第3話 激闘!第六駐屯地!(1) 開戦!

 再び第六の門外フィールドに話を戻そう。

 駐屯地から遠く離れた草原の奥からは土埃が近づいてくるのが見て取れた。

 その土埃は駐屯地に近づくにつれ、まるで半紙の上にこぼれた墨汁のようにジワリジワリとその幅を広げていたのだ。


 いまや魔物の群れは目の前の緑の草原を黒々とした色へと塗り替えていた。

 真っ黒に染まったそんな半紙の上に一つの小高い山がそびえたつのが見える。

 その山は少しずつだが確実に揺れ動く。

 そう、その山の正体こそ大型級のカメの魔物であるガンタルトであった。


 大型級の魔物は魔物でありながらその繁殖能力がきわめて低い。

 そしてまた、当然にその成長に時間がかかるため個体数は極端に少なかったのである。

 そのため、以前までの戦場では大型級の魔物などめったに目にすることはなかった。

 だが、いまや魔の兵器の国では聖人世界で急速に普及される魔装騎兵に対抗するために大型級の魔物の育成が盛んにおこなわれていたのである。

 その甲斐あってか、人サイズの3倍もの大きさのものがゴロゴロと現れだしていた。


 しかし、聖人世界も大型級の魔物の出現に手をこまねいていたわけではない。

 兵器の国の職人たちは大型級の魔物の襲来を常に想定し駐屯地の城壁を設計していたのである。

 なぜなら、門外の駐屯地はキーストーンを守る要になる場合が多かったのだ。

 そんな駐屯地が簡単に魔人たちによって落とされでもしたら、聖人世界のキーストーンは、あっという間にすべて奪われてしまうのである。

 ならば、キーストーンを前線に配置するのではなく、当然に後方の騎士の門近くに下げるという戦略も考えられなくはない。

 だが、キーストーンの持つ一つの性質がその選択を妨げるのである。

 そう、キーストーンには大門を開けるという役割のほかに一定範囲内にある自軍のスキルを強化するという性質を有していたのである。

 すなわち、聖人世界においては魔装騎兵の力が増加する『限界突破』、魔人世界においては魔人の知能をそのままに魔獣形態に変化する『魔獣回帰』など、これらのスキルの能力が飛躍的に向上するのである。

 さすれば、敵が来ぬ後方に下げるよりも少しでも前線に近づけた方が戦闘に有利に働くというものなのだ。

 それ故に、聖人世界の駐屯地はフィールドの境界近くに建設されることが多かったのである。


 そんな駐屯地は聖人世界のあらゆる国々の工夫が詰まっていたのだ。

 キーストーンの効果によって、攻守ともに強化された魔装騎兵。

 高く厚い城壁はいかなる大型級の魔物の襲来も拒む。

 そう、それが想定内であれば、駐屯地の城壁は十二分に耐えうる能力を有していたのだ。


 だがしかし……

 目の前に迫りくるガンタルトは、想定をはるかにしのぐ超大型級であった。

 その大きさは4階建ての高さを有する駐屯地の城壁とほぼ同じぐらいの高さ。

 いや、もしかしたらそれ以上あるのかもしれない。

 って、ガメラかよ!


 草原に広がっていた魔物たちが作る黒い帯が、個別の魔物として見えだす頃合。

 城壁の上でカルロスが大声で命令した。

「撃て!」

 その命令と共に城壁の上で引き絞られていた投石車から次々と炎をまとった巨石が乱れ飛んだ。

 ガコンッ! ガコンッ! ガコンッ!

 城壁の上に轟く大きな残響の反動で、連なる投石車が次々と弾んでいく。

 一方、打ち出された巨石は赤い炎の尻尾をひきながら青き空のキャンバスに黒い煙の放物線を雄大に描いて飛んでいた。

 そしてついに、緑の大地にぶつかると大きな轟音と共に土砂と炎を撒き散らしていくのだ。


 ギョぇぇぇぇぇ!

