第22話 激闘!第六駐屯地!(9) カルロス vs. ゲルゲ

 そしてこちらも……空に浮かぶゲルゲもまた、城壁の上にいるカルロスのことを忌々しそうに睨みつけていた。

 せっかく増やした分裂体が、次々と守備兵たちに倒されているのだ。

 ここまで形勢が悪化するとは思っていなかった……♡

 いったいどこで間違ったのだろう……♡

 やはりあのときか……♡

 そもそも、こうなった原因は自分にあるということは理解している。

 だが、そうはいっても、ガメルに殺されるのだけは御免こうむりたい。

 しかし……このままでは……城門を開けるという役目は果たせそうにないのだ。

 どうする……わたし♡

 どうする♡

 せめて……♡あの……♡指揮官だけでも血祭に……♡

 半身を失った私であっても……まだ、力は残っている……はず♡


 ならば……♡


 重力の引っ張る力に従うかのようにゲルゲの体がふわりと落ちた。

 そして、次の瞬間、大きくはばたかせた二枚の羽がゲルゲの体を加速させたのだ。

 「死にしゃらせぇぇぇぇえぇぇ♡」

 いまや白き爪をむき出しにした鋭い蹴り足がカルロスをめがけて一直線に落下していた。


 その蹴りの一撃を円刃の盾が真正面から受け止めると激しい激突音を響かせた。


 その時だ! ついに、カルロスが動いた。

 刃がついた盾をゲルゲに向かって、一気にふり抜いたのである。

 だがしかし、重い盾の軌道はゲルゲにとってスローモーションのように見えていた。


「そんな重い盾を振り回したところで、じぇ~ん♡じぇ~ん♡当たりましぇ~ん♡」

 盾をかいくぐったゲルゲはカルロスの懐に入りこむと、ガラ空きとなった腹部へと連打に次ぐ連打で拳を叩き込むのであった。

「あちょ♡ あちょ♡ あちょ♡ あちょ♡ あちょ♡ あちょ♡ あちょ♡」

 ぐはっ!

 その連打の衝撃は、魔装装甲を伝播してカルロスの内臓を揺さぶった。

 やはり、半身を失ったとはいえ、奴はオリジナル。

 その一撃はかなり重い!

