名称未設定の戯曲集

鈴木夢眠

眺められる心地の良い庭で

☆登場人物

・名付けられていない衝動(衝動)(中性)

・女(主人公になれなかった主人公)

・お母さん

・お父さん

・段ボール(義人できる無色の階段)

・公園(誰かの理想)


☆偽物

壮大な覚書。僕の庭であって僕のものではない、知らない音、私の知っている衣。段ボールを愛するより前に、人間であって人間じゃない誰かのことを。


☆上演方法

このテキストは意味があって意味はなく、庭は読解を邪魔する。場を設定しているが順番通りに上演する必要はない。どこから読んでも、庭は何ももたらさない。


・全てを否定して、何もなかった頃に。彼は怪物を飼う。彼は庭に堕ちて、

・テキストは人と交わることによって成長します

・段ボールは人で配役しても、もので配役してもどちらでも可能なようにできています。

・名付けることを放棄したのか、それとも名付けるための適切な言語をもっていないだけか? どちらであっても名付けられていないことに変わりはないですが、意味合いは違ったものになると思いませんか?

・順番を変えて、見せ方も配役もすべて変えて同じ章は2回繰り返される。全てを無効にするために。

・舞台で芝居をする必要はありますか?





1 拾い物


舞台中央にかわいい段ボール。かわいいが薄汚れている。女は空間に佇む。


女「みーちゃん??」


他に人はいない、女は段ボールを持ち上げて


女「みーちゃんだ」


私と同じ匂いがする、庭での生活を思い出す。同じじゃないのにまだ夢を見ている。大きな夢ねと彼には笑われたものだ。そんな時間が懐かしい。


女「わたしの家族はどこへ行ったんだろうな」

衝動「望まなかったじゃない」

女「そうだっけ?」

衝動「そう」

女「私は家族いるから!!」

衝動「僕は家族じゃないの?」

女「名付けられていない衝動は……、家族だけど家族じゃない」

衝動「どういうこと?」

女「うーん、気付くのが遅すぎたから」

衝動「ずっと認識してたじゃない」

女「私の認識と名付けられていない衝動の認識は違うから」

衝動「僕がいなきゃ嫌だ、とか僕しか見てないようなこと言ってたのに?」

女「それは過去の話だし、家族だとしたら変な話でしょ」

衝動「家族の距離じゃないってこと?」

女「家族の距離じゃない、なんだろうねこの関係って」

衝動「もしかして……き」

女「何?」

衝動「いややめておく」

女「そっか、家族じゃないにしても、家族で在ったとしても、私は名付けられていない衝動は特別だと思っているよ」

衝動「僕のことをそんなに評価しなくていいよ、何にもできない、無限に伸びる欲求をもっていっるだけだから」

女「別に何かあったら、手は下すつもりだよ?」

衝動「なら、いいけど」

女「ねえ、みーちゃん持って帰ってよ」

衝動「はいはい」

女「口の利き方!!」

衝動「仰せのままに」

女「よろしい」

ふざけた夢は延々とままごとをするように続いて


女「そういやさ、私ってなんて呼ばれていたっけ?」

衝動「何て呼ばれてたかな、僕は覚えてないです」

女「何て名乗ればいいんだろう」

衝動「好きな名前を名乗ればいいんじゃないですか?」

女「名前って、家族から贈られる最初で最後の贈り物じゃないの?」

衝動「といっても、僕も名前があってないようなものですし……」

女「まあ、逆も然りか。贈り物であるけど、言うこと聞かない子どもにたったひとつ送れる呪いでもあるし。私は呪いを受けていないってことか」

衝動「僕が呪いを決めてあげようか??」

女「名付けられていない衝動に決められるのも嫌だな……、まあ、悪くはないけど」

衝動「いいんですか?? ならば強力な呪いを差し上げましょう」

女「え、怖いんだけど」

衝動「貴女の不利益なことにならないようにはしてますから!!」

女「ふぅん、で、どのような名前なの?」

衝動「占い師に聞いてきます」

女「占い師じゃなくて、名付けられていない衝動が考えた名前がいいんだけど」

衝動「そういわれましても……、雇用主の名前を考えるなんて緊張します」

女「誰かを想って編まれたものが欲しいんだよね」

衝動「わかった、ちょっと待って」

女「うん」


段ボールをなでたり、毛を触ったり、庭の感触を感じたり、風に心を満たすように願ってみたり、落ちている遺志を確認したり、発狂した思考盗聴犯をかわいがったりして。


衝動「決まりました!!」

女「うん、ありがと、なんていうの?」

衝動「さざんかです」

女「なんで?」

衝動「貴女は白が似合うから」

女「ふーん、よくわかんないけどありがとう。別に私は白が似合うわけじゃないよ」

衝動「こんなに白の似合う人はいません」

女「お世辞でも嬉しいよ」

衝動「無自覚なんですね……、ねえさざんか、こんな無駄なおしゃべりずっと続けていいの?」

女「別にいいんじゃないかな、彼を待つには必要なことだし」

衝動「彼って誰ですか?」

女「誰でもいいじゃない、待つことに意味があるから」

衝動「そうなんですか」


目の前に見えるものはそう簡単に愛せない、それらは失ってから気付きますか?