 悲鳴を上げる魔物たち。

 巨石は先行する雑多な魔物たちをその体で押しつぶす。

 ウオぉぉぉぉぉ!

 その炎は逃げ惑う魔人たちの体を焼き焦がし苦しめていく。

 だが、それで終わりではない。

 城壁の上では、力が解放された投石車の弦がすぐさま引き絞られていたのだ。

 そんな投石車に、あらかじめ滑車で引き上げられていた巨石が押し込まれると、すぐさま撒かれた油に火がつけられる。

 そして次の瞬間、練度の取れた掛け声のもと再び巨石が空を焦がしていくのであった。

 うそぉぉぉぉぉ!


 つい先ほどまで、さわやかな草原には緑の青臭い香りが漂っていた。

 決してヨシオについたイカ臭い香りではないぞ。

 だが、今やあたり一面には肉の焦げた嫌なにおいと油の匂いが混じった香りが立ち込めていた。

 というか、ヨシオは大丈夫なのだろうか……

 というのも、ヨシオが座っていた木陰も今や炎に包まれていたのだ。

 おそらく……もうこの状態では……ヨシオも……

 ヨシオぉぉぉぉぉ!


 いや、確かに数日前にはギリー隊長もヨシオと最後の戦いに臨んでいたのだ。

 だが、おそらくその最中、突如人がやってくる気配に慌てふためいた。

 盗撮されまいとギリー隊長は、下げたズボンもそのままに急いでその場を逃げ出したのである。

 そして、ヨシオがもたれかかる大きな木の陰へと急いで隠れたのだ。

 当然、置いてけぼりのヨシオは口をあんぐり、そんな口のまわりにはオイルパンの白い生クリームを飛び散らせていた。


 いやいや、マジでギリー隊長の事はイイんだよ!

 今は戦闘! 戦闘中なのよ!


 草原で逃げ惑う魔物たちも突如飛来してくる巨石に慌てふためいた。

 統率されていない小型の魔物たちは、自分勝手にその場を逃げ出したのである。

 そして、伴に進軍する大きなガンタルトの陰へと急いで隠れたのだ。

 だが、全ての魔物が隠れることができた訳ではない。

 当然、置いてけぼりの魔物はつぶされて、巨石の周りに赤紫の生クリームを飛び散らせていた。


 これで、ヨシオとの別れがいかに緊迫した状態であったかが分かってもらえるだろうか。

 かくして、ヨシオは一人ぼっち……

 そして、そんなヨシオもまた……炎に包まれて……

 ヨシ子ぉぉぉぉぉ!

 って、しつこい?

 というか、ヨシ子って誰の事だよ!

 もしかして……分かれた奥さんとか?


 だが、巨大な体を持つガンタルトは投石車の絶好の的であった。

 空から降り注ぐ巨石が次々と容赦なくガンタルトを襲っていく。

 ゴツン!

 頭を激しく打ち付けられるガンタルト。

 しかも、何度も何度も打ちのめされるのだ。

 ついに、ガンタルトもまた、首をすくめ歩を止める。

 そして、その場に立ち尽くしてして動かなくなってしまった。。


 だが、ガンタルトを襲う巨石は止まらない。

 硬い甲羅にぶつかっては、無意味にその岩塊を砕いていく。

 飛び散った破片は炎をまとい、まるで花火の菊星のように光の尾を引きながら地面へと落ちていた。

 だがしかし、もうその菊星にはすでに隠れる魔物たちを砕く力は残っていなかった。


 つまらぁぁぁぁぁん!

 血なまぐさい戦闘の描写など、マジで正直つまらん!

