2 脱出と情報
「さて、いろいろすべきことはあるんだが、最優先するのは『この街からの脱出』だ」
やることは山積みだが、これだけはやっておかなければならない、とセイルは続ける。
「どうして出ていくのですか?この街はかなり拠点には向いていると思いますが」
リーレの言うように、この街は拠点にちょうどいい規模の街だ。セイルも一ヶ月ほど滞在しているが、なかなか住みやすい所だと思っていた。
しかし、この街に居続けるのは二人にとってリスクが高すぎる。その理由は二つあった。
「
一つ目、神盾聖騎士団はリーレにとっては鬼門だ。セイルとしても、できるならば接触は避けたい相手ではある。
二つ目、リーレの出身は分からないが、
だから多分、リーレが死ぬときにこの街にいたのは間違いない。吸血鬼になってから移動はしていないとリーレも言っている。その場合、リーレが知り合いに見つかってしまうと、かなりマズイことになるのだ。真祖が吸血鬼になるまでには少なくない期間が必要だ。つまりリーレは数年前に行方不明になった存在だ。だというのに、今更姿を見せたとなれば、かなり不自然に思われるのは間違いないだろう。
これらの理由から、セイル達はなるべく早くこの街を出ていかなければならない。
しかし、これにも大きな問題点がある。
二つ目の理由で挙げたように、吸血鬼が街から移動することは難しいという点だ。
「だからこれから俺達がすることは、そのための準備になる。情報収集と脱出手段の確保が優先事項だと考えているが、リーレはどう思う?他にやるべきことがあれば言ってくれ」
セイルはリーレに助言を求める。一人だと、どうしても自分では分からない穴ができることも多い。意見は多ければ多いほどいい。
しかし、リーレからは特に何もないようだった。
「異論がないなら、この方針でいく。さて、次に具体的な行動について話す。リーレは基本的にここで待機。下手に行動してリスクを冒す必要はない」
「その場合、私は何をしていればいいのですか?」
何もしないのは時間の無駄だが、現状、リーレにできることはない。
「そうだな、この本を使って魔法の練習でもしていればいい。リーレは魔法が苦手と言ったが、吸血鬼の大量の魔力は大きな武器になる。自衛の為にも身に着けたほうが何かと便利だ。ただし、放出するのは禁止だ」
セイルがリーレに渡したのは、数冊の本。魔導書ではないが魔法について書かれた本であり、これをもとに練習を繰り返せば、そのうち魔法も使えるようになるだろう。身体強化に使うだけでも戦闘力に大きな違いが出る。吸血鬼の魔力を使わない手はない。
「脱出に関しては、もうすでに案はある。後ほど確認するから、考える必要はない。脱出手段の確保と情報収集はどちらも俺がやっておくから、余計な行動はしないでくれ」
街を出るには昼の行動が必須で吸血鬼には厳しいが、魔道具を使えばできないこともない。
リーレは早速本を開き、ベッドに座って読み始めた。
これからセイルがすべきことは、件の
しかし、情報というものは重要なもので、魔導具も然り。……つまり何が言いたいかと言うと、セイルは金が心配だということだ。
一応情報屋はこの宿の一階にあるバーにいるのだが、全ての情報をそいつから仕入れたら、素寒貧になってしまう。
ではどこから仕入れるかといえば、それは一つしかない。
「
当事者だ。
セイルはリーレに気づかれないよう、静かに溜息を吐いた。
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