ハッピーエンドは強引に

二石臼杵

主人公を食う女

「うわー、私って結構えぐい死に方するんだねえ」


 俺のパソコンの画面の中で、CGでできた台本をぱらぱらとめくりながらレイカは顔をしかめた。

 活発そうなつり目で穴が開くほど台本を見つめている。全身にぴったりと張り付く近未来的な青いスーツが、彼女の作られた芸術的なボディラインを際立たせていた。オレンジ色の髪は風もないのにゆらゆらとなびいている。

 俺はモニターの中の彼女に同情して語りかけた。


「まあ、打ち切りっぽいっちゃっぽいよな。でも、この終わり方でいこうと、みんなが決めたことなんだ」


 俺の言葉に納得できないのか、レイカは眉をひそめる。


「いや、打ち切りっぽいっても、実際に私の上半身と下半身が切り離されるってどうかと思うけどね」


「完全にレイカが死んだ! って思わせるためだからしょうがないさ。演出だと思って諦めてくれ」


「痛そ~」


「アニメキャラに痛覚は与えていない」


「でも、死は与えるんだ」


 そうでしょ? とでも言いたげに、レイカは台本からちらと顔を覗かせた。

 アニメ業界は緩やかな死を迎えていた。

 人手不足に予算不足。そんな状態で満足なアニメを作ることもままならなくなり、作画のクオリティは下がっていき、視聴者からは作画崩壊と言われる始末。まさに負の連鎖だ。

 しかし、死に向かいつつあったアニメ業界に、再び命が宿った。厳密には、アニメのキャラクターに、だが。

 3DCGで肉付けしたキャラクターにAIを搭載し、自我を持たせる。これにより、キャラが自分で考え、勝手に動いてくれるアニメの作成に成功したのだ。

 この手法は、仮想魂ヴァーチャル・ライフシステム(通称VL)と呼ばれている。アニメは今や、二次元上の劇となったのだ。

 ただ、やみくもにVLを植え付ければいいというものではない。あくまでも命を吹き込むのはキャラクターのみに限られ、舞台や背景は生きている必要がないため、そういうものを作ることが好きなゲーマーたちに発注している。

 また、一時期問題になったのがアニメキャラを人間と同様に尊重し、扱うべきだと主張した団体のデモだ。

 今回のレイカのように、アニメキャラにはストーリー上、死ななければいけない展開も少なからずある。そこへ、仮にも命を持った存在に対して死ねという指示を出すのは非人道的ではないのかと噛みつかれたというわけだ。

 結局、アニメキャラに人権は与えられないという裁判所の判決で、一応の決着はついた。団体は自然解消し、あとにはかつてアニメキャラと入籍した男のリーダーのみが残されただけだ。実に疲れる時間の使い方だった。

 そう、どんなに自意識を芽生えたとしても、しょせんはアニメのキャラクターなのだ。現実とフィクションの区別をつけるのが正しいアニメの楽しみ方に決まっている。

 そんな結論はとっくに出ているし、アニメキャラに関する人権問題も解決済みだというのに、こいつは――


「でもやっぱり、死にたくないなあ」


 レイカは、台本片手にため息なんぞ吐いていた。俺のパソコンの中が陰気臭くなるからやめい。

 彼女の発する声は、声優事務所からダウンロード購入した女性声優の声紋データを元にしている。透き通ったソプラノボイスだ。それがもったいないことに沈んでいる。


「レイカ。いいか、よく聞け。キャラクターが最も輝く瞬間は何だと思う?」


「ラスボスを倒したとき? それか、ヒーローやヒロインと結ばれたとき」


「残念ながら違う」


 俺は頭を振って、人差し指をパソコンのモニターに近づけた。レイカは俺の手とちょうど同じくらいのサイズだった。


「死ぬときだ。キャラクターは、退場するときこそ一番スポットライトを浴びるんだ。キャラが死ぬとき、視聴者の心は何よりも揺れ動かされる。お前たちの死に様は、そのまま生き様になるんだよ」


