最新話
ヒコーキのかたち・キ66
気になる飛行機の形について、素人が聞きかじりであれこれ言います。
川崎キ66といいますと、あまり有名とはいいがたい「幻の日本軍機」です。
実機が制作されたにもかかわらず不採用となり、しかもそのことを今でもあまり惜しまれないという不遇な機体です。
これが、「幻の傑作機」であればよかったのですが、それほど性能で傑出していたわけではありませんし、海軍機でなく陸軍機という時点で、関心がさらに薄くなるのも残念ながらやむなしという所でしょうか。
改めてまとめますと、キ66は川崎が開発した双発急降下爆撃機です。キ48(九九式双発軽爆撃機)をベースに小型化し、乗員はキ45改と同じ2名。機首に12.7ミリ機関砲2門を装備しています。発動機はキ48Ⅱ型と同じハ115です。
とはいうものの、複座コクピットのキャノピー形状などをみると、キ48を元にしたというより、キ45(二式複戦)に爆弾槽を付けたような機体ですね。主翼も胴体も約1m延長し、主翼にはダイブブレーキ。
キ49にはあった機首の爆撃手席は、急降下爆撃では操縦者が爆撃照準も行うので不要なため廃止し、地上の銃座制圧用か、12.7ミリ機銃二門が装備されています。
実機も完成していたのですが、キ48がダイブブレーキをつけて45度までの急降下爆撃が可能となった後、本機は発動機をハ315(栄系1350馬力)に換装する事が構想されましたが、結局開発中止となってしまいました。
なぜ、こんな事になってしまったのでしょう。
酣燈社の「回想の日本陸軍機」という本があります。かなり古い本ですが、開発の当事者達が自ら執筆も行っているだけに貴重です。その中に、キ48の急降下爆撃対応可について、次のような記述があります(概要)。
当初は60度の急降下爆撃が求められたため、畳のように非常に大きな制動板(ダイブブレーキ)が必要となって設計者は悲鳴を上げていたが、やがてドイツから、Ju-88でも50度以下の急降下しか行われていないとの情報が伝わり、条件が45度へと緩やかになり、どうにかまとまった。
以上のように、当初キ48の急降下爆撃対応の改造は、難航が予想されていたようです。キ66の開発は、キ48で60度の急降下ができない場合に対応するために急がれていたのではないでしょうか。
そのために、発動機もキ48Ⅱと同じとし、主翼も同じものを縮めて使用し、胴体を縮小、小型化する。
いかにも土井武夫氏らしく、既存機を流用して手早く仕上げられた機体です。
しかし先に触れたように、降下角度の制限によってキ48の急降下爆撃機化は一応の成功を見ました。となると、同じ発動機を装備したキ66は時速40キロ程度しか優速でなく、急いで切り替える必要もなくなりました。
そこで、大出力の発動機に切り替えて更なる高速化し、次世代機を狙う事になったのでしょう。しかし、結局は試作中止となってしまいました。なぜでしょうか。
急降下爆撃に疑問が生じたのでしょうか。
ノモンハン事変では、ソ連軍の対空砲火に日本陸軍の軽爆撃隊は敵陣への投弾が困難であったと言います。
そんな状況での急降下爆撃に、機首の機銃で銃座の制圧を図ったとしても、投弾の成功と生存は期しがたいと判断されたとも考えられます。
また前掲書では、襲撃機について、爆撃と砲撃どちらをメインにするかで議論があったが、砲撃を中心にする方向になっていったとありました。
現実の戦訓を受けて軽爆撃機の在り方が変遷する中、キ66も居場所を失うのは必然だったようです。九八式直協機と九九式襲撃機の発展型であるキ72、キ71と同様に。
九九式襲撃機の部隊も、性能強化型キ71の採用は見送り、一式戦に機首転換され、戦闘爆撃隊となりました。当然、急降下爆撃ではなく緩降下爆撃となります。
とはいえ、海軍の急降下爆撃機「彗星」をトーチカ攻撃用に採用することも検討したそうで、急降下爆撃をすべて捨てたとも言えないですね。ただ、それは単発機で行う事となっていったのではないでしょうか。
キ66の主翼は、キ45改Ⅱから単座のキ96に、そしてキ102の甲と乙に受け継がれます。そのキ102乙が、57ミリ砲による砲撃を行う襲撃機です(爆弾も使用しますが)。
その主翼を後継機に引き継ぐことができたことで、キ66にはそれなりの意義があったと言えるかもしれません。
メカニス妄想 ~ワニのゆる語り~ 和邇田ミロー @wanitami
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