2  家族みたいな何か


お父さん「ぱくぱく、もぐもぐ」

お母さん「ぱくぱく、もぐもぐ」

女「ぱくぱく、もぐもぐ」


ままごと


女「いつもの庭」

衝動「いつも代わり映えない」

女「今、食事中だから。あ、みーちゃんにもご飯与えないと」


女、段ボールの前に立ち


女「みーちゃん、朝ごはん」


下水道のような咀嚼音、衝動は不快だ


女「美味しい?」

お父さん「美味しくない」

お母さん「美味しいわよ」

衝動「どうでもいい」

女「みんなにとってはどうでもいいと思うんだね」

女「お母さん、ごちそうさま」


全てはマネキン、モノマネ、庭じゃない


お父さん「___、今日も庭に狩りに行くの?」

女「そうかな、楽しいし」

お母さん「気をつけて」

女「お母さんはいつもそればっかり、私、庭で一番狩りがうまいんだよ」

お父さん「___は自慢の娘だ」

お母さん「そうはいってもね……」

女「性別の話なら聞き飽きたからね」

お父さん「___、そういえばこの間渡された時計修理しておいたから」

女「ありがとう、お父さん」


衝動「くだらない」

女「ふふん〜、今日は狩り〜」

衝動「いつもと変わらないじゃん」

女「いつも楽しいことでも、楽しみなことは楽しいの」

衝動「そうなのか」

女「何度目だったか」

衝動「条件付きの愛」

段ボール「にゃあ」

女「暖かければいいんだけどね」

衝動「庭を創ったのはだあれ?」

女「知らない」


お母さん「___、何言ってるの?」

女「気にしないで、ちょっとした幻聴」

お母さん「___は空想が激しいから……」

お父さん「子どもっていうのはそういうものだろう」

お母さん「そうは言ってもね……」

衝動「憂いしか知らない」

女「私のものだから」

衝動「興味がないだけ」

段ボール「ぶひっ」

女「何にでもなれる、庭だから」

段ボール「眺めの良い部屋」

女「みーちゃんは人の言葉を喋っちゃダメでしょう?」

衝動「今はそういう設定なのか?」

女「設定じゃない、そういうものだから」

衝動「ふーん、そっか」

段ボール「わん」

女「みーちゃんって猫だよね?」

衝動「いや、僕に聞かれても知らないから」

女「みーちゃん、君は猫なんだよ、猫らしくして」

衝動「いや、本当に猫だったとしたら、人語通じないでしょ……」

女「そっか、にゃん、にゃん、にゃぁーーーーーー!!」

衝動「そういうことじゃないって……」

段ボール「にゃん!!」

女「おー、よしよし」

衝動「いつも、庭はどこかおかしくて、」


お母さん「そろそろ出かけなくていいの?」

女「ああ、そうだった、行ってきます」

女「私の名付けられていない衝動、付いてきて」

衝動「みーちゃんは?」

女「みーちゃんはいい、名付けられていない衝動と一緒にいれたらそれでいい」

衝動「わかった」





3 Wie Kinder Schlachtens miteinander gespielt haben


深緑、私は壁、言い伝え


公園「肉屋になります」

女「家畜の豚にはなりたくない」

衝動「誰がやるの?」

段ボール「私でしょうか?」 

女「そうして」

女「名付けられていない衝動は料理番の下働きね」

衝動「はい、」

女「私は料理番をする」



女「今日は豚肉を調理しようと思っているの、生きのいい豚肉を用意していただけないかしら?」

衝動「承知しました」


衝動「肉屋さん、豚をまるごと一頭頂きたいのだけれども」

公園「わかりました、すぐにご用意いたします」


公園、シザーナイフを取り出して、


公園「おら、豚!! どこ行きやがった??」

段ボール「ぶひっ!!」


公園と段ボールのせめぎ合い


公園「ついに捉えた……」

段ボール「ひっ、」


公園は大きく腕を振り上げて、惨殺劇場


段ボール「うっ」

公園「いつもは抵抗などないんだけどな……」


公園、段ボールを引きずって、


公園「ご希望のものを御持ちしました」

衝動「こんなんを望んでたわけじゃない、まあ違うけどいいや。ありがとう」

公園「今日のは特注品ですから」


衝動「お嬢様、特注の豚をご用意しました」

女「こんなんを望んだわけじゃない。人じゃないか」

衝動「人?? 人がすべて同じなわけないじゃないですか? しかも、ここはお嬢様の庭の中。治外法権、何をしたところで不問です」

女「あなたには人が豚に見えるの?」

衝動「人ってなんでしょう?」

女「私の夢じゃなくなっている……」


思考の洪水、ちかちかするノイズ


間 


お父さん、舞台に入る


お父さん「なんてことだ!!」

女「お父さん?」

お父さん「私のかわいい娘がなんてことに……」

女「お父さん?」

お父さん「貴様がやったのか?!」

女「違うって、私が誰だかわからないの?」

お父さん「貴様か……、」

女「こんなの私の庭じゃない!!」

お父さん「何をがたがた訳の分からないことを言っているんだ!! 貴様がやったんだろう?! 子ども相手でも容赦しない!!」


お父さん、女の腕を強く掴む


女「私の名付けられていない衝動よ、私を守って!!」

衝動「仰せのままに」


衝動、お父さんを蹴散らす


お父さん「うっ、何するんだ!!」

衝動「命令に従っただけです」

お父さん「お前が、私のかわいい娘をやったのか!!!」

衝動「娘……?? 貴方にそんなものが存在するんですか?」

女「私のお父さんだって!!」

衝動「お嬢様に家族っていらしたんですか?」

女「お父さん、お母さん、ペットのみーちゃんがいる」

衝動「僕は?」

女「奴隷でしょ?」

衝動「奴隷の飼い方が下手ですね、何かを考えさせる余地を持たせたらだめですよ」

女「奴隷は奴隷らしくしてくれたらそれでいいの」

衝動「ふーん、今は仰せのままでいてあげる」

女「私の夢じゃなくなっている」

お父さん「何言ってんだ??」

女「気にしないで、すぐに終わるわ」


ブラックアウト



薄暗い感じで(照明)


