葉月さんと昼休み

 俺があの後に「友達になるならラインくらい教えてくれよ?」と言ったら


 「ちっ。いいわ。この私が特別に教えてあげる。た・だ・し!どうでもいいことでメッセージを送ってきたら死ねと100通は送るから覚悟しときなさい」


 と言ってきた。


 はぁぁこえええええええ!


 でも一応ゲットできました。


 多分あれは相当ひねくれてるツンデレなんだと思う。そう信じたい。


 そしてその翌日の昼休み。


 俺がスマホを開くと


 「今から中校舎2階の空き教室に来なさい。制限時間は20秒以内よ。この私が特別に一緒にお昼ご飯を食べてあげるのだからそれくらい当然よね?」


 とかいうメッセージが送られてきていた。


 って20秒!?ふざけてるのか?


 「くそっ!」


 俺は猛ダッシュで廊下をかけて、階段を降りた。途中、委員長に「廊下は走らない!」というお決まりの文句を言われたがそんなのに構っている場合ではない。あの葉月さんとお昼ご飯を食べられるのだ。このチャンスを逃すわけにはいかない!


 「うおおおおお!!」


 俺は必死だった。必死過ぎて俺の顔はすごいことになっていると思う。生徒たちが変な目で俺を見ていたのはきっとそのせいだろう。


 そうしてなんとか到着。俺は扉を開けた。


 「遅い。死になさい」


 「はぁ!いや送られてすぐに来ただろ?」


 「時間を計っていたのだけれど、私のストップウォッチは20.000000001秒を示していたわ」


 「お前のストップウォッチおかしいだろ!」


 何だよ、20.000000001秒って!100万分の1秒まで計れるわけねぇだろ!それくらい見逃せよ!


 「冗談よ」


 「・・・・・!」


 そう言った彼女の顔は楽しそうに笑っていたので驚いてしまった。


 まぁ葉月さんが笑ってくれた。それだけでも来たかいはある。


 俺は思わずにやけていた。


 「何笑っているの?気持ち悪いからやめなさい」


 「ぐっ」


 ほんっといい性格してるわ


 *


 俺たちは席に着いて弁当を広げた。葉月さんが目の前にいる。それだけでも奇跡と呼べる状況なのに一緒にお昼ご飯を食べられるとは。


 「そういえば五月はこういうゲームやるのかしら?」


 葉月さんは唐突にゲームの画面を見せてきた。大人数でも一人でも楽しめるゲームだ。たくさんのキャラから選んで最後の一人になるまで戦う。必殺技もあってなかなか楽しいが極めている人には全く勝てない。


 多分クラスで話せない分、俺とゲームの話をしたいんだろう。


 「まぁ少しは。好きだけど上手くないよ」


 「そう。ちなみに私はランキング1位よ」


 「さいですか・・・」


 さらっと自慢してきました。めっちゃ勝ち誇ったような顔しとる。まぁちょっとかわいいかも。ちょっと。


 「このゲームって、いろんなコマンドがあって覚えるのとか大変だよな」


 「私は全部のキャラのコマンドを一日で覚えたけれど?」


 「は?1日!!」


 キャラ何体いると思ってんだ?昔よりさらに増えて何十体もいるんだぞ?


 そこはさすが才色兼備な葉月さんで。


 「すげぇな」


 「それほどでも・・・・・・・・・・・・・・・・・・あるわ」


 「あるのかよ!」


 やっぱり自慢したいらしい。しょうがない人だと思う。


 「まぁ私の記憶力をもってすれば余裕だったわよ。私はこのキャラを使わないと勝てないなんてことはないわ。どれを使っても勝てる」


 「ほう?マジか?」


 「何?下級市民の分際で私の言うことを疑っていいと思っているの?まぁいいわそれは今度あなたと勝負すれば分かることだから」


 「おっけー。絶対だからな」


 葉月さんとゲーム対決の約束ができました。


 「あ、ただしあなたが負けたら罰ゲームよ」


 「大人気ねぇな!!」


 自分が勝てる自信があるからって罰ゲーム設けるのは鬼畜じゃありません?


 「もし、もしだぞ?何かの間違いでお前が負けた時はどうするんだ?」


 「安心して。そんなことは1億パーセントありえないから」


 「だからもしっつってんだろ!」


 自信があるのはよくわかったから!


 「そうね・・・・・」


 葉月さんはしばらく考え込み・・・・・・


 「ないわ」


 「ないのかよ!」


 やっぱりせこい。相手にだけ罰ゲームって。ああ、もしかしたら男は変な要求をするとか思ってるのだろうか。心配せんでも速攻でお前が家にチクればいいだけの話だろ。そうなれば俺は死刑。だから俺はそんな不埒ふらちな要求は断じてしない。


 「どれだけシミュレーションしても私が負ける想像ができないもの。やっぱり2億パーセントありえないわ」


 「さっきより増してませんかね、パーセント」


 はぁ、しょうがないから付き合ってあげます。しょうがないから。


 ちょっと嬉しいのが本音です。


 と、俺はふと葉月さんが箸でつまんでいるタコさんウインナーが目に留まった。


 「何、これが欲しいわけ?」


 「え、あ、いやそういうわけでは・・・・・」


 「あげるわよ?ほしいのなら。友達同士ならそれくらいやるでしょ?」


 「ああ、うん。まぁ」


 意外と素直だな。ううん、疑うべきか。


 「はい、あーん」


 葉月さんは箸でウインナーをつまんで俺の口に向けて差し出してきた。


 え!?何?どういうこと?


 なんか葉月さん、いやーな笑みを浮かべているんですけど。


 俺が戸惑っていると


 「何、この私があげると言ったのよ。食べなさい。食べ物に失礼よ」


 そう言って葉月さんは俺の口に押し当ててきた。


 ああ、わかったよ!


 俺は慎重にウインナーだけを食べてすぐに顔を正面からそらした。うっかり箸に口がつこうものなら「気持ち悪いから死になさい」と罵倒が飛んできそうだし、間接キスだからめちゃ恥ずかしいしな。


 まぁ今もめっちゃ恥ずかしかったから顔をそらしたんだけど。


 「ふふ。えらいじゃない」


 またも葉月さんはくすくすと楽しそうに微笑んでいた。くそ、からかわれてる!


 けどなんか知らんけど憎めない!


 少ししてチャイムが鳴った。


 ゲームの自慢がしたくてSっけがある葉月さんとの昼休みはこうして幕を閉じた。

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