パパは嬉しいよ……
『可愛げがあろうがなかろうが自分の子供に全責任を持つのが<親>ってもんだっつーの!! 甘ったれんな!!』
ミハエルの前ではそう憤ったアオだったものの、だからと言って決して他人に対して面と向かっては言わなかった。
なぜなら、それを面と向かって言うのは、自分の考えを押し付けることになるから。
また、『甘ったれ』という表現が明らかに<侮辱>に当たるから。
<批判>したいのなら言葉を選ばなければならない。<侮辱>は<批判>ではない。
それを知っているから。
そして、<批判>と<侮辱>は違うものであることを、子供達に身をもって示さないといけないから。
とは言え、適度に<ガス抜き>が必要なこともまた事実。
だからミハエルがこうして聞いてくれる。ゆえに他人に当たる必要がない。他人を罵ってガス抜きをする必要がない。
それによって、罵られる<被害者>もでない。
これと同じことを、子供達に対してもする。子供達が感情的になった時には、ミハエルとアオが受け止める。
もちろん、アオは
子供は未熟ゆえに感情のコントロールが上手くできないこともある。その事実を理解しているから、現実と向き合わないといけないと思う。
ミハエルは、悠里と安和に対して、
「もし、どうしても誰かを叩きたくなった時には、僕を叩いて。その代わり、他の人は決して叩いちゃ駄目だ。叩いていいのは僕だけ。ママのことも叩いちゃ駄目。いいね?」
「分かった」
「うん」
二人はミハエルとの約束を守り、つい兄妹喧嘩になりそうになると、ミハエルを叩いた。
悠里も安和も、相手がミハエルだからけっこう遠慮なく叩けた。
けれど、そうして叩くと、手が痛くなるのを知った。
自分の手をさすっている二人に、ミハエルは言う。
「どう? そうやって誰かを叩くと、手が痛いだろう? ということは、叩かれた方も痛いんだよ。それを忘れないでほしい。
でもそれでも叩きたくなったら、僕を叩いて」
「……うん……」
だけど、そうしていると、六歳になる頃にはミハエルのこともほとんど叩かなくなった。
しかも、つい叩いてしまった後には、
「ごめんなさい……」
とも……
するとミハエルは、
「ありがとう。『ごめんなさい』してくれて。ごめんなさいが言える子になってくれて、パパは嬉しいよ……」
そう言いながら二人を抱き締めた。
こうして二人は、叩かれる痛みを想像できるようになり、なのに叩かれたら痛いことを分かっているのに自分の感情が抑えられない時があることも知り、どうすればそれを抑えられるようになるのか、自分で考えるようになった。
そしてそれは、椿も経験した。
椿の場合は、主にアオが叩かれる役だったけれど。
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