第23話 激闘!第六駐屯地!(10) カルロス vs. ゲルゲ

 ドシーン!

 上空から巨大な肉の塊が城壁の上に落ちてきた。

 そもそも、その肉塊にはオリジナルが持っていた2枚の羽根がついていたのだが、その巨体を支えるにはあまりにも小さぎたのである。

 鎌首を上げる肉の塊……いや、巨大な肉のミミズ……

 白濁の液体を垂らす大きな頭をカルロスに向けて睨みつけていた。

 ちょうどその頭部に当たる部分には、先ほどまでオリジナルであったゲルゲの上半身がブラブラと揺れていた。

 なんか彼の禿げあがった頭が右に左に動くのを見ていると……ダン●ンの先端から垂れる白玉みたいに見えるのはきっと気のせいなのだろうwww

 というのも、すでにゲルゲは白目をむいて完全に脱力している。

 おそらくもう奴は完全に自我を失っているに違いない。

 その代わり、ゲルゲの体の下に大きくあいた空洞……それがこの巨大ミミズの口といったところなのだろう……先ほどからそんな口から不気味な音が漏れているのだ。

 ウホォォォォォォォォォォ♥ ウホォォ♥ ウホォォォォホォォ♥

 もう、すでに何を言っているのか分からない……


 足を引き身構えるカルロスは思った。

 ――あの魔人……己を失ってまで……この駐屯地を攻めよるか……

 一体、何が奴をここまで追い込んだのだ……

 やはり魔人騎士ガメルに対する恐怖なのか……

 おそらく……ガメルとは……そこまでの恐怖なのだろう……


 いやいや……カルロス……これは、アンタのせいだろ……

 アンタがゲルゲのリーゼントをそぎ落としたせいじゃないのかよwww


「カルロス隊長! 大丈夫ですか!」

 そんな時、城壁をつたい、その奥から数人の魔装騎兵がかけつけてきた。

 というのも、先ほどまで空を飛んでいたゲルゲの分身体がいなくなったことによって、城壁の上部への攻撃はぴたりとやんでいたのである。

 そのおかげで、城壁のいたるところでは力が抜けた守備兵たちが疲れ切ってへたり込んで座っていた。

 だが、それで終わったわけではない。

 というのも、ドシーンという激しい衝撃音とともに城壁が大きく揺れると、その奥に何やら訳の分からない肉の棒がそそり立っているのだ。

 遠くにいた守備兵たちから見れば、それは……まるで勃起したダン●ン!

 しかも、その先端から我慢汁のような何かがプラプラと垂れ落ちているではないか!

 やばい! あれは、もう……発射寸前!

 ティッシュ! ティッシュ!

 受け皿のティッシュはどこだぁぁぁぁぁぁぁ!

 ああああああああ! あっ♡

 どうしよう……アイナちゃんの写真集に出ちゃったよ……

 よりによって、食い込み写真のページの上だよ……

 仕方ない……新しいの買ってこようっと。

 などと、ギリー隊長が思っていたのかどうかは知らない……

 だが、その写真集は今やタカトのもとに……そして、権蔵によって破瓜の瞬間を迎えたのであった!

 って、第一章に書かれた写真集の顛末なんてどうでもいいわい!

 だいたい、それどころではないのだ!

 というのも、そのダン●ンが勃っている場所こそ、カルロス隊長がいた場所なのだ!

 ――カルロス隊長が危ない!

 とっさに魔装騎兵たちは、カルロス隊長の救援に城壁の上を猛然と駆け出したのである。


「カルロス隊長! 大丈夫ですか!」

 駆け寄る魔装騎兵の一人がカルロスへと手を伸ばした瞬間のことであった。

 途端、その手首から先が消し飛んだのだ!

