魔法少女エンジェルミサティー!

譜楽士

元々は作者のおふざけで始まった魔法少女

「その手を離しなさい! 魔王!」


 悪の存在にそう言い放って、一人の女性が空から舞い降りた。

 天使を思わせる羽のような飾り。風に揺れるコスチューム。

 長い髪をなびかせて、地面に降り立とうとした彼女は――着地に失敗してべしゃり、と地面にずっこけた。


「い、いたいですー……」


 涙目で起き上がる女性。それを見て、ああ、いつも通りだなあ、と納得しながら、魔王――滝田聡司は、その女性に言った。


「なあ、春日よ……なんなんだこれ」

「今のわたしは春日美里ではありません! 魔法少女・エンジェルミサティーです!」

「いや、そういう話ではなく……」


 聡司は力なく、それだけ言う。確かに目の前にいる美里は、いつもの制服姿ではなく、なんかこう、アニメで出てきそうな衣装に身を包んでいる。

 ええっと、夢オチかなにかですかね作者さん? とメタなことを考える聡司。そんな彼は、いつもの制服姿の上から黒いマントを羽織っているだけ、というなんとも適当な格好だった。


「これで魔王って。もうちょっとなんか思いつかなかったのか?」

「格好で誤魔化そうとしても、そうはいきません!」


 なにやら美里はノリノリだった。彼女はびしっと、聡司を指差してくる。


「さあ! おとなしく人質を解放しなさい!」

「え?」


 美里が指差したのは、自分ではなく、その後ろで――振り返れば、縄でぐるぐる巻きにされいる、見覚えのある姿が転がっていた。


「おいみなと。そんなところでなに転がってやがる」

「むー!」


 猿ぐつわをされてそこにいたのは、聡司と同じ吹奏楽部の男子部員、湊鍵太郎だ。主人公も、番外編ではこの扱いなんですよ!

 鍵太郎は美里と同じ楽器の後輩だ。ああ、だから助けに来たっていう設定なのね、と変に納得しつつ、再び聡司は美里に向かい合った。


「はいはい、わかったわかった。すぐに解放しますって」

「む、そう言って油断させるつもりですね?」


 美里は逆に警戒してしまった。夢の中とはいえ、思い通りにはならないもんだなあ、と聡司が頬をかく。彼女は恐ろしいものを見ているといった顔で、こちらに言い放ってきた。


「そうやって数多の少年をかどわかしてきた変態魔王……! 今日こそ、引導を渡してくれます!」

「え!? なに!? 今日そういう扱いなのオレ!?」

「女性にもてないからといって年下の少年に走るその悪行、見逃すわけにはいきません!」

「そのセリフだけはこないだ現実でも聞いた気がするなあ!? オレだって見逃したくないわそんなもん!? そんときも言ったよな春日!? オレはノーマルだって!」

「ちっ、近寄らないでください! 気持ち悪い!」

「作品一番の良心に気持ち悪い言われた!? すげえ心に来る!? 泣きたいわホント!!」

「わ、わたしもほんとのことを言うならば、『滝田聡司×湊鍵太郎』に興味がないわけでもないのですが……」

「やばいよ!? 魔王より魔法少女のほうが邪悪な考え方に染まってたよ!? やめてその不気味な掛け算!?」

「今のわたしはエンジェルミサティーです! そんな腐った極上の果実など……おいしそうですねえ」

「完全に悪堕ち前のセリフだよなそれ!? 腐女子の魔法少女なんてヤダよ!? もっとプリキュアみたいな純粋なのないの作者!?」

「む。ショタの次はロリですか。つくづく救えない存在です」

「救いがねえのはおまえだ春日!」

「優ちゃんまでもその標的にするとは……身内への歪んだ感情、ますます許せません!」

「貝島まで持ち出すなあああああっ!?」


 聡司と同じ打楽器パートの貝島優は、確かにつるぺたなのでこんな格好が似合いそうだが――って、そうじゃなくて!


「春日には似合わねえんだよその格好は! 夢だから言っちまうけど、おまえみたいな胸のあるやつがそんなコスチュームだと、完全にエロゲなんだよ! 大きいお兄さんたちがイケナイ目的で買うゲームに出てきそうなんだよ!」

「それはあなたの心が邪悪だからそう思うのです、魔王よ!」

「すげえ正論言われた!? おまえに言われたくない感がパねえ!? あのなあ春日、魔法少女において、つるぺたは正義なんだよ!!」

「こっちもこっちでアブない思想を持った人がいました!? おまわりさんこいつです!?」

「魔法少女がおまわりさん頼るな! 魔法でなんとかしろ魔法で!」

「なるほど、言われてみればそうですね」


 どうしようもない茶番を経て、ようやくエンジェルミサティーは臨戦態勢に入った。右手を高く挙げて、魔法のステッキを召喚する。


「出でよ! わたしの相棒、『エスカリボルグ』!」

「……おい、まさか」


 名前に不吉なものを感じていると、金色の光線が集中して――中から美里が担当するバカでかい楽器、チューバが現れた。

 重さ十キロの金属塊。ステッキというより鈍器。


 これはそう――某撲殺天使と同じ、魔法の杖(物理)だ!


「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」

「や、やめろ春日、おまえのエスカリボルグはホントにシャレにならないから! いろんな意味で怒られそうだから! つーか絶対殴ったら痛いからそれ!?」

「やだなあ聡司くん、わたしが楽器で殴るわけないじゃないですか」

「もう名前で呼んじゃってるし……え? 殴らないの?」

「はい! 魔法のステッキから出ている、なんか不思議な魔法の力でダメージを与えるんですよ♪」

「結局殴るのに変わりねえぇぇぇぇぇっ!?」

「レベルを上げて物理で殴ればいいんです★」

「かわいく言っても許されねえことってあるんだぜ春日!?」

「うふふ。動かないでくださいねー」

「『お注射しますよー』みたいに言わないでマジ怖いから!?」

「斬って殴って嬲って。刺して晒して垂らしてー」


 エンジェルミサティーは、その名の通り天使のように、にっこり笑った。



「でもそれって、わたしの愛なんですよ♪」



「それがやりたかっただけか作者ああああああああっ!!??!?」



###


「はーい、変態滅殺! おつかれさまでしたー」


 自らの血だまりのなかで、滝田聡司は助け出される湊鍵太郎の姿を見た。

 そうか――こいつの愛はこんなんなのか。

 狂ってやがる。身内への歪んだ感情は、そっちの方じゃねえか。気をつけろ後輩……。

 沈む意識の中で、聡司はそう笑って、親指を立てた。

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魔法少女エンジェルミサティー! 譜楽士 @fugakushi

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