非日常への誘い(強制)



「なんで!?」


 如月きさらぎ先輩の悲痛な叫びが響き渡る。


「いやなんでって…そりゃあ突然すぎますよ。それにまだ他の部活を見てみたいですし…」


「オーケイ後輩くん、正論による暴力はやめたまえ。ここは1つ取引をしよう。」


 どこかふざけた様子でそう切り出してきた先輩。だれだ最初に才色兼備だとか思ったやつ…あ、オレか。


「君が入ってくれたら今ここにある道具、全部使ってもいいよ★」



「ほう・・・。」


 なるほど…確かに普通ならば悪くない取引だ。机の上に広げられているものの中には最新のゲーム機やらの値段の張るものなんかもいくつかある。だが残念なことに


「ごめんなさい。」


「なんで〜〜!!??」


「だってほとんど持ってますし…」


 さすがに『化学辞典』は持ってはいないがそれ以外のゲームやらなんやらは全て持っていた。



「それならなおのこと入部してよ〜!まだ誰も見学にすら来ないんだよ〜〜!!!」


「そりゃあんな『いかにも罠です★』みたいな置き方したら誰も来ねーよ!!」


「え、去年は私がつられたよ?」


「釣られたのかよ!?」


 いやまぁかく言う俺も釣られてるのでこれ以上強くは言えない。


「はぁ……とりあえず事情を話してください。」


「へ?、入部してくれるの!!?」


「事情を聞くだけです!!!」


(まぁ聞いた上で断るつもりだけど…)



 キーーンコーーンカーーンコーーン



 といったところで喜ばし……残念なことに予鈴のチャイムがなってしまった。流石にクラスへ戻らなければ次の授業に間に合わない。


「あちゃーもう時間か〜。後輩くん、続きは放課後にーー」



(よーーし、絶対に断るゾ!!!!)


 これ以上の面倒事はゴメンなのである。というか放課後はさっさと帰って家でのんびりしたい。


(だが断るには理由が必要!そして残念なことに今の俺には断る理由はない!!しかし、ならば予鈴を利用して無理やりにでも断る!!!)



 この間、わずか0.5秒。


「あーー残念だなー。先輩の話をもっと聞きたかったんだけどなー。時間ならしょうがないよなーー。」




「いやだから続きは放課後にーー」


「いやでも学校のルールには従うべきだからなー。そんな訳でお話はまた来世でしましょう!お邪魔しましたー!!」


 そう言って桂馬はダッシュで逃げ出した。科学部の教室には香澄がポツンと取り残されているだけである。


「・・・フ、フフフ・・・フフフフフ」


 取り残された香澄は気でも狂ったのか不気味な笑みを浮かべ


「いいだろう!!何としても君を入部させてやる!!!」


 結果、火に油を注ぐ事となった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「なぁ水無月…あれ・・・。」


 隣の席の友人がHR中にも関わらずこちらに話しかけてくる。


「あれは見ちゃいけないやつだ。そっとしておこう…。」


「いや、あんな美人な人がうちのクラスに来るなんておかしいだろ!?というかあの人お前を見てないか!?お前なんか知ってんのか?なぁ!?」


「落ち着けじん。マジで何にもないから。むしろ知りたくないから。」


 廊下にはやたらと優しげな表情でこちらを伺ってくる1人の女子生徒がいた。見間違えるはずが無い。間違いなく如月先輩だ。だが昼間の残念な感じから一変。おしとやかでいかにも令嬢を思わせる優雅な佇まいだ。


 既にクラスの大半が気づいており、HRも少しずつざわめき始めている。担任の女教師(新人)は何事かとオロオロしている。小動物を思わせるその仕草は普通に可愛いと思った。


「え、えーーでは以上でHRを終わります。皆さん気をつけて帰ってくだしゃい!」


 あ、噛んだ。可愛さプラス100点


 だがクラスの男子生徒の大半はそれよりも廊下の如月先輩が気になるらしく特に気にした様子はなかった。本人は恥ずかしかったのか顔が赤くなっているが…。


 そして如月先輩に興味のあるクラスの男子は誰が声をかけに行くか周りをうかがっており誰も声をかけようとしない。



 だがここで気がつく。廊下に先輩が居るということは廊下を経由しなければいけない帰宅という行為は完全に防がれているのだと…。


(くそっ!やりやがった!!)


 残念なことに桂馬のクラスは校舎の端なので階段をおりるには絶対に先輩の前を経由しなければならない。


 どうしたものかと桂馬が考えているとクラスの男子が何故かざわつき始めた。如月先輩に動きがあったのかと思い顔を上げると


 なんと目の前にその本人がいた。


「うわっ!?」


「フフ、昼と同じ反応をするのですね。さぁ桂馬君、一緒に部活に参りましょう。」


「おい!露骨にキャラ変えんな!昼頃のあんたはもっとこう…残念な感じだっただろ!!?」


「フフ、おかしな事を言うのですね桂馬君は。せっかくお昼にあんなにお話したのに。」


「一方的に先輩がボケてツッコんだ記憶しかないんですが…?」


「突っ込むだなんてそんな…恥ずかしがいです…。」


「よーーし先輩、屋上に行きましょう!1回ぶん殴らせてください!」


 といったところで俺の方に手を乗せてくる奴がいた。仁だ。


「桂馬くーん。ちょっとO HA NA SI しようか〜。」


「お、おい仁、目が笑ってないぞ…。というか殺気が凄いぞ…。」


 仁だけではない、クラス中のほとんどの男子がこちらへと殺気を向けている。


「俺たちの誓いを忘れたのか桂馬…。学校内での抜けがけの恋愛は死刑だと…。」


「聞いたことねぇよ!!??」


「あぁ今決めたからな。」


「無茶苦茶すぎる!」


「知るか!そんなことよりもお前が俺たちを差し置いて美人な先輩とイチャついてるのが悪いんだ!者共かかれーー!」


「なんでお前が指揮取ってんだよ!?」


 だがふざけたノリの割にはクラスの(非リアと思われる)男子生徒はこちらへと向かってくる。


「あぁもう!逃げますよ先輩!!」


「わっ!」



 こうして桂馬は無理やり香澄の手を掴み殺気溢れる教室から逃げ出した。




 なお、この鬼ごっこは約30分近く続いた・・・。

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彼女が導く非日常な毎日。 柊 黒奈 @hiiragi008

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