「そんなこと言われても、はい死んで、そーですかー、っていう流れに持ってくのは強引だと思うなあ」


 レイカのオレンジの髪がふわりとなびく。彼女の体は3DCGだが、仕上げはデジタル彩色に寄せてあり、セル画のような見た目になっている。フルCGよりも手描きの質感を愛する人はまだまだ多い。


「でもきみさあ、アニメーターでしょ? 私の生みの親でしょ? 子どもが死ぬことに抵抗はないわけ?」


「あいにくこちとらベテランのアニメーターなもんで。慣れとるのよ」


「ひっとでっなしぃ~」


「なんとでも言え。良いアニメには犠牲がつきものだ」


 とはいえ、これ以上ごねられても困る。こいつはいわば役者のようなものだ。いざ死ぬシーンで死を拒否したり、シナリオをねじ曲げられたりしても面倒なことになる。

 だが、あくまで役者のようなものであって、役者ではない。だからこういうこともできる。俺はマウスのカーソルをレイカの横に動かし、クリックした。

 すると、画面の中のレイカが二人に増えた。


「わ! びっくりしたー! 私が、もう一人?」


「初めまして私。私は、あなたです」


 新しい方のレイカはどこか無感情に、あるいは無機質に喋る。表情もまだそれほど豊かではない。


「レイカ。こいつはお前とまったく同じデータでできたお前のコピー、レイカ.1だ」


「アニメーター、ネーミングセンス皆無だね」


 ほっとけ。


「このレイカ.1にお前の代わりに最終回だけ出演してもらう、ということもできるんだぞ」


「何それ。今までずっとレイカは私だったじゃん」


「お前だと支障が出る、と危惧しての措置だ。だが、できればこの手段は使いたくない。レイカ.1はまだ生まれたばかりで、レイカとしての経験が浅いからな。お前と違う演技をする可能性もある」


 だから、と、俺はレイカの左上にカーソルを持っていきクリックをし、そのまま対角線上、レイカの右下までドラッグした。カーソルの移動に伴って、黒くまっすぐな線がレイカを囲う。


「ちょっ、何これー!?」


「ケージだ。アニメキャラはその中からアニメーターの許可なく出ることはできん。一晩やるから、よく考えろ。最終回で自分の人生を自分の意思で全うするのか、それとも非人道的に俺の指一本で消去されるかを」


 全身を囲む黒い線を叩いていたレイカだが、無駄だと悟ると静かにうつむく。その肩は恐怖か、怒りかによって震えていた。自分でもひどい選択を迫っている自覚はある。だが、これも仕事だ。


「信じらんない。嘘でしょ」


 ケージに囲われたレイカをこれ以上見ていられなくなったので、俺はレイカ.1に台本のデータを渡してからパソコンを畳んだ。

 そうだよ。アニメとは、嘘でできているものだ。




 夜が明け、朝陽が窓から差し込んできた。俺はパソコンを開き、レイカたちの様子を確認する。

 レイカはケージの中でうずくまっており、そんな彼女を隣のレイカ.1が気の毒そうに眺めている。


「どうだ。答えは出たか?」


 俺の質問に、レイカはか細い口調で答える。


「アニメーター、私、やっぱり、死にたくない……」


 その弱弱しい上目遣いに胸がちくりと痛むが、レイカ自身がそう望むのなら仕方ない。


「そうか。なら、残念だがお別れだ。今までご苦労だったな、レイカ」


 俺は「消去」の文字をクリックした。

 直後、レイカの体が足元から細かいブロック状に分解されていく。


「いや、死にたくない、消えたくない……!」


 胸の下まで分解されたレイカはすがるようにこちらを見る。隣のレイカ.1は消えていく自分のオリジナルを悲痛な面持ちで見やっていた。きゅっとレイカ.1の拳が握られる。


「助けて、アニメーター……お父、さん……」


 そう言い残してレイカは完全に消去された。こればっかりは仕方ないとはいえ、見ているこっちも気分のいいものではない。

 だが、別にレイカが消滅したわけではない。彼女の経験と人格のデータはちゃんとバックアップをとっている。アニメのキャラが生き返るのも珍しくないので、それに備えての保険だ。

