最終話 二回目の春

 また四月が来た。

 一年前の今頃は東北支社に行ったんだよねと、絢芽と感慨深くなっていた。


 絢芽は深田さんとSNSのフレンドになっていた。

 深田さんに彼女ができたらしい。絢芽は、深田さんのSNS更新が愉しみになると言っていた。

 もう少ししたら新入社員も来るかもしれない。

 もし教育係になったら、ほどほどに親切に丁寧に接しよう。

 私は、他人の気持ちを考えるようになった自分に気づいた。


 昼休み、昼食を終えた社員が廊下を行き交っている。私もその中の一人だ。

 毎日同じ時間、すれ違う顔もほぼ一緒だ。

 しかしその日はいつもと違った。

 エリートが集まる技術課の人たちが、いつもより多い人数で歩いていた。

 誰だろうと思って顔を見た。

 小川さん……?

 どうして? そちらを凝視していたら、こちらに気づいた様子だ。


「神崎さん」

 いつもの、あの優しい口調で名前を呼ばれた。小川さんはちょっと嬉しそうだった。


 小川さんは私と話をするからと言って、技術課の人たちとその場で別れた。

 小川さんは四月から青森に出向になったと言っていた。

 設計の仕事を少しでもこちらで出来ないかと、教える為に来たらしい。

 東北支社での仕事は藤木くんが引き継いだと。


「多分三年位、青森にいます。またよろしくお願いします」

 嬉しかった。けれども私の課と技術課は、そんなに接点がない。

 小川さんが青森支社にいるからといって、会える保障もない。


「良かったら今度休みの日、市内をご案内しますよ」


 私は言葉が勝手に出ていた。本能だった。

 このまま小川さんと別れたら、昼休みに廊下ですれ違うだけになると思った。


「嬉しいです、ぜひお願いします」

 小川さんはいつもの笑顔だった。いつもの、変わらず。

 このままだとずっと変わらない関係だ。


「一緒にお茶しに行きましょう」


 突然の言葉に、小川さんが少しぽかんとしていた。

 しまった、都会だと「飲みに行きましょう」が定番だった。


「私、アルコールはあまり得意じゃなくて……」


 言い訳するように付け加えた。


「僕もです。ずっとお酒のつきあいだったので、お茶のお誘いは嬉しいです」

 小川さんの本当の顔が見えた気がした。

 とりあえず、連絡先を交換した。




                               おわり

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いつかティータイムを 青山えむ @seenaemu

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