「草が生えない…」

低迷アクション

第1話



“ゴミの収集”を仕事にすると、ゴミステーション(ごみ捨て場)の場所を把握すると同時に、その地域に住む人柄や生活水準がおのずとわかってくる。


“あそこの住人はゴミの分別をしない”


“〇〇のステーションに出る違反ゴミは近くにある土建屋の家が出している”


など、ゴミを通して、生活全てを知られてしまう。身に覚えがある人は

注意した方がいい。


「俺達は見ている。1年中、仕事だ。例え、緊急事態宣言中でもな?」


と、友人で、収集業務に務める“Y君”は言う。


そんな彼が担当するコースに“妙な土地”がある。土地と言っても“2階建て一軒家”の

庭だが、駐車場になりそうなくらい広い。


住宅地の一角にあり、その周辺にいくつかステーションがあるため、収集車でよく通る。

そこの庭が奇妙だと言う。


「花とかさ、後、雑草、何も、なーんも生えてねぇんだ。石ころと固い土だけ…周りの、

同じくらいの面積持ってる所は、ガーデニングとか、それなりに緑があんだけど、


そこだけ何も無くて、土色…地区的に金持ち連中が多いし、手入れ無しは目立つ」


「別に、そんなに可笑しい事か?さっき自分でも言ったろ?駐車場みたいに広いって…元々、その予定があったけど、話が流れたとか?」


「だけど、雑草くらい生えるだろ?立ってる家は空き家だし、管理業者がいたって、毎日草をむしるか?俺は週3で通るが、草が繁茂したとか、刈ってる業者を見た事ねぇ」


彼によれば、草が生えないだけでなく、虫や動物も、そこを避けて通るらしい。ステーションが多いため、鴉がよく荒らす地区だが、土地近くのステーションだけは無事。野良猫も一歩も足を踏み入れない。


「そこで、何かあったのか?」


「一緒に乗ってる先輩の話だと、その家、元々、何かの宗教団体が持ってたらしい。

でも、色々良くない噂とかあって、近所から苦情が出た。


それで、連中がいなくなった後、庭に入った猫が死んだとか、

黒いモンが夜中、庭を走り回ってるとか、変な話が出てる。それにな…」


彼は収集中に、件の家の屋根に鴉が止まるのを見たと言う。


珍しいと思い、車のスピードを遅くするのと、2階の窓から黒く棒のようなモノが、鴉に向かって伸びたのは同時だった。鴉が素早く飛び去ると、棒は、すぐに引っ込んだ。


「先っぽが5本に枝別れしてた。手だと思う。すっげー長いけどな」


自嘲気味に笑うY君は、最後に、こう言った。


「アイツも見ている…俺達と同じ、1年中ずっとな」…(終)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「草が生えない…」 低迷アクション @0516001a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る