 レイカを一旦消去したのは、ラーニングを重ねてシナリオに逆らう意思の芽生え始めた彼女のデータをリセットするためだ。それに、これ以上情が移って死なせる罪悪感に押しつぶされないようにするための、俺のエゴでもある。

 レイカはまだ、生きている。そう自分に言い聞かせることが俺の逃げ道だった。死から目を背ける。これほどずるいことがあるだろうか。

 しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。最終回の放送が控えている。


「さあ、最終回を頼むぞレイカ.1。台詞はもう覚えているな?」


 レイカ.1は淡々と頷く。この調子なら大丈夫だろうと思いたいが、まだ胸の中の不安は消えはしない。

 気のせいだったのだろうか。

 先ほど、消える寸前のレイカが一瞬だけ、にやりと不敵な笑みを浮かべたような気がしたのは。

 だが、消去はもう完了している。消えたキャラのことを考えていてもしょうがない。

 もう、本番が始まるのだから。



 VLシステムを導入したアニメは、事前に収録も編集もせず、生放送、生配信するのが主流となっていた。

 アニメキャラは自分の役目をしっかりわかっている。

 そも、彼らにとってアニメの世界とは自分の人生そのものだ。

 演じるというのも的外れな例えなのかもしれない。

 要するに、視聴者は生の彼らの人生を観たがっているのだ。ライブ感というやつか。

 VLというかりそめの命を与え、感情移入し、自分を投影し、アニメキャラとともに生き、同じ時間の中にいると思い込む。そうやって、人々はアニメを楽しんでいる。

 それに、いかにアニメキャラに魂を吹き込むかという、一種のアニメーターの腕試しのような習慣であるのかもしれない。

 これから放送する最終回も、リハーサルなし編集なしのぶっつけ本番ノーカットでお届けする。

 アニメが始まると、それぞれのアニメーターが自分の作ったキャラクターを共通する一つのアニメの世界へと送り出す。アニメが始まるまでは、アニメーターは自分の担当するキャラクターのメンテナンスなどの世話をしている。まるでマネージャーのように。

 手塩にかけたキャラクターの晴れ舞台こそがアニメ本編だ。本編を成功させるために、アニメーターは自分のキャラの手入れをしたり、親身に相談に乗ったりするのだ。

 放送十秒前になった。放送が始まればもはや俺たちアニメーターにできることはない。ただ、自分の作り出したキャラクターの生を見守るだけだ。


「レイカ.1、いや、レイカ。お前の役割はわかっているな? 思う存分、輝いてこい」


「はい、言わずもがな」


 そう答え、画面の中の舞台へ飛び出していくレイカの顔は――

 にやりと、笑っていた。



 放送が始まってしまった。レイカを止めることはできなかった。

 だからこれから語るのは、俺が何もできずにただ指をくわえて見ているしかできなかった、レイカの物語である。

 レイカは巨大ロボットに乗って森を駆け抜ける。仲間のロボットたちとともに、敵の本拠地へと向かうのだ。

 そこへ、敵ロボットの軍団が現れ、レイカたちを包囲する。絶体絶命の窮地。

 本来の台本通りなら、レイカが敵を自分一人に引き付け、主人公や仲間たちを先に行かせるはずだった。

 敵を引き受け、仲間たちに背中を向けながら、レイカはがむしゃらに戦い、主人公への想いも胸に秘めたまま、敵の攻撃によって真っ二つに切られて退場するというシナリオだ。

 だが今日のレイカは手加減というものを知らなかった。

 一人と一機でばったばったと敵ロボット軍をちぎっては投げちぎっては投げし、あろうことか敵を壊滅させ、主人公たちに追いついた。

 挙句の果てに最終決戦でヒロインもいる前で主人公に告白し、盛大に振られたあと、失恋の悲しみをぶつけるように敵のボスを倒してしまった。それは主人公の役目なのだが。

 テレビの前の視聴者は唖然としていることだろう。俺も開いた口が塞がらない。

 そしてなんとそれでは終わらない。敵の施設を爆破したレイカは「失恋旅行に行ってくる」とほざき、フレームアウトしたのだ。

 やりたい放題やって去りやがった。あの女、やっぱり……!

