第二幕

回るお寿司の方が好き

そうして世界中を巡り、半年が過ぎて、


「ただいま~♡」


「ただいま」


安和アンナ悠里ユーリが声を上げながら、玄関のドアを開けた。


「おかえり~! 寂しかったよ~♡」


アオが玄関まで出迎えて、二人を抱き締める。


「でも、無事で良かった……」


ミハエルとセルゲイがいれば大丈夫なのは分かっていても、それでも心配はあった。だから二人の無事な姿を見られたことがとにかく嬉しい。


あの後、西ヨーロッパへと渡って、そこからは比較的安全な場所を選んで滞在した。とは言え、あっちに行ってこっちに行ってと飛び回ったことで、総移動距離は地球二周分になったけれど。


が、吸血鬼であるミハエルやセルゲイはもとより、ダンピールである悠里と安和も半年程度ではまったく見た目は変わらない。


「ちょっと大きくなった?」


とアオは言うが、実は身長が伸びたのは五ミリ未満と、ほぼほぼ誤差の範囲内だった。


たぶん、悠里と安和の表情や振る舞いがほんの少し大人っぽくなったことで実際の数値以上に大きくなったように見えただけなのだろう。


けれど、確かに精神的には成長していた。


ちょっと怒りっぽいところのあった安和も多少落ち着いたかもしれない。


多少だが。


ちなみに椿つばきはこの半年で二センチ身長が伸びている。


「いいな~、私も海外旅行したいな~」


椿つばきが言うので、今年の冬休みはハワイに行くことになった。


「吸血鬼やダンピールをハワイに連れてくとか、鬼か!?」


安和は声を上げるものの、その顔は笑っている。強い日差しなど緩和する手段はいくらでもある。冬にスキーやスノーボードをしに行くのに人間が防寒対策するようなものだ。どうってこともない。


それよりは、また半年の間、気配を消して一つ所に定住することになる方が鬱陶しいかもしれない。


「まあ、とんでもないところもあるけどさ。こうやって過ぎてみたらそれなりに楽しかったのかなって思わないでもないんだよ」


リビングでソファーに座ってホットミルクを飲みながら安和はしみじみと言った。


「そう。楽しかったんなら良かった」


アオが穏やかに微笑みながら応える。


するとそこに、


「じゃあ、約束の、みんなで美味しいものを食べに行こうか」


セルゲイが声を上げる。


「お~っ!」


そうして、ミハエル、アオ、悠里、安和、椿、セルゲイの六人は、<回らないお寿司屋>に来た。


「私は、ほんとは回るお寿司の方が好き」


と椿は言うものの、決して嫌がってはいない。彼女にとっては気軽で楽しげな回転寿司屋の雰囲気が好きなだけだから。


「支払いの心配はいらないから、好きなだけ食べていいよ」


そう言って微笑むセルゲイの手には黒いクレジットカード。利用限度の設定のない(と言われているが実際には上限あり。しかもその上限額は利用者によって異なる。ちなみにセルゲイのそれは上限約一千万)いわゆる<ブラックカード>なのだった。


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