お父さん「何?」

女「いろいろと許せないから」


女、お父さんに忍び寄って


女「忘れて、わたしのことも世界のことも」

衝動「都合が悪くなったらリセットなんてご都合主義ですね」

女「奴隷は黙ってて!!」

衝動「はいはい」

女「これらは全て夢で、私は人形と金貨を差し出されたら、どちらも取らない。だから、どうかこれは泡ですべて泡にして」

公園「私の罪も消えるのですか?」

女「どうだろうか、私の駒だから、駒らしくしていれば不問になるだろう」

公園「私は駒じゃない、提供主だ」

女「なぜ?」

公園「私の名前は公園、私有地を貸し出してこの名になった」

女「私有地……、国有地じゃないの?」

公園「権限を買い取ってくれたら話は変わりますが」

女「名付けられていない衝動、こいつを買い取って!!」

衝動「仰せのままに」

公園「ちょっと、何をする!!」


段ボールは形を変えて、名付けられていない衝動の武器になって、公園を抑えつけた。お父さんも変容し、段ボールの部品となって動いてる。


女「さすが、私の名付けられていない衝動!!」

衝動「いつまでも使える手ではないです、名前が付いたらどうるんですか?」

女「庭は庭のままでしょ?」

衝動「どうでしょうか? それを望んでも変わってしまうことはある」

女「まだ、私の夢だから」



4 子どもたちの子どものための世界とメルヒェン


お母さん「ここはどこかしら?」

女「ようこそ。私の庭へ」

お母さん「あら、素敵な場所へ招待してくれたの?」

女「そういうわけでもないけど、なんて呼べばよかったっけ?」

お母さん「お母さん、でしょ」

女「お母さん……、口馴染みは悪い……」

お母さん「さざんか、どういう状況か説明してくれるかしら?」

女「お母さん!! 私をその名前で呼ばないで。私の名前は杠」

お母さん「そうだったかしら、杠、杠。そんな些細なことはいいわ、この様は何?」

女「ちょっと出力を間違えただけだから」

お母さん「ちょっとじゃないでしょ」

女「私のペットたちが少し間違えただけなの……」

衝動「お母さま、この物語の責任は僕たちにありますので、どうか許してもらえないでしょうか?」

女「名付けられていない衝動……」

お母さん「怒っているわけじゃないわよ、素敵な場所だとは思うもの」

女「じゃあ、なに?」

お母さん「出力を間違えただけじゃこんなことにならないよなって思って」

女「庭を作りたかっただけなの」

お母さん「そうなの、もっと上手なつくり方があるでしょ」

女「うまくいったから、お母さんを呼んだんだけど?」

お母さん「まだまだよ」

段ボール「さざんかに失礼じゃないか!!」

お母さん「あら、この子は誰?」

女「段ボールって言うの」

お母さん「不思議な生物ね……、物が意識を持ったの?」

女「そうじゃない、私の忠実な手下なの」

お母さん「よくわからないけど、この子は早く処分した方がいいわ」

女「なんてことを、私のかわいいみーちゃんを」

お母さん「騙されているだけだわ」

女「みーちゃんは私の初めての手下なの、大事な家族なの、お母さんより家族だから」

お母さん「そうなの、そんなに言うなら止めはしないけど」

衝動「お母さまの言うことを聞いた方がよいのでは?」

女「名付けられていない衝動もお母さんの味方するの……?」

衝動「さざんかのためを思っているだけです」

女「みんな私のためとか言って、大切なことから遠くさせるんだから!! 誰も信用できない。みーちゃんはペットだから裏切ったりしないもん」