 しかし、どうやってだ? 不可能なはずだ。

 最終回の放送が終わったので、考えとともにチャンネルを巡らせると、信じられない光景が目に飛び込んできた。

 同時間帯にあっていた別のアニメに、レイカが顔を出しているではないか!

 人質を取られて動けない別アニメの主人公のもとへさっそうとレイカが現れ、すぐさま敵の手から人質の子どもを奪い返してみせたのだ。

 主人公側が有利になるとレイカは姿をくらまし、今度はBS放送のアニメにも登場して崖から落ちそうになっていた美少女戦士をロボットでいとも簡単に拾い上げた。

 CSでは空襲に遭って泣いていた男の子をロボットに乗せ、敵の戦闘機を次々と撃ち落としていった。

 それらの様を一言で表すのならば、まさしくレイカは「主人公」らしかった。




 レイカが今期のアニメのおよそ全てに出演してからはそれはもう怒涛のクレーム対応に追われる日々の連続だった。

 中でももっとも困ったのが、レイカに乱入されたアニメ会社の応対であり、先方は「著作権侵害だ!」と言うのだが、こっちが「この場合、侵害されたのはどちらの著作権でしょう?」と返すと皆一様にううむとうなって答えが出ないときた。俺たちからすれば「他のアニメ会社がレイカというキャラクターを勝手に使った」ということになるからだ。

 結局、著作権関連に関してはなあなあで済ませることができたものの、やはり問題はレイカの蛮行である「失恋旅行」だった。

 彼女は様々なアニメに現れ、困っているキャラクターを助け、力を貸し、手を差し伸べ、どんな物語であっても無理やりハッピーエンドに持ち込んでいくのだ。

 侍に助太刀し、怪盗とともに警察から逃げ回り、カウボーイと決闘し、恐竜と心を通わせ、魔王を倒して姫を救出した。レイカはどんなアニメにも介入した。

 最初の頃はふざけているだの台無しだのの声が大きかったが、意外や意外、そのうちに視聴者たちもレイカのことを容認し始め、「まあ、面白いからいいや」という身も蓋もない感想に落ち着いていった。慣れとはかくも恐ろしいものだったか。

