ACT7-4 宣戦布告、再び
ゴールデンウィークが終わり、最初の登校日。放課後になってから、俺は鷹音さんと一緒に図書室に来ていた。
彼女が返却した本を、俺が借りる。俺が返した本を、鷹音さんが借りる――彼女は少しはにかんで、借りた本を抱きしめるようにした。
「今日は、これからどうしましょうか」
「そうだな……せっかくだし、一緒に勉強していこうか」
「はい、お話したいことも……いえ、図書室でお喋りはいけませんね」
鷹音さんはしー、と指を立てて唇に当てる。そんな仕草さえ、やはり可愛いが過ぎる――今回は声に出さずにいられたが、これが何度か続くと普通に自制心が決壊しそうだ。
「……リップクリーム、大丈夫でしたか?」
「リップ……あっ……い、いや、大丈夫だったと思うよ」
彼女のリップが頬についたとして、すぐに拭くということもなく。いや、拭くべきなのだろうが、俺は家に帰るまでそうできなかった。
「……色付きじゃなかったので、良かったです」
「う、うん……」
なんていうやりとりだ――神聖な図書室で。いや、神聖かどうかは知らないが。
「薙人さん、この音は……」
どこかから、曲が聞こえてくる――ギターのような音。
聞き覚えのある曲。それは、鷹音さんと朝谷さんが歌った『青リリ』のエンディング曲だった。
軽音部で音を出しているのだろうか。歌の入るところでも、歌は聞こえてこない――でも、誰が演奏しているのかを確かめたい。
「薙人さん、勉強はまたということにしますか?」
「ああ。鷹音さん……いや……」
「……?」
友達と、なぜか姉貴が、俺より先を行っていることがある。
それは逆に、いつでも俺がそうしてもいいということで――なんて言い訳は置いておいて。
今なら、自然に呼べると思った。そうしたいと思ったから、自分の心に従う。
「見に行ってみようか。希」
鷹音さんが――いや。希が、驚いた顔で俺を見ている。
そんなに驚かせてしまうなんて、そう思ったとき、彼女の頬をひとしずく涙が伝う。
「すみません……嬉しくて……こんなに、嬉しいことってあるんですね」
「……もっともっとあるよ。そういうことは、沢山ある。俺はそれを、逃さないようにするから」
「はい……私も。沢山、薙人さんを嬉しくさせたいです。誰にも負けないくらいに」
じゃあ俺はもっと――なんて、いくら繰り返しても飽きないようなやり取りだ。
俺たちは、音が聞こえる場所に向かう。そこに、きっと朝谷さんがいるだろう。
図書室を出てしばらくすると、鷹音さんが俺の服の裾をつまもうとして――その手が、俺の手を握ってくれる。
誰かに見られないように、そんな短い時間の間でも。俺たちは、それを逃さないように積み重ねていく。
高嶺の花。少し前の俺だったら、そう思っていた相手。
そんな彼女が、「元カノ」――それだけじゃなくて、誰にも負けたくないと思ってくれている。
軽音部の部室では、朝谷さんがギターを弾いている。弾き語りの動画が好評だというのは聞いていた。
俺たちが来たことに気づいた朝谷さんは、カラオケの時に見た、例のポーズを取る。
それは、紛れもない宣戦布告。鷹音さんはそれに正面から応じて――隣にいる俺を見て、少し照れながら笑ってくれた。
高嶺の花の今カノは、絶対元カノに負けたくないようです とーわ @akatowa
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