葉月さんと帰り道

 ある日の放課後。スマホを開いてみると、葉月さんからメッセージが届いていた。


 「今日は部活が休みで他の用事もないから特別に、本当に貴族である私が特別にあなた(平民)と一緒に帰ってあげます。一階の倉庫前で待っているから。この私を5分以上待たせたら命はないと思いなさい」


 という内容でした。彼女、確か陸上部のエースだったな。何度か表彰されていた気がする。普段は過酷なトレーニングで忙しい葉月さんが俺と帰ってくれるなんて!


 やったぁー!!


 けど相変わらず態度がでかいし、なんか脅迫めいているんだよな。急がなきゃ!


 俺は速攻で教室を後にした。廊下を疾風の如く駆け抜け、階段は飛び降りた。一階の廊下をしばらく進んで曲がり角を左に曲がると、そこには壁にもたれてストップウォッチを見ている葉月さんの姿があった。


 「ごめん!待った?」


 「待ったわ、4分59秒。危なかったわね。けれど平民にしては上出来じゃない」


 そう言って葉月さんはにっこりと笑った。笑ってはいるものの、心の裏が見えて少し恐ろしい・・・。もしあと1秒でも遅れてたら俺、どうなってたんだろう・・・。


 っていうか葉月さん、いっつもストップウォッチ持ってるんだ。


 「まぁいいわ。帰りましょう。ほら」


 そう言って葉月さんは鞄を俺に差し出してきた。


 「ん?これは・・・」


 どういうことかは大体わかってはいたもののあえて俺はとぼけてみせた。すると彼女は


 「あなた、私の友達よね?なら鞄を持つくらい当然でしょ?何をしているの、さぁ早く」


 葉月さんは鞄を俺の胸に押し当ててきた。いったぁ!


 「いや、それ友達じゃないでしょ!ただの奴隷かパシリだろ!」


 俺は思わず突っ込んでしまった。


 「平民のくせにいちいちうるさいわね。あなたの意見は聞いてないのよ。そんなに嫌なら私、別の子と帰るけどいいのかしら?」


 葉月さんは不敵な笑みを浮かべてそう言った。


 はぁ、しょうがないなぁ。


 「いいや、ぜひともお嬢様と帰りたいでございますよ。このわたくしめがお荷物を喜んでお持ちいたします!」


 俺は無駄に丁寧な言葉づかいでそう言うと


 「あ、そう。ならさっさと持って。行くわよ」


 とすげなくあしらわれてしまった。


 俺、友達だよね?扱い酷くない?泣きたい。


 *


 俺と葉月さんはそれぞれ昇降口で靴を履き替えてそのまま靴を持って渡り廊下から外に出た。当たり前だが目立たないようにするためだ。


 俺たちは人目を避けながら校門を抜けた。葉月さんはなぜかサングラスをしている。変装のつもりだろうか。多分、無駄だと思いますけど。


 「何を言っているの。これは西日がまぶしいからかけているのよ。断じて変装のためなんかじゃないわ」


 と言っていたが絶対変装のためですよね~。ちょっとかわいいです。


 まぁ、確かに西から照らす太陽の光はちょっと強いけど。あっついなぁ。地球温暖化どうにかなんねぇかなぁ。


そうして俺は葉月さんと帰路についた。


「こっちよ。私は人通りが少ない道を知っているの。あなたと帰っているなんてばれたら私のブランドに傷がつくから事前に調査をしておいたの」


 そう言って彼女は俺を手招きした。


 うん、ここは「俺とふたりきりで帰りたかったんだろうなぁ」とか思っておくことにしよう。ポジティブシンキングは大事!


 俺は葉月さんに連れられるまま、大通りからそれた細めの道に入った。


 「ここ、ちょっと暗くありません?不良とかに絡まれるかも・・・」


 「情けないわね。まぁ私は格闘技もたしなんでいたので大丈夫よ。貴族だから」


 貴族ってむしろそういう野蛮なことしないんじゃありません?あっれれ~おっかしいなぁ~。


 「そうそう、格闘と言えば、あなた格ゲーはやったことあるかしら?」


 話の流れで葉月さんがそんなことを言ってきた。


 「ああ、まぁ少しは。七つ集めると願いを叶えてもらえる不思議な玉が出てくるアニメのゲームなら」


 「ほとんど内容言ってるじゃない。バレバレよ」


 言われてしまった。けどあれは今も昔も幅広い世代に大人気なのでまぁいいだろう。明言しても。


 「昔からあるわよね、あのアニメのゲーム。ヒーロー側も悪役側のキャラも好きなように選んで相手と戦える。あ、ちなみに私は悪役のキャラで戦うわよ?そうしてボッコボッコに倒すのが大好きなの」