「いつまで耐えられかしら~♡」


 打ち付けられる衝撃に左足を引き耐え続けるカルロス。

 だが、カルロスは自分の身を守るよりも早く黄金弓を背に隠したのである。


 楽しそうに「あちょ♡ あちょ♡ あちょ♡」と拳を繰り出していたゲルゲであったが、そんなカルロスの腰の後ろにきらりと光る輝きがあるのを確認したのだ。

「もしかして♡ その弓はあのウルトラレアの黄金弓かしら~♡」

 そう、エメラルダがもつ黄金弓は魔人世界でも名が通っていた。

 それは神民兵達がもつ融合加工の武具などではなく、どこか遠い国……いや、失われた過去の偉大なる技術によってつくられた武具だと噂されていたのである。

 そんな黄金弓が目の前にあるのだ。

 ――この作戦が遅れた失態……黄金弓を持ち帰ればガメル様は許してくれるかもしれない……♡

 根拠もない可能性であったが、ゲルゲは藁にもすがる思いでこれにかけた。

 「その黄金弓を、わたしによこしなさぁ~い♡」


 だが、その言葉を聞いたカルロスの目がギラリと光る。

 どうやらゲルゲはカルロスの踏んではいけない地雷のようなものを踏んずけてしまったようなのだ。

 先ほどまでとは打って変わって恐ろしい雰囲気にガラリと変わったカルロスは、腹を連打されながらも小さくつぶやく。

「限界突破……」

 瞬間、カルロスの体全体から噴出した闘気が、まるで炎のように激しく揺らめき散っていく。


 その様子に驚いたゲルゲは、さっと後方に飛び距離をとった。

 まあ、神民魔人であるゲルゲにとって、人間たちが使う限界突破など見慣れたスキルである。

 確かに限界突破によって、その使用者の能力が飛躍的に向上しているのだが繰り出される攻撃が当たらなければ大した問題ではない。

 しかし、ゲルゲには何か嫌な予感がした。

 というのも、目の前のカメの魔装騎兵は限界突破したまま動こうとしないのだ。

 それは、まるで殴りに来いと誘っているかのようでもある。


 だが、ゲルゲはこれでも進化した神民魔人。知能が少々発達している。

 ――そんな誘いに乗るものですか♡

 ということで……

「あっ♡ あそこにエメラルダが♡」

 と、ゲルゲはあらぬ方向を指さしたwww


 だが、これでもカルロスは第六の守備隊長。そんな誘いに乗るわけ……

「なんだとぉぉぉぉぉおお!」

 と、言ったそばから、ゲルゲの指さした方向をガン見していた。

 ……いたよ……ここにいたよ……簡単な誘いに乗るおバカさんがwww

 だが、仕方ない……

 ゲルゲがガメルの忠実なしもべであるように、カルロスもまたエメラルダに絶対の忠誠を誓っているのである。

 そのエメラルダが駐屯地に帰還したとあれば、こんな神民魔人など相手にしている場合ではないのだ。

 

 当然、ゲルゲはそのチャンスを見逃さなかった。

 ――隙あり♡

 またもや、カルロスの懐に飛び込む連打に次ぐ連打!

「あちょ♡ あちょ♡ あちょ♡ あちょ♡ あちょ♡ あちょ♡ あちょ♡」

 だが限界突破したのカルロスの装甲は、さすがに硬い。

 ゲルゲの打ち付ける拳に痛みがどんどん蓄積していく。

 しかし、ここで引き下がるわけにはいかないのだ。

 何としてでもこの指揮官をぶち倒す!

 いや、せめて黄金弓だけでもゲットしないといけないのである

「いくら体を固くしても攻撃しなければ意味ないのよ~♡」


 連打!

 連打!

 連ドラだ!

 ちむ♡ ちむ♡ ドン♡ ドン♡

 ちむどんどん♡


 ラッシュ!

 ラッシュ!

 パトラッシュ!

 ワン♡ ワン♡ ワンワンワン♡

 って……もう……疲れたよ……♡ 


「エメラルダ様は、どこにもおられんではないかぁぁぁぁ!」

 ゲルゲによって騙されたと分かったカルロスは、どうやら怒り心頭!

「このハゲがぁぁぁぁぁ! ただでは済まさんぞ!」

 ――やばっ♡

 その気迫におされたゲルゲは再び距離をとるかのように後方に飛びのいた。


「逃がすか! ハゲぇぇぇぇぇぇ!」

 だが、カルロスが大きく振りぬいた手から一本の鎖がグンっと伸びたのだ。

 そして、その鎖が大きくしなりゆくと、その先端についていた円刃の盾がつき従うかのように弧を描いて飛んでいくのであった。


「何それぇ~♡ ちょっと♡盾が伸びるなんて聞いてないわよ♡」

「そんなこと言っとるわけなかろうが! このハゲぇぇぇぇ!」

「もう♡ ハゲ、禿げうるさいわねぇ♡ まだ私はハゲてませんからぁぁぁぁぁ♡」

 確かに! 頭のてっぺんは円形脱毛症で禿げてはいるが、その周りはしっかりと金髪で整えられているのだ。とくに額には立派なリーゼントがそそり立っている。

 これでハゲと言われて納得しろというほうが無理だろう。


 しかし、そう思っている間にもグングンと間合いを詰めてくるその盾にゲルゲも少々焦った。

 ――このままでは逃げ切れない……♡

 今や、後ろ向きに飛びのくゲルゲの鼻先にまで円刃の盾が近づいているのだ。


「いやぁ~ン♡」

 その瞬間、ゲルゲ首は大きく背後へとのけぞった。

 そう……円刃の盾によってバッサリと切り落とされてしまったのだ。

 ちなみに、今度は縦割りではなく横割り♡ 横割りだからね♡

 

 飛び散る悲鳴!

