強い者が弱い者を
<未婚の母>であるがゆえに、かかった産婦人科であまり好ましいとは言い難い対応をされたアオだったものの、もちろん気分は良くなかったものの、『近いから』という理由だけでそこを選んでしまったことも含めて<自分の責任>であることを承知していた彼女は、淡々と入院生活を過ごした。
もしそこで、自分が<患者>でありいわば<お客>である立場を笠に着て、
『もっと丁重に扱え!!』
と言ったとしても、たぶん、看護師らはその場では言い返さなかっただろう。
現状、一般的には、アオの方が<立場>という意味では上になるだろうから。
けれどアオは、力でも立場でも、
『強い者が弱い者を威圧して恫喝して従わせる』
ことが正しいとは思っていなかった。
なにしろそれが正しいことなら、ミハエルという後ろ盾を得た彼女は、
『人間に対してどんな理不尽なことをしても許される』
ということになってしまう。それが正しいことのはずがない。
何より、母親である自分がそんなことを考えていたら、それを正しいと思っていたら、子供達もそれが正しいと学び取ってしまう。
第三子の
つまり、悠里や安和が人間を威圧して恫喝して従わせるのを正しいことだと学ばせてしまう。
それはダメだ。
だから、まだ自分の方が強かった時でも、悠里や安和に対して怒鳴りつけて威圧して自分に従わせようとはしなかった。
それが正しいことだとは学ばせなかった。
となればもちろん、ただの人間である
ただ、上二人の経験で多少は慣れたといっても、二人はダンピール。前にも言った通り、吸血鬼と基本的には変わらないダンピールは、赤ん坊の頃の成長は人間より圧倒的に早い。
だから、<大変な時期>も短くて済んだ。
けれど、
「ぬお~っ! 私は今、起きているのか? それともこれは夢の中か?
だめだ! 頭がおかしくなりそうだ! ってか、もうおかしくなってるのか!?」
極度の睡眠不足からアオは自分でも何を言っているのかよく分からない、躁状態になっていた。
こうなると不思議なもので、椿のことは確かに愛しているのに『可愛い』と思えなくなってくる。
『なんだこの生き物は…!? 悪魔か……!?』
授乳のためにミハエルに起こされて、
「びいえ~っ!」
と泣く椿を見ると、殺意さえ湧いてしまう。
母乳以外は全部ミハエルにやってもらっているというのにその有り様である。
後に、その時期を乗り越えて冷静になったアオは、
「なんか、『可愛いのは可愛げのある子供だけ』とか言ってるのがいるらしいけど、正直、子供をペットか何かと思ってんのか!?って思う。
可愛げがあろうがなかろうが自分の子供に全責任を持つのが<親>ってもんだっつーの!! 甘ったれんな!!」
と、ミハエルの前で憤慨していたのだった。
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