高額マスク売りの少女

ちびまるフォイ

救いにやってきた紳士

それは寒い寒い冬のことでした。


「マスクいりませんか? マスク買ってください」


少女は雪の降る町でマスクを売っていました。

けれど、誰も少女へ見向きもしません。


「マスク、マスクいりませんか?」


「ちっ、邪魔だな。どけよ」


「ああっ」


ついには突き飛ばされて少女の持っていた

50枚入りのマスクの箱があたりにちらばってしまいます。


散らばったマスクの箱をせっせと集める少女。


「見ろよ。マスク売ってるぜ」

「飛ぶナメクジを除去だって。なんだよあの箱」

「今じゃもう高額マスクなんて必要ないよ」


ちがうのです。


一個人でマスクを仕入れるルートには限界があります。

それでも仕入れたマスクは怪しい外装をしていました。


騙されて買い掴まされたよくわからんマスクを、

生活のために売るにはそれなりの高額になってしまったのです。


「マスク買ってください。マスク、マスク……。

 1箱半額でいいです……60%オフ……80%オフ……」


どれだけ値段を下げても、誰も見向きもしませんでした。

そのうち誰が呼んだのか警察が少女のもとへやっていく。


「君、ここでなに売っているの?」


「マスクです……マスク、買いませんか?」


「君が店の前でマスクを売っているのが

 営業妨害になると店の主人から通報があったんだよ」


「え……」


「君、ちゃんと許可取ってるの?」


「いえ……でも……」


「じゃあどいたどいた。

 こんな高額マスクなんて売るんじゃないよ」


少女の持っていたかごを奪い取ると、

ひとの通らない路地裏へと投げてしまいました。


なんて都会の人は冷たいのでしょう。


「ぐすん……ひどい……」


少女は泣きながらマスクを拾いにいきました。

もっている「マスクあります」の看板には雪が積もっています。


「寒い……」


せめてもの暖を取るために少女はマスクをつけました。

自分の息がマスクで跳ね返りわずかに口元が暖かくなります。


疲れて切っている少女は座り込んで壁にもたれかかりました。

だんだん意識がぼーっとしていきます。



「……おばあさん……?」



うつろになってきた目には、

かつておばあさんと過ごした家が映りました。

けして裕福ではなかったけれど幸せだった日々です。


『おばあさん、どうして家にこんなにマスクがあるの?』


『それはね、これから大儲けできるチャンスなんだよ。

 世間じゃマスク不足だからこれを高額で売りさばくのさ』


『でも家にあるけど……?』


『これからマスク不足はさらに加速する。

 だからあえて溜めて、溜めて、もっと価格をつりあげるのさ!』


『おばあさん目が怖いよ』


『このマスクが売れたら美味しいものを食べに行こうね。

 今まで苦労ばかりかけていたけど、きっと楽になるから』


「おばあさん……」


少女の目から一筋の涙がこぼれました。


マスクが息で毛羽立ちはじめると夢は覚めてしまいました。


「おばあさん……会いたいよ……」


少女は耐えきれなくなって泣いてしまいました。

すると、向こうから雪の踏みしめる足音が聞こえます。


足音はだんだんと近づいてきました。

少女はまたどかされるのではと怯えました。


「マスク、売っているんですか?」


少女の前で足を止めた男性は訪ねました。

身なりから相当なお金持ちであることがわかります。


そんな金持ちがわざわざ粗悪マスクを買いに来ることはない。

少女の目にはその男が神様に見えました。


「はい! マスクありますっ。いくらでも!」


「そうですか。それはよかった。

 ちょうどそのマスクが欲しかったところです」


少女はぱあと顔が緩んだ。

すぐにかごに入っていたマスクの箱を一つ取り出す。


「はいどうぞ!

 お一人様、何個でも大丈夫です!」


男は少女の差し出したマスクの箱には見向きもしなかった。

荒い息づかいで訪ねました。





「いや今、君がつけているマスクを売ってくれるかい?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高額マスク売りの少女 ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