エコテロリスト

<エコテロリスト>というのは、ロシアで熊の密猟者達のアジトを襲撃した者達のように、動物愛護や環境保護を理由に破壊的な活動を行う者達の総称だ。


もっとも、当人達は自分を<正義>だと思っているから、<テロリスト>扱いされることを嫌う場合も多いらしいけどね。


だけど、自分達の正義を掲げて他者の命すら蔑ろにする者は、テロリスト以外の何者でもないとしか思わない。


吸血鬼の立場では。


人間の立場では自分達の掲げる<正義>に合致する者達のことは擁護したがるだろうけど、<別の種>である僕達から見れば全部同じだよ。


<正義>なんて、<立場の違い>でしかない。


そういう、破壊的な活動じゃないということなら、一応は大丈夫なのかな。


悠里ユーリ安和アンナは、それこそ下手に口を挟まない方がいいと考えて、二人して眠ってしまってた。他に時間を潰す方法もないから、それが一番確実か。


「さすがに疲れたみたいだな。しかし、こんな小さい子を連れてというのは、可哀想じゃないか?」


ダヴィトが言うけど、これについてはセルゲイが、


「確かに。この子達には負担を掛けてしまっていることは自覚している。けれど、一年のうちの半年は知人のところに預かってもらって、そちらでゆっくりとしてもらってるんだ。その上で、残りの半年はこの世界というものを肌で感じ取ってもらうために、こうして一緒に世界を巡ってる。


教育についても、決して手は抜いてないよ」


毅然とした態度でそう告げた。だから僕も、


「僕も、父の考えには賛同しています。僕は、自分の意志でこうして世界を見て回っているんです。嫌だったらこんなことしてません」


と話した。そんな僕に、ダヴィトは、少し唖然とした様子で、


「そうか。それは済まなかったな。君はもう立派な<個人>なんだな」


と口にし、ケテヴァンは、


「すごい子ね。私があなたと同じ頃には、そんなこと考えもしなかったと思う」


感心していた。


だけどその言葉の裏には、


『子供がこんなに利口でいなきゃいけないのは、やっぱり健全とは言い難いな』


と感じてるのも透けて見えていたけどね。


とはいえ、彼らとしてもそれ以上、他人の家庭の方針に口出しするのは野暮だと思ったのか、ダヴィトが、


「まあそれはさておき、今回、見てもらいたい場所まではあと三十分くらいだ。それまで、資料に目を通しておいてもらえたらと思う」


そう言って、車内に置かれていたバッグから分厚いファイルを取り出した。


「拝見させていただきます」


セルゲイはそれを受け取り、揺れる車内で広げたのだった。


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