第8話「この業界」



保険屋風の青年が帰ってから考えている。空き巣犯の自宅を別の空き巣犯が偶然仕事場として狙うことはあるのだろうか。例えば今回のように。



途中まではただの保険屋としか捉えていなかったが、彼は全く営業をかけてこない。そういったスタイルと考えればそうとも取れなくはないが、かなり不自然である。私が在宅していたことによって不都合が生じたという風に見えた。これは私の勘が何か思い違いをしているのではないかという仮説も踏まえて、あなたが空き巣犯ではないかと疑うような質問をしてみた。



インターフォン越しでしか読み取れないが、彼の顔には明らかに動揺が浮かんでいた。心外の表情と困惑の表情は明らかに異なる。動揺が読み取れたところで畳みかけるようにして次の具体的な質問を投げかけたら結果はすぐに出た。彼は間違いなくこの部屋を狙っていた。ここのところ張り込み続きで在宅していなかったので狙いやすいと踏んだのだろう。



そこまでして立派に張り込みをしていたのにも関わらず油断が過ぎて今の在宅状況まで調べなかったのはプロ失格の過ちである。空き巣犯にとって最も怖い瞬間は家主に出くわしてしまうことである。家主の知人レベルの人間との遭遇であれば何とでも言い逃れはできるが、家主とはちあってしまったら何とも言い訳ができない。そのリスクを回避するためにはどんな手段でも使うべきで、手抜きをして良い理由はどこにもない。完全に慣れきってしまう前にこの業界から足を洗ってもらいたいところだが、さて彼は今後どうするのだろうか。

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