セルゲイ
時間を遡って、ここからはしばらく、子供達が生まれるまでの話をしよう。
「彼はセルゲイ。僕の親戚の一人で、生物学者なんだ。そして、医師でもある」
『うっわ! 何この<おとぎの国から来た王子様>みたいな超絶イケメンは……!?』
言葉にこそ出さなかったものの、アオはそんな風に思ってしまって、衝撃さえ受けた。
まさに<眉目秀麗>という言葉がぴったりな白人青年のセルゲイに、
『はあ~、さすがはミハエルの親戚。先にミハエルに出逢ってなかったらヤバかったわ~……』
とも思わされる。
しかし、ミハエルがセルゲイを紹介したのは、ただ『親戚(従兄)だから』ということではない。『医師でもある』という言葉どおり、セルゲイは<医師>として、アオの前に現れたのだ。
妊娠・出産をサポートするために。
ミハエルは吸血鬼。そしてアオは人間。ということは、二人の間に生まれる子供は<ダンピール>である可能性が高い。十分なデータがないので正確な数字ではないけれど、おそらく五分五分と見られていた。つまり、二分の一の確率で、ダンピールとして生まれると。
それは覚悟の上なものの、だからこそ人間の医師に掛かることはできない。
そこで、吸血鬼であり医師でもあるセルゲイを頼ることになった。
『は~、この超絶イケメンに検診してもらう上に出産もか~。なんか複雑だな』
アオは複雑な心境に陥るものの、妊娠すれば検診や出産の補助を医師に頼むのは当然のことなので、こればかりは仕方ない。
「医師の経験がある女性が手配できなかったんだ」
ミハエルもそうアオに詫びる。
「ああ、うん。それは仕方ないよ。人間ほど選び放題ってワケにもいかないだろうし」
アオもそう応えて、腹を括る。
こうして、自宅でセルゲイによる検診を受けることになった。
だが今回はまず、重要な検査がある。
<出生前診断>だ。
人間の場合はそれによって疾患などを調べるが、今回はさらに重要なことがある。
生まれてくる子供が、人間なのかダンピールなのかを確認するという。
セルゲイは問う。
「ダンピールが吸血鬼に対して強い憎しみを持って生まれてくるというのは迷信だと僕は主張してるけれど、それを立証するにはまだデータが足りない。
迷信の方が正しいとする根拠も一切ないのは事実でも、万が一ということを否定しきれないのもまた事実。
その覚悟は、あるんだね?」
口調は穏やかだけれど、毅然としたその問い掛けに、アオも、
「もちろん。私の勝手でこの世に送り出すんだから、どんな子だって受け止めるよ……!」
きっぱりと言い切ったのだった。
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