 ギャァァァァァァァ♡

 石床の上をたうち回るゲルゲは苦しそう。

 だがしかし、それを見るカルロスは少々悔しそうに唇をかみしめていた。

 ――ちっ、浅かったか……

 そう、もう少し深く切り込みを入れてやろうと思っていたのだが、ゲルゲが避けたことによって少々手ごたえを感じなかったのである。


 だがしかし、今のゲルゲは無残な姿……

 もう、ここまでくると……正直、見るに堪えない。

 おそらく、作者でなくても男性読者の諸君であれば、きっと同情を感じずにはいられないはずだ。


 というのも、四つん這いになりながら、石畳に額をこすりつけているゲルゲはボトボトと大量の涙を流していたのである。

 しかも、その手にはバッサリと切れ落とされたリーゼントの塊を大切そうに抱いていたのだ。

 そう、先ほど円刃の盾による攻撃で横割りに切れたのはゲルゲの首ではなく、頭からまっすぐに伸びていた金髪のリーゼント!

 だが……

 だが……それによって先ほどまで円形脱毛症だったゲルゲの頭が……

 いまや……落ち武者のように額からてっぺんにかけてきれいに剃りあがっていたのであるwww

 まさにハゲ! これこそハゲwwwプギャぁwww


 四つん這いでうつむくゲルゲの体がブルブルと震えている。

 わたしの可愛いリーゼント……♡

 わたしの愛しいリーゼント……♡

 こんな屈辱は初めてよ……♡

 こんな仕打ち……とても……とても……耐えられない……♡


 だが、そんな震えがピタリと止まったのだ。

 そして、まるで亡くなった子犬に別れを告げるかのように、そっと切れ落ちたリーゼントの塊を石床の上に置くと、すっと立ち上がったのである。

 しかし、何かおかしい……

 先ほどまでの雰囲気とは……何かが違うのだ……

「許さんぞ♥……許さんぞ♥……許さんぞ♥……このブタァァァァがぁぁぁ♥」

 おいおいwwwハートの色が変わっとるがなwww


 うがぁぁぁぁぁぁぁ♥

 反り返ったゲルゲの体が天に吠える!


「は~い♥ 皆ぁ~♥ 全員集合~♥」

 その怒声に反応するかのように、城壁の上を飛び回っていた分身体の動きがピタリと止まった。


 って……この展開……確か……前にもありましたよね……

 というか、お前、これで失敗したって悔やんでたじゃんwww

 また、同じ失敗をするつもりかよwww

 学習能力まるで0www


 やっぱり先ほどと同様にゲルゲの分身体がオリジナルに向かって勢いよく集まり始めた。

 まぁ、確かにここまでは先ほどと一緒である。

 だが、さっきはオリジナルを中心にするかのように大きな球体状に分身体たちが集まっていただけなのであるが……

 今度は、分身体が次々とオリジナルに突っ込んでいくのである。

 えっ? 何を?

 もう……それを言わせる気ですか♥

 そう、それは! 勃起したダン●ン!

 ダン●ンを突っ込まれるたびにオリジナルが意味深なうめき声をあげている。

 ウホォ♥ ウホォ♥ ウホォ♥

 

 身もだえるオリジナル。

 熱く火照るオリジナルの下半身が徐々に膨らみ始めた。

 って、膨らんでいるのはあそこじゃないぞ! 下半身全体だからね!

 そう、分身体のむくむくと起き上がってくるダン●ンが、勢いよくオリジナルの体を貫くたびに、そのオリジナルの体積が大きくなっていたのである……


 こっ! これは!

 あっ……ちなみに分かっていると思うけど●はコじゃなくてぺだから♥


 そう、オリジナルであるゲルゲが分裂体の体、いや、その分裂体の断片を取り込んでいるのだ。

 今や一つにまとまったゲルゲの体は蛇のように長く伸び、いたるところから無数の手や足といった断片が飛び出している。当然、もちろんダン●ンも♥

 すでに……元の人型など様子など残っていない。

 ただの肉の塊……

 もうすでに……魔物ですらなくなっている。


「な……なんなんだ……これは……」

 夕日を遮るその影にカルロスは恐怖した。

 こんなデカ物……大型種の魔物なのか?

 いや……ここは聖人世界のフィールド内、奴が大型種の魔物の姿に戻ることができる「魔獣回帰」は使えない! 使えないはずなのだ。

 ならば……これは……一体……

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