閉塞的な場所から、ひとつひとつ扉を開けて、大切なもののたくさんある場所へ向かう、そう言うお話です。
BLのタグがついているのだけど、それはたまたま主人公のさっちゃんこと浦田君と、パートナーとなる良さんが同性だったと言う点においてだけで、恋愛小説なのかと言うと、多分そうではない。
彼らはお互いに惹かれあっていくけど、想いを遂げるために行動している訳ではなくて、それは前述の「扉」を開けるきっかけであったり、原動力であったり、開けたところにあったご褒美だったり、と言うだけの事。
さっちゃんが悩んだり、えい、と思い切ったりを繰り返して、扉を開けていくその傍らに、当然の如く良さんは居るのです。
街の中やキッチンカーのある公園、田舎の景色が描かれる丁寧な言葉の中には、ごく自然にさっちゃんの心情が溶け込んでいて、言葉をひとつひとつ追いながら、同じ場所に立てたとして、自分にはその景色はこんな風に見えるのかなあとつい考えます。
結末を知るためじゃなく、文章ひとつひとつから、景色や感情や、ありそうな場所、いそうな人の空気感、そう言うものをたくさん感じて読み進めて行きたくなるようなお話です。
あと、カレー食べたくなります。
この作品の素敵なところは、出会いによって人生を拓く明るいエネルギーが生じてくるところです。
主要の登場人物である浦田と井上は、共に現状に不満を抱いています。
学生起業のブームに夢を見たもののその夢が終わってしまいサラリーマンをしている浦田。
そして、本業ではやりたい仕事ができなくなってしまった井上。
どちらも人生が思い通りにいっていません。
そんな二人は、井上が休日にやっているキッチンカーのカレー屋で出会います。
この出会いから徐々に二人の仲が深まっていくのですが、それと同時に、浦田の中で人生を前向きに変えていくエネルギーがふつふつと生じてくる様が文章からはっきりと伝わってくるんですね。
彼に生まれた前向きなエネルギーは眩しく力強く、人生を好転させる予感に満ち溢れています。
この輝かしい予感を楽しめるというのが、この作品の大きな魅力と感じます。