お母さん「それは、魔獣よ」

女「魔獣じゃない、ただの猫」

衝動「そうだと信じられるならそうなんじゃないかな」

お母さん「まあ、魔獣じゃないかもしれないわね」

女「ただの猫だ」

お母さん「それで、うまくできた、なんて言ってたけど、どこが上手にできたの?」

女「それはね、まずちゃんと公園を埋めたし、名前を付けないまま彼を待つことができるようになったし、アルミホイルをうまく取り出せるようになったし、大人向けのコーナーも作ったし……」

お母さん「相変わらずね……。あの、名付けられていない衝動さん、いつもこんなんなんですか?」

衝動「そうですね……、もう慣れましたけど」

お母さん「貴方も大変ね、段ボール? みーちゃんはどう思う?」

段ボール「さざんかさんはいい人だと思っています。あの、さざんか、こいつ殺ってもいい?」

女「それはやめようか、みーちゃん。みーちゃんに対しての評価がよくないのは私の頑張りが足りないだけだから。ごめんね」

段ボール「さざんか……」

お母さん「くだらない茶番ですね」

女「私の庭だから」

お母さん「そうですか、何を言っても聞かないのは昔からね」

女「そうかな」

お母さん「そろそろ私はお暇するわ」

女「お母さん、ありがとう」

衝動「杠のこと、任せてください」

女「ちょっと、」

お母さん「あら、よろしく頼むわ。衝動さん」


段ボール、威嚇する


女「大丈夫だって」

お母さん「ここの子たちを手懐けるのは大変そうね」

女「そんなことないって、じゃあね。今日はありがとう」


お母さん、去る


女「はぁ、疲れた」

衝動「お疲れ様です、別に呼ばなくてもよかったのに何で呼んだんですか?」

女「今の私を見せたかったし、名付けられていない衝動とみーちゃんを自慢したかったから。まさかこんな展開になるとも思っていなかったけど」

段ボール「くそ野郎だったな、オレのこと魔獣とかいうし」

女「魔獣でしょ?」

段ボール「なっ」

女「私にはそのことは関係ないもの、私のみーちゃんであってくれたら」

段ボール「さざんか、オレ、みーちゃんでいるわ」

衝動「こんなんでいいんですか?」

女「名付けられていない衝動には関係のない話でしょ」

衝動「そうですね、僕には関係ない話だ」

女「段ボールが魔獣であることは前から知っていることではあるけど、そうでないと私たちは出会っていなかった」

段ボール「まあ、確かにな」

衝動「どういうことですか?」

女「社会からはみ出してしまったもの同士だから、共感が得られることってあるじゃないですか」

衝動「ここにいる人はみんなそうだとでも言いたいの?」

女「名付けられていない衝動はそもそも作られた存在でしょう?」

段ボール「名付けられていない衝動、っていうのは誰目線で?」

女「さあね、ここにいない人かもしれないし」

衝動「別に誰目線でもいい、僕が僕であるならば」

女「そういうとは思ったけど」

段ボール「そんなんじゃ満足いかないなあ」

女「みーちゃんはそういうとは思ったけど」

段ボール「予想済みなんですね……」

女「だから、みーちゃんには具体的な名前を渡した。名付けられていない衝動は名付けないことにした」

衝動「それは逃げとかじゃなくて?」

女「逃げではない、それがお似合いだと思ったから」

衝動「そういうものか、そういう立ち位置か」

女「そう」




 私は誰?



〈完〉






 

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