 ということで、タカト達の描写に戻ろうっと♪


 さきほどから道を早足で歩くタカト達。

 どうやら目的地である福引会場の広場が見えてきたようである。

 相変わらず第六の大規模戦闘を知らせる警鐘がけたたましくなっているにもかかわらず、遠くに見えはじめた福引き会場は多くの人でごった返しているのが分かった。

 その会場に近づくにつれ、その人の幅ジワリジワリとその幅を広げていく。

 その様子はまるで茶色の土の画用紙の上に十数匹の黒い蛇がのたうつかのように、長い列を作っていた。


 そんな会場に足を踏み入れたタカトはビン子に笑いかける。

「なっ! 言っただろ。みんな心配なんかしてないんだって~」

「うん……」

 警鐘が気になっていたビン子も、目の前の人出の多さに少し安堵の表情をのぞかせた。


 そう、福引会場はお祭り騒ぎ!

 今日は毎年恒例の夏祭り!

 暑い! 熱い! アツすぎるぅぅぅう!

 熱気むんむんの会場は、すでにテンションマックスなのだ!


 当然、この会場、福引以外にもいろいろな催し物が用意されているのである。

 広場の周りには無数の屋台も並んでいた。

 そんな中で一番の長蛇の列を作っているのは当然、伝説の屋台ギロッポン!

 創作アート料理界のレジェンド、そして、料理界の四皇の一人である源さんの屋台だ。

「シースーの握り一丁! ヘイ! お待ち!」

 源さんの威勢のいい声と共に男性客の悲鳴が上がる。

 そんなオッサンたちが次々と自分の菊星……違った、門を押さえながらトイレに走りこんでいく。

 プシュ!オぉぉぉぉぉ!

 トイレの中から沸き起こる悲鳴。

 あるあるですね……辛い物を食べると翌朝のトイレで下痢になるのは。

 どうやら辛い物の刺激センサーは口の中だけなく肛門まわりにもあるそうなのだ。

 それによって、阿鼻叫喚地獄の雄たけびが発生するというわけなのである。

 でも……食べてすぐって……ちょっと反応、早くない?

 そこは、なんてったって伝説の源さんが作った深砂海しんさかい縦筋たてすじ露里ろり万札まんさつエイのお寿司ですからwww

 って、トイレの中で何しとんねん! オッサン!

 もしかして門って……もしかして社会の窓のことなのか?

 あっ! ちなみに分かっていると思うけど、このオッサン、ギリー隊長じゃないからね! ギリー隊長はあれでも第六の宿舎の守備隊長! 第六の警鐘が鳴っている今、マスなんて書いている暇なんてないんですぅぅ!

 ……たぶん。


「ねぇねぇ! タカト! あれ屋台ギロッポンじゃない?」

 どうやら源さんを見つけたビン子は目をキラキラさせていた。

「さ……さぁ? 違うんじゃね?」

 だが、タカトはしらばっくれる。

 というのも、また、あのしびれるような辛さのシースを食わされたのではたまったものではない。

 しかも、手持ちのお金は銅貨5枚50円しかないのである。

 伝説の屋台で飯を食えるほどの金などあるわけがないのだ!


「ちょっと……覗いてきてもいいかな?」

 だが、ビン子は源さんの屋台に行きたくてたまらないようだった。

 まぁ確かにビン子にとっては、飯が食えなくとも源さんの手先を見るだけでも勉強になるというものである。

「勝手に行けば?」

 興味のないタカトは適当に返事をする。

 だって仕方ない……今のタカトにとって大切なのはシースーよりも福引なのだ!

 そう、アイナちゃんの写真集が待っている。

 屋台に向かって走っていくビン子を見送りながらタカトはそう思っていた。


 そんなタカトの前でズボンの前を押さえて走っていたオッサンが転んだのだ。

 それも顔面からのパタリロごけ!

 ズサササっーーーーーー

 あれは……いたそう……

 そんなオッサンの手から一つのシースーが転がり落ちた。

「落ちましたよ……」

 親切なタカト君はそのシースーを拾ってあげようと手を伸ばす。

 だが、タカトの手がピタリと止まった。

 なぜなら深砂海しんさかい縦筋たてすじ露里ろり万札まんさつエイのネタとシャリの間から……

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