家族の時間

こうして皆でお寿司を堪能して、家に帰って寛いだ。そして時差ボケを修正するために、アオや椿つばきと一緒に寝る。アオも久しぶりの家族一緒の時間だから、今日は仕事は休みだ。


安和アンナはセルゲイと一緒に寝たけれど。


翌朝、帰国するセルゲイに、


「う~…う~……」


と声を上げながら安和は抱き付いていた。離れたくなくてゴネているのだ。


そんな彼女にも、セルゲイはとても優しかった。そっと頭を撫でてくれて、彼女の好きにさせた。


時間が許す限り。


でも、刻限は容赦なく迫る。


「……」


セルゲイがふと時計を見た気配を察し、安和は自分から体を離した。そんな彼女をアオが抱き上げ、そっと包み込む。


「安和はえらいね…」


囁くように声を掛けるアオの胸に顔をうずめ、安和は小さく頷いた。するとセルゲイも、


「また会いに来るよ。安和……」


穏やかに声を掛けてくれる。


こうやってちゃんと自分の気持ちを受け止めてもらえるから、切り替えることもできる。『また会いに来るよ』というセルゲイの言葉が嘘じゃないと分かるから。


空港まで一緒に見送りにいって、登場ゲートに向かうセルゲイを見送って安和は泣いて、飛び立つ飛行機を見送って、また泣いた。


そんな安和を嗤う者は誰もいない。大好きな人と離れるのは誰だって辛い。だから泣きたかったら気が済むまで泣けばいい。


蒼井家は、そういう家庭だった。家族の感情としっかり向き合ってくれる家庭だった。


「じゃあ、帰ろうか……」


セルゲイが乗った飛行機が雲に隠れて見えなくなって、安和がアオの胸に顔をうずめたところで、ミハエルがそう声を掛けた。


「……」


安和はそれに黙って頷く。


こうして家に帰る途中でレストランに立ち寄って食事をした時には、安和もちゃんと笑えるようになっていた。


気が済むまで泣けたからだった。


中途半端に気持ちを抑え付けて悟ったような顔をするから、いつまで経っても踏ん切りがつかない。でも、ちゃんと受け止めてもらえればそれだけ切り替えもしやすくなる。


ただ、それを他人に求めるのは難しいかもしれない。何しろ他人にはそうしなければいけない義務も義理もないから。


対して、アオとミハエルには、それをする理由がある。


『自分達がこの子をこの世に送り出したから』


という理由が。


その責任をしっかりと果たしてくれる両親の姿を見ることで、子供達もそれができるようになっていく。


これが、


『人間を育てるということ』


だとアオもミハエルも考えていた。


親がやらないことを子供にさせようというのはムシがよすぎる。子供に『こうあって欲しい』と思うのなら、親がそれを実践し、手本を示すべきだ。


我が子の感情ときちんと向き合える親になれる大人になって欲しいから、アオとミハエルはそうするのだった。


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