 そう言って葉月さんは嗜虐的に笑った。さながらあの悪の帝王みたいです。


 まぁ、でも彼女らしいかな。


 「へ、へーそうなんだ。俺は最近のはやったことないけど昔のでならあるかな。いつこの技を使うとか、いつよけるとかなかなかタイミングを読まないと勝てなくて難しいんだよね」


 「ま、私はどんなキャラが相手でも倒せるわよ。私は相手の一瞬のすきも逃したりはしないわ。そこは私の努力の成果よ。ほら、褒めなさい」


 「すごいねー。さすがー」


 俺が適当に褒めると彼女は「フッ」と笑って長い黒髪を手で払った。


 そういう仕草にはちょっとドキッとしますね・・・。似合いすぎてます。


 あと、相変わらずゲームの話したいんだね。まぁいいけど。


 「あ、私の家まで付き合うのよ?勝手に『じゃあ俺こっちだから』みたいな感じでは帰らせないわよ?」


 「わかりましたよ・・・」


 まぁ、うすうすそうなんじゃないかとは思ってました。


 「そ、そういえば今日、部活ないんだよね?葉月さんぐらいになると部活以外でもトレーニングとかしてるの?」


 「まぁ当然するわ。けれど今日はオフ。どんなにすごいアスリートだって休日は必要でしょ?」


 「そうだね」


 うん、彼女、自分がアスリートだって自覚があるんですね。自分に自信があるのってすごいことだと思う。マジで。そこは尊敬する。


 俺の家はもう通り過ぎてしまったけれど、少しすると西洋のお屋敷みたいな建物が見えてきた。こんなとこにこんな立派な屋敷があるなんて。びっくり!


 「ここよ。どうもありがとう五月君・・・じゃなくて平民くん」


 「五月であってますけど」


 わざと言い直しただろ!


 「まぁ、あなたのほんの少しの苦労をねぎらってそこの自販機で飲み物をおごってあげるわ」


 「い、いやそんな・・・」


 俺は断ろうとしたのだが


 「何、この私がおごってあげると言っているのに聞けないの?別に私は構わないと言ってるじゃない。それに労働にはそれに見合う対価が必要だわ。まぁ今の社会ではサービス残業が当たり前になってしまっているけれど」


 と、彼女は淡々と俺にそう言ってきた。まぁ全くもってその通りだ。


 「わかった。ありがたくいただきます」


 俺がそう言うと、葉月さんは自販機にお金を入れて飲み物を二つ取り出した。


 俺に選択権はないらしい。ああ、そうですか。


 「これ」


 葉月さんが渡してきたのは、ブラックコーヒーだった。彼女は紅茶を持っている。さすが貴族!紅茶への愛着があるんですね!


 俺がプルタブを空けて飲もうとしたら


 「何をしているの?乾杯しなさい」


 と言って紅茶のペットボトルを俺の方へ向けていた。


 そういう律儀なところも彼女らしいなぁ。そこに少しの優しさが見て取れた。


 「ご、ごめん!」


 俺は慌てて彼女のボトルに缶を当てた。すると彼女は


 「フッ。ご苦労様」


 と言ってにこっと優しく微笑んで、その後何もなかったかのように紅茶を飲み始めた。


 不意打ち、ずるい・・・。こんなのドキドキしてまうやろ!


 「何をにやにやしているの。気持ち悪いからやめて」


 俺が呆けているとそんなことを言われてしまった。ほんとこの子いい性格してますね!


 ふたりとも飲み終えた後、


 「それじゃあね、平民くん」


 と彼女は自宅の門の前で俺に手を振って別れの言葉を告げた。


 「う、うん。また」


 俺もまたそう告げて自宅へと帰っていった。


 さっき飲んだコーヒーは砂糖など入っていなかったのに、なぜだか甘く感じられた。

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ぼっちの俺は学園一の美少女がゲーマーだと知ってしまいなんか知らんけど友達になろうと言われました 蒼井青葉 @aoikaze1210

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