男の子とおもちゃ

れんぎょう

男の子とおもちゃ

男の子は、世界中が自分のためにあると思っていました。自由奔放に、大好きなお母さんに甘え、守られて育ってきました。


まだ、世の中の事など、何も知らない3歳の男の子。


ある日、男の子のところに、真新しいおもちゃが来ました。

そのおもちゃは、お母さんに代わって、男の子の願い事を、何でも叶えてくれました。

なので、すぐに男の子のお気に入りになりました。


ただし、そのおもちゃは、心を持っていたのです。

でも男の子には、そんなことはどうでもいいことでした。

だって、男の子は、そのおもちゃがあれば、全てが自分の思い通りになるから楽なだけ。おもちゃの心なんて、関係なかったから。

そして、おもちゃ自身も、大好きな男の子の願い事を叶えてあげることに、喜びを感じていました。



長い長い年月が経ちました。おもちゃは、時々壊れてしまうことがありました。そんなとき、男の子は、おもちゃを放置しました。修理することさえ思いつかなかったみたいでした。

だって、このおもちゃは、自分のためだけに存在しているのだから、自分は、してもらうことが当然なんです。

段々おもちゃに対して、壊れるなんて、めんどくさいと感じるようになっていきました。


そして男の子は、オンボロおもちゃには目もくれず、いつしか新しいおもちゃを探し始めたのでした。


それでもおもちゃは、一緒に遊んで欲しくて、自分で壊れたところに絆創膏を貼って、折れた足さえ引きずりながらも頑張っていました。

おもちゃがこんなにも男の子に対して愛情を持っていることなど、男の子には、どうでもよかったのです。だって、おもちゃは、自分の物だから当然。


ある日、男の子は、お友だちが持っているおもちゃに、とても興味を持ちました。

「僕のおもちゃと交換して遊ぼうよ!」

と、お友だちに話しかけました。

ワザと自分のおもちゃが、いかに面白いかを話します。

でも本当はお友だちのおもちゃに興味深々、違うおもちゃで遊びたい気持ちで、頭がいっぱいになっていました。


おもちゃは、自分がお友達に遊ばれて、手足を引っ張られたり、痛い思いをしても、自分さえ我慢すればいいんだと、自分にいい聞かせていました。



それでも男の子は、いつも自分が一番じゃないと、自分の思い通りにならないと苛立ち、腹をたて、おもちゃを脅すようになりました。

「僕が楽しめないじゃないか、願い事を叶えてくれないならば、捨てちゃうからね。」


そんな男の子の心の変化を、おもちゃは感じながらも、男の子が望むことをしてあげたい。またいつか、自分を必要としてくれる日が来るのならば構わないと思いました。



しかし、違いました。男の子はもう、本当はおもちゃに興味がなくなっていたのです。


ある日、男の子が、おもちゃに言いました。

「お前、もう古いし、ボロいし、飽きちゃったんだよ。それに本当は、ずっと前から嫌いだったんだよね。こんなの連れて歩くのが恥ずかしいんだよ。

だから、必要な時に利用出来ればいいと思っていた。」


その言葉に、おもちゃは、深い悲しみを覚えました。

もう、自分は必要ないのだと知りました。男の子には愛情さえなかったのかと。


それと、同時に、おもちゃは、とても怖ろしいことに気がつきました。


男の子のところに来てから25年という長い年月が経ったにもかかわらず、男の子は、ずっと、3歳のままだったのです。

おもちゃが、なんでも願い事を叶えてあげることで、男の子は、世の中を知る必要もなく、ずっと、居心地の良い3歳のままだったのでした。


おもちゃは、悟りました。

自分がいることによって、男の子が成長しなかったことを。


そして同時に、おもちゃ自身、ボロボロで修理出来ないほど、壊れていたことに気がつきました。



おもちゃは、男の子の前から、去ることにしました。


それを男の子に伝えると、急に惜しくなったのか、

「これからは、大切にするから。」

と、男の子がいいました。

でも、それが真実とは、どうしても思えないほど、おもちゃは心まで傷ついていました。

やはり、ここを去ろう。



さよなら、、男の子。

長い間、ありがとう。

突然、後ろから、男の子が走ってきて、おもちゃを踏みつけました。

「僕の思い通りにならないならば、こうしてやる!どうだ!ザマアミロ!」

おもちゃは、手も足もバラバラになり、おもちゃの命も、消えてしまいます。


こんな最後なんて…


薄れゆく意識の中で、おもちゃの瞳からは、ひとすじの涙が流れました。

おもちゃは、自分が人間だったことを知りました。

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男の子とおもちゃ れんぎょう @pupupunopu

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