エピローグ

 その日の昼、俺はいつものように食堂で日替わり定食を頼み、堀と春子の向かいに座り――そして、春子に全てを打ち明けた。

 会ったのは数回くらいだったが、春子がリサによく懐いていたのは知っていた。だからこそ、「リサさんは元気にしてる?」と春子に聞かれ、「別れた」としか言えなかった。そのまま、ずるずると一年ものあいだ、騙すようなかたちになってしまった。唯一、事情を把握していた堀も、俺に気を遣って話を合わせてくれていた。

 全て吐き出し、「ごめん」と謝る俺に、春子は青白い顔で首を横に振った。


「戸井田は悪くない」


 元気のない声で励まされ、まだ残る罪悪感と安堵で苦笑がこぼれた。

 そして、数日後。サークルの飲み会で、兵藤に会った。兵藤は俺の顔を見るなり、

「会えました?」と嬉々として聞いてきた。「会えなかったよ」と答えると、珍しく、不思議そうな顔をしていた。

 兵藤には夢の件も含めて話すことにして、事情を説明していると、気まずい雰囲気が辺りに広がっていくのを肌で感じた。座敷の片隅で話し込む俺と兵藤の様子に、兵藤がまた何かやらかしたのだろう、とちょっと期待を寄せて、サークルの他のメンバーたちも聞き耳を立てていたようだ。どんちゃん騒ぎになるはずだった焼き鳥屋の座敷はすっかり白けて、焼き鳥さえも凍りつきそうな冷め切った空気に変わっていた。

 しんと静まり返って、誰も口を開けられずにいると、兵藤がいきなり「ああ、つまり」と納得したような口ぶりで沈黙を破った。


「脈ナシだった、ということっすね」


 堰を切ったように、不謹慎だなんだのと先輩たちが怒涛の勢いで兵藤を叱りつける傍らで、俺は初めて兵藤の冗談に笑った。

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if 立川マナ @Tachikawa

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