 ⁉

 意味の分からない魔装騎兵は動きを止め、先ほどまであったはずの右手を見つめている。

 吹き出す血潮。

 脳から伝わる信号で右手を動かしているつもりなのだが、どうにも、その先が見当たらないのである……

 だがしかし、それが現実であることを彼に認識させるかにように、腕先から激痛が体全体へと押し寄せてくるのである。

「がぁぁぁぁぁぁぁ! 痛てぇぇぇぇぇぇえ!」

 しかし、そんな彼の悲鳴も長くは続かなかった。

 そう……彼の体を無数のミミズ……いや、肉の触手が貫いていたのであった。

 一応言っておくが、彼は魔装騎兵。

 魔物の牙すらも通さない黒き魔装装甲をまといし者だ。

 その強固なる魔装装甲をいともたやすく貫く肉の触手。

 いまや、そんな触手がそそり立つダン●ンから無数に伸びていたのである。


 これにはカルロスも驚いた。

 この肉のダン●ンがゲルゲであることは分かっている。

 だが、そうであるならば、その一撃の威力は確かに強いといえども、魔装装甲の鎧を砕くには少々力不足のはずなのだ。

 実際に腹を打たれ続けたカルロスの魔装装甲には傷一つ入っていない。

 しかし、現に今、カルロスの目の前では魔装騎兵が串刺しになっているのである。

 ――こいつ……攻撃力がダンチに上がってやがる!

 とっさにカルロスは、おびえる魔装騎兵たちに命令した。

「お前たち、下がれ!」

 ひぃいいい!

 しかし、魔装騎兵たちはその声を待たずに背を向けて逃走を始めていた。

 というのも、魔装装甲を簡単に砕ける魔物など魔人騎士や魔獣回帰した魔人以外に聞いたことがなかったのだ。

 逆に言えば、魔装装甲さえまとっていれば魔物たちに負けることがないとさえ思っていたのである。

 それがどうだ……

 一撃……

 反撃すら許さずに、瞬殺である……

 これだと、魔装装甲を身にまとっている意味など全くないではないか。


 だが、遅かった……

 無数に伸びた触手が逃げ出す魔装騎兵たちの背中を一瞬で串刺していたのである。

 必死に逃げようと暴れる魔装騎兵たち。

 だが、そんな体を触手がゆっくりと巻き取り締め上げる。

 黒い装甲がギリギリと不気味な悲鳴をあげるとともに、その中の骨をきしませていく。

 その音はまるで、いたるところから聞こえてくる多重奏のよう。

 だが、その演奏は魔装装甲が砕ける音ともに終わりを告げる。

 そして、今やだらりと垂れた落ちた魔装騎兵たちの体を、触手たちはゆっくりと引きずりながら巨大なダン●ンのもとへと運ぶのだ。

 そして、大きな口でパクリ……

 マジかよ……

 

 しかも、それで終わりではなかった。

 無数に伸びた触手は、まるで食い物を探すかのように城壁の上を勢いよく這っていくのである。

 そして、へたり込んでいる守備兵たちを見つけるとグルグルと締め上げて、パクリ。

 逃げ惑う守備兵たちを見つけると背後から勢いよく串刺して、パクリ。

 それどころか……

 城壁の上でまだかろうじて息のあるコカコッコーを見つけても、それを引きずりパクリ。

 魔物の死骸も人間の死体もお構いなしで掴み取ると大きな口に次々と放り込んでいくのだ。

 パクリ! パクリ!

 ウホォォォォォォォォォォ♥ ウホォォ♥ ウホォォォォホォォ♥


「こいつ! 人間も魔物も死体も関係なしかよ!」

 カルロスは突き出される触手の連打を盾でいなしながら苦虫を潰していた。

 ある意味、最悪である。

 このままこのダン●ンを好き勝手にさせていたら、確実に第六駐屯地は全滅してしまう。

 まぁ、おそらく攻め入る魔物たちも同様に全滅するので、それはそれでありかもしれない……

 ⁉

 うん⁉ まてよ!

 魔物を食うのなら、こいつを城壁の下にいる魔物の群れの中に落としてやったらどうだろうか?

