第2話 勝者1(手繋ぎ)
「せーんぱい!一緒に帰りましょ〜!」
放課後、授業も終わり席に座って待っていると、えりがひょこっと教室の扉から姿を現した。
俺を見つけてぱぁっと顔を輝かせると、にこにこと朗らかな満面の笑みでテンション高く話しかけてくる。
「今日はやたらとテンション高いな」
「当たり前じゃないですか!恋人となって初めて一緒に帰るんですよ?楽しみに決まってます!」
「……そうかよ」
拳をぐっと握りしめ、キラキラとした瞳でじっと見つめてくる。なんというか絡み方がいつも以上にうざく、ついため息を零れ出る。
こいつのことが好きで告白したのだが、毎度のことながら絡み方がうざい。テンションが高すぎてついていけないし、もはや他人になりたいくらいだ。
「なんだ、神崎くん、誰を待っているかと思ったら、雨宮さんを待ってたのかい?」
「ん、まあな」
「仲が良いようで安心だよ。じゃあお邪魔虫の僕は退散しようかな。ちょうど華も来たことだし」
そう言ってさっきまで話していた俺の親友、東雲直人は彼女の晴川華の元へとスタスタ去っていく。晴川はえりの友達なので一緒に来たのだろう。
東雲にはえりと付き合い始めたことを報告したのだが、にこにこしながら温かい目で「おめでとう」というだけだった。なんとなくあの見守るような表情は腹が立ったので睨み返しておいた。
「じゃあ、先輩帰りましょう!」
「そうだな」
えりは人差し指を前へ突き出し、ビシッと外を指し示した。
教室に残っている人も俺たちだけになったので、一緒に教室を出る。下駄箱へと向かうため廊下を歩くと、えりは隣をとことこと並んでついてきた。
歩くたびによく手入れされた綺麗な黒髪が光を煌めかせるのが視界に入る。
「あ、そうです、先輩。せっかく付き合ったんですから手を繋ぎたいです」
思い出したような声を上げると、チラチラと俺の手に視線を送ってくる。
ほんのりと頰を赤らめ期待に満ちた目で見てくるので思わず了承したくなるが、ここが学校であることを思い出し躊躇ってしまう。
「……ここでか?」
別に嫌というわけではないが他人の目もあるし、なにより好きな奴と手を繋ぐというのは少しだけ恥ずかしかった。
手を繋ぐことを想像して、頰に熱が籠り始めるのを感じる。
躊躇いがちに聞き返すと、俺の様子を見てにやっと口元を緩めた。
「あれ〜?もしかして先輩、恥ずかしがってます?ふふふ、恥ずかしがってる先輩可愛いですね」
「うるさいな」
目を細めいたずらっぽく笑ったえりは小悪魔っぽく少しだけ色っぽい。してやったりと満足した表情を浮かべるので、なんだか悔しく素っ気なく言い返した。
えりの思い通りにやられっぱなしというのはむかつくし悔しいので仕返しを考えてみると、すぐに一ついい方法を思いついた。
早速その方法を実践するべく手を差し出す。別にえりがお願いしてきたから叶えてやりたいという訳ではない。
「……ほらよ」
「ふふふ、ありがとうございます」
嬉しそうに目を細めて、華奢で白い手を俺の手に重ねてきた。少しひんやりとした柔らかい肌の感触が手のひらから伝わってくる。
予想通り、えりは子供と手を繋ぐような一般的な繋ぎ方で手を繋いできた。
無事、仕返しが出来そうなことに心の中でほくそ笑む。
俺が考えた方法は普通の手繋ぎから急に恋人繋ぎに変えるという方法だ。
えりは普通の手繋ぎを想定しているはずなので、その期待を裏切って恋人繋ぎをしてやれば、驚きとより一層親密な手繋ぎに照れるだろう。
(くくく、さあ、えり。お前の照れ顔を見させてもらうぞ!)
「えり、なんでそんな繋ぎ方なんだ?ちゃんと繋がないとダメだろ?」
一度繋いでいた手を離し、指を絡ませるようにしてもう一度繋ぎ直す。
今度は指の間からもえりの体温を感じ、この繋ぎ方が特別なものであることを改めて自覚する。
「ひゃ、ひゃあ!?ちょ、ちょっと先輩!?これ、恋人つなぎですよ!?」
繋ぎ方を変えた途端、素っ頓狂な可愛い悲鳴を上げて顔を真っ赤にするえり。
慌てたように声を上擦らせて、なんとか伝えようと必死に訴えかけてくる。
「俺たちは付き合ってるんだから問題ないだろ」
「そ、そうですね……」
真面目な表情でじっと見つめてやれば、しぶしぶといった感じで頷いて俯いてしまう。髪の間から覗くえりの頰は薔薇色に染まり、耳まで赤くなっていた。
(馬鹿め、俺をからかってくるからこんな目に遭うんだぞ?)
恥ずかしそうに照れて俯くえりを見て満足する。
よほど効いたのかそれからしばらくの間、頰を茜色に染めて俯いたまま静かになっていた。
Sキャラ神崎くんは今日も小悪魔後輩を攻略する 午前の緑茶 @tontontontonton
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