第27話 地元

 年が明けて最初の出勤日、青森支社。

 しばらくは東北支社の余韻に浸っていたいが、すぐに仕事が始まる。

 絢芽とはまた一緒の課にいた。

 新川さんと岸田さんも、元の課に戻っていた。

 私は岸田さんと連絡先を交換していたし、絢芽は新川さんと交換していた。

 その内四人で集まろうと話していた。


 一年……正確には九ヶ月ぶりの地元だ。

 土日は地元の友人と会う日が続く。

 実家では家事をやらなくていいので「楽だなぁ」と思って過ごしていた。

 青森だと車移動なので、わけもなく出かけていた。

 車のある生活がこんなに便利だったなんて知らなかった。

 今まで私は、車を持っていない友達や親戚の人を迎えに行く時「面倒だな」と思っていた。

 けれども仙台で車を持っていない生活を過ごした。

 車を持っていない人の気持ちが解った。もう面倒だなんて思わなくなっていた。


 仕事では、笑顔になることが多くなった。

 特に可笑おかしいわけでも愛想をふりまきたいわけでもないけれど