 そうなれば、このダン●ンが魔物どもを食いつくし万事解決ということになるのではないのだろうか。

 だが、カルロスはその考えをすぐさま否定した。

 というのも、ダン●ンがさらに勃起! いや、大きくなっているのだ。

 おそらく、先ほどから食っている人間や魔物たちを養分として成長しているのだろう。

 ということは……下にいる魔物を食ったりしたら、どれだけ大きくなるというのだ……想像もつかない……しかも、その魔物の群れを食って大きくなったこのダン●ンを誰が始末するというのだ……

 エメラルダ様か?

 確かに、騎士であるエメラルダ様ならできるかもしれない……

 できるかもしれないが……

 このダン●ンを見た瞬間、顔を赤らめてうずくまってしまうだろう……

 きゃっ♡

 役に立たねぇ……

 というか、こんな汚らしいダン●ンをエメラルダ様にお見せするわけにはいかないだろうが!


 しかも、最悪なことに……

 ダ●コンが城壁の石床に根をはりだしているのである。

 このままいけば、ダ●コンがダイコンになってしまうのだ……

 そうなれば……今日の晩飯はダイコンの煮つけ……

 それは嫌だ……

 今日はせっかく、きついアルコールとともに塩で味付けした焼き鳥が食べられると思っていたのだ……

 あれだけ大量の鳥の魔物であるコカコッコーが降ってきたのである。

 焼き鳥にする肉はふんだんにあるのだ。

 しかも、このカルロス! 少々、肉をさばくのには自信がある!

 これでも理科の成績はトップだったのである!

 でも……

 よくよく考えると……

 そのコカコッコーの死体もダ●コンに食べられてしまっていた。

 ――ちゅくしょぉぉぉぉぉ! ワシの晩酌が!


 くそっ! くそっ! くそっ!

 やけくそになったカルロスは円刃の盾を縦横無尽に振り回す。

 くそっ! くそっ! くそっ! 

 刃が次々と伸びてくる触手を切り落とす。

 くそっ! くそっ! くそっ! 

 ふと鼻をつく強烈な匂い……

 なにやら……さっきほどから糞のような下水のような匂いがするのだ……

 どうやらそれは足元に転がる触手の断片からほのかに立ち上ってくる。


 そんな糞のような匂いにカルロスは顔をしかめた。

「こいつは一体なんなんだ! まさか下水から産まれたとでもいうのか!」

 下水?

 ……そういえば聞いた覚えがある……

 魔人世界では汚物を処理するために地下道にスライムを飼っていると……

 スライム?

 スライム⁉

 転生したらスライムだった……けん?

 「けん」って伊予弁かよwww

 いやいや、それよりwwwどこぞのタイトル丸パクリwww

 それはやっぱりまずいだろ!


 いや違うのだ……

 そう……当たらずとも遠からず……といったところなのだ。

 この世界におけるスライムとは荒神が荒神爆発によってはじけとんだ後に残る残りかす……そう、神の成れ果ての姿なのである。

 そんな成れ果てのスライムは、魔物の中でも最下層に位置する生き物である。

 知性もない……

 ただ、触れるものを貪欲に食するだけ……の、下等な生物。

 まさに、汚物処理にはもってこいなのである。

 だが、このゲルゲという生き物には少々知能があった。

 おそらく、成れ果てのスライムが分裂を繰り返した際に生まれたスライムの亜種……今まで取り込んできた腐った肉で、その体を構築していたのだろう。


 それなら合点がいく。

 奴の分裂の能力はスライムの分裂する能力に似ている。

 そして魔装装甲を貫く能力。

 これもおそらくは、スライムの持つ強力な消化液によるものだろう。

 しかも、こいつはその消化液をかなり濃度にまで濃縮できるようなのだ。

 その消化液を触手の先端に集め放出するとともに打撃をくらわす。

 これでは魔装装甲といえどもひとたまりもない。 

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