターである蘭造は表だって自由に動けない。

 だが、それでも可能な限り『融合国』内の協力者の情報をかき集めた。

 ――無事でいてくれ……蘭丸……

 しかし、情報を集めれば集めるほど、蘭造にはつらい事実が突き付けられていた。

 それは……蘭丸はすでに死んでいるという可能性。

 どうやら『魔の融合国』の第一の魔人騎士ヨメルの元に送られたのではないかというのである。

 融合国の宰相であり第一の騎士であるアルダインは神民学校の生徒の内、一般国民以下の身分の生徒を留学という体で連れ去り、『ヨメル』への貢物としているようなのだ。

 ――もし、それが本当なら、もう蘭丸は生きていないかもしれない……

 生気の宿る人間の脳と心臓は魔物たちにとってはご馳走。

 仮に生きていたとしても、それは魔人の奴隷としての事だろう。

 遅かれ早かれ魔物に食われる運命なのだ。

 であれば、まだ、生きている可能性が少しでも残っているうちに『魔の融合国』にのりこみ蘭丸を助けに行けばいいのではないのだろうか?

 確かに、行きたい。

 蘭造だって、今すぐ『魔の融合国』に飛んでいきたいのだ。

 だが、いかに蘭造が『情報国』の忍者マスターと言えども、単身『魔の融合国』に乗り込むのは不可能というもの。

 魔物の住む国に行くということは、そこはあたり一面、人間を食らう魔物がうじゃうじゃしているということなのだ。

 それは言い換えれば、自ら餌になりに行くのと同義なのである。


 しかも、アルダインは蘭丸が蘭造の孫であるということは薄々気が付いていたはずなのだ。

 そんな、忍者マスターの孫をあえていけにえに選んだのである。

 これには何か意味がある……

 そう、アルダインは情報国に喧嘩を吹っかけているのだ。

 だが、蘭造は立場的に蘭丸の命と情報国を天秤にかけなければならない……すなわち、この挑発に簡単に乗るわけにはいかないのである……

 

 ――これでは蘭丸の時と同じではないか……

 あの時……蘭丸から目を離したせいで……蘭丸はいなくなってしまった。

 娘の紅蘭、すなわち蘭華と蘭菊の母親に合わす顔もない……

 ――ならば、せめて残された二人の孫娘たちだけでも守り通す……


 そう誓ったはず……

 誓ったはずなのだ……


 それなのに……

 

 それなのに……


 よりによって……

 ――こんな間男によって……蘭華が手籠めにされていようとは……

 蘭造……またもや不覚……


 その様子を勝手に想像しはじめた蘭造は、当然に、それが気に障ったようで……

「貴様……もしかして蘭華を傷物にしたのか……」

「えっ……ちょっと、もののはずみで泣かしてしまいまして……」

「泣くほどまでに……無理やりしたというのか……」

「いや、無理やり奪っていったのは、あのメスガキの方でして……」

「なんだと……蘭華の方から……それほどまでに……貴様の事を……」

「そうそう……そういえば……『ワタジが盗んだことにずる‼‼ 誰かに言いつけたければいえばいい‼‼』とかと泣きわめいておりましたわwwww」

「蘭華が何を盗んだというのだ!」

「えっ?」

 ここで金貨というべきなのか?

 う~ん……それでは、まるで蘭華が泥棒のようではないか……

 さすがにそれはまずでしょ……

「それは………それは………」

 言葉を詰まらせるタカト。

 だが、事ここに至って、いかに誤魔化せばいいのだろうか?

 頭を悩ませるタカトは、必死で考えた。

 ――ここから笑いに変える方法とはなんだ? なんなんだ!

 ピこん!

 そんな時、タカトの脳内に一つの名案が浮かんだのだ!

 そう、それはかの名作『カリオストロの城』の最後のセリフ。

 走ってきた銭形警部がクラリスに言うのである。

『ルパンは大切なものを盗んでいきました』

 それは………

 それは………

「私の心です!」

 と、ニコニコと言い放つタカト。

 それに対して、その言葉にかなりの衝撃を受けたのかガクリと崩れ落ちる蘭造。

 ――あれ? なんかアニメとチョと違う結末だな……ここは、『ハイっ』と言いながら手のひらを組んで目をキラキラとさせるべきなのでは?

 などとタカトが思っていたのと同じころ……蘭造は絶望に打ちひしがれていた。

 ――この小僧と蘭華は相思相愛……なのか……

 よほどショックだったのだろうか、もう、地面に手をついて動かない。

 いや、動けないwww

 ――幼女だと思っていたのに……もう、嫁に行ってしまうのか……蘭華よ……


 ――まぁいいやwww 

 ということで、今がチャンスとばかりにタカトはそそくさとその場を後にしはじめた。

 ――ヤバかったwwww まじで、さっきは殺されるかと思ったよwwww 結婚のあいさつに行った時ぐらい滅茶滅茶緊張したwww って、俺、まだ結婚どころか童貞だったんですけどwww

 だが、そんなタカトの向かう足先は権蔵の道具屋がある家路とは逆、すなわち、また来た町へと舞い戻る道へと向いていたのであった。

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