言葉の雨、ときどき……。

雨世界

1 あなたの嘘は、もう聞き飽きました。

 言葉の雨、ときどき……。


 プロローグ


 あなたの嘘は、もう聞き飽きました。


 本編


 あなたの言葉。(届かない、私の言葉)


 その日は、……午後の時間からずっと、とても強い雨が降っていた。


 藤川さんはそんな雨の降る風景を見て、……きっと今頃、誰かがとても悲しい思いをしているんだろうな、とそんなことをふと思った。

 すると、がらっという音がして、図書室のドアが開いた。

 それは、とても珍しいことだった。


 静かな放課後の時間。

 藤川さんの通っている高校では、放課後に図書室を利用する生徒はあまりいない。たまに誰か来たと思ったら、それはだいたい学校の先生であることが多かった。


 窓際の席で、雨の音を聞きながら、ときおり、雨降りの風景を見たりして、ずっと一人で本を読んでいた藤川さんは開いたドアのある方向に目を向けた。

 するとそこには見知った顔をした、一人の生徒が立っていた。


 そこに立っていたのは、藤川さんと同じ教室のクラスメートである岡崎さんだった。

 誰もいないと思っていたのか、岡崎さんは図書室の中で一人で本を読んでいた藤川さんの姿を見て、(とても珍しく)目を大きくして、本当に驚いた、と言ったような顔をした。


「藤川さん。……いたんだ」

 と藤川さんの近くまでゆっくりと歩いてくると、(その間に岡崎さんはいつもの岡崎さんに戻っていた)にっこりと笑って岡崎さんは言った。


「うん。いたよ。ここは私の『放課後の居場所』なんだ」と藤川さんは岡崎さんを見て、小さく笑ってそう言った。

「……居場所。そうなんだ」と岡崎さんは言った。

 それから岡崎さんはきょろきょろと図書室の中を見渡してから、「いい居場所だね」と藤川さんにそういった。(藤川さんは「うん。どうもありがとう」と岡崎さんに言った)


 岡崎さんは藤川さんの前の席に座った。

 藤川さんは本を閉じて、岡崎さんの顔を見つめた。(なにか話したいことがある、と言ったような顔を岡崎さんはしていたからだ)


 ざーっという音がして、図書室の外では、強い雨が降り続いている。

 岡崎さんは窓の外で雨に打たれている緑色の木々のある風景にちょっとだけ目を向けてから、藤川さんを見て、またにっこりといつものように笑った。


 そんないつも明るい岡崎さんの目から、涙がこぼれ落ちたのは、そんな岡崎さんがにっこりといつものように、太陽のような笑顔で笑った瞬間だった。(誰かが、泣き出す瞬間を、藤川さんはこのとき、十六年の人生の中で初めて見た。藤川さんは内心、ひどくびっくりした。その気持ちを絶対に、自分の顔には出さなかったけど……)

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