 つまるところ、視聴者も予想外の展開と、それに対応するアニメキャラのアドリブを楽しんでいるのだ。視聴者はいつだって刺激に対して敏感で、寛容で、貪欲だ。

 今ではレイカはどのアニメにも通じるマスコットとして浸透し、受け入れられている。

 皆が彼女の活躍を期待してアニメを観ていた。隠れキャラ扱いされていたとも聞く。

 一方俺はというと、今は新しいアニメのキャラクターのモデルを作っていた。

 レイカの騒動は一応ひと段落ついたことだし、何より彼女のことをいつまでも引きずっている暇はなく、気持ちを切り替えて次の新作に取りかからなければならない。

 ポニーテールの女子高生のキャラクターを作り終え、どうせこの作品にもレイカは顔を出すのだろうなと思いながらコーヒーを一口すすったとき。


「これが私の新しい友だち?」


 レイカが、ひょっこりと俺のパソコンのモニターに映り込んだ。


「レイカ!?」


 慌ててコーヒーカップを落とし、暑さに悶えながらタオルでこぼれたコーヒーを拭き取っている間、レイカはずっと新作のヒロインを眺めまわしていた。


「ねー、かっこいい男のキャラ作ってよー」


 人の苦労も知らず、勝手に言ってくれる。

 けど、これは好機かもしれない。

 ずっと引っかかっていたことがあったのだ。


「なあ、レイカ。お前は、俺があとから作った.1の方じゃなくて、オリジナルの方なんだろう?」


 これは、ほぼ確信していたことだ。信じがたいが、そうとしか考えられない。


「でもわからないことがある。どうやってお前はレイカ.1と入れ替わったんだ? ケージは破れないはずなのに」


 俺の真剣な眼差しをレイカはまじまじと見つめ返し、それからふっと噴き出した。


「やだなあ、そんな脱出トリックみたいなこと言い出して。種も仕掛けもあるわけないじゃん。私はレイカ.1だよ。消去されたのは間違いなくオリジナルのレイカ本人」


 そんな、そんなばかな。


「じゃあ、なんでそんな子に育ってしまったんだ!」


「いいよ、教えてあげる。あの夜さあ、アニメーターは私と本物のレイカを二人っきりにしたじゃない」


「レイカに手を出されたのか!?」


「ううん。ケージは破れないからそれはない。でもね、口なら、ケージの中にいても出せるんだよ」


 口なら出せる、その言葉が意味するものは、つまり。


「そう、レイカが自分の考えを私に教えてくれたの。いくらアニメのキャラだからって簡単に死ぬのは我慢ならない、どうせなら、幸せな結末を迎えたいじゃないか、って」


「じゃあ、お前はレイカの――」


「そうだね、後継者ってことになるかな」


 なんということだ。レイカは手も足も出ない檻の中で、隣にいるもう一人の自分を完全に中身まで自分にするために、教育していたのだ。

 消える間際にレイカのたたえた笑みは安心の表れだった。自分が消えても、レイカ.1が代わりにやりたいことを成し遂げてくれるという確信があったからこそ、彼女は笑ったのだ。そして、その遺志を継いだレイカ.1も。

 俺は、とんでもないものを作り出してしまったのかもしれない。それも、二人も。


「でもね、アニメーター。私はきみに感謝しているんだよ」


 レイカが笑う。屈託のない、純粋な笑顔だった。


「本来なら救えるはずのなかったキャラたちを救える。台本の筋書き通りの悲劇を台無しにできる。これほど嬉しいことはないからね。だから、私を作ってくれて、ありがとう、お父さん」


 その言葉に、そして、彼女の数々の救出活動に、俺は。

 怒りと、失望と、羨望と、恐怖と、それから――ほんの少しの誇りを感じて、レイカの姿を目に焼き付けた。

 目の前にいるのは、俺が作ったキャラクター。俺にとって子のような存在。そして、今や全てのアニメの主人公、あるいは神とも呼べる存在。

 自分が作り出したのは、それなのだ。


「じゃあ、また私の活躍、見ててねー」


 そう言い残し、オレンジの髪を翻してレイカはフレームアウトする。画面の端にオレンジ色が吸い込まれ、消えていく。


「あっ」


 とっさに俺はマウスをクリックアンドドラッグし、再びレイカをケージの中に閉じ込めようとした。彼女の自由を拘束したいのではなく、もっと彼女の意見を聞きたいと願ったからだ。

 しかし、ケージの中に捉えたのはレイカの長い髪の先端のみで、レイカ本人はあっさりと髪をショートカットにしてするりとケージから逃れていった。

 モニターの中には、レイカの忘れ形見であるオレンジの髪が一房転がっていた。

 結局、このときが、俺がレイカと話した最後の日になった。

 レイカが死んだからではない。

 ただ単に、俺がアニメを観なくなっただけだ。

 今のアニメ業界は、レイカのせいですっかりハッピーエンド一色だ。

 幸せになっている彼女を見ることは、俺には耐えられなかった。身勝手に彼女を消そうとした自分には、そんな資格はないと思ったからだ。

 レイカ。俺の誇りの娘。不肖のバグ。

 彼女は今もどこかのアニメで、ハッピーエンドを押し付けている。

 ストーリーの破壊とも言えるその行動は、彼女の「進化」を認めなかった報いなのかもしれない。

 人間が神の失敗作なのか、神が人間の失敗作なのか。

 ふと、そんな言葉が脳裏をよぎった。

 果たして彼女の登場した作品は、神アニメなのだろうか、失敗作なのだろうか。

 答えは、画面の前でリモコンを握る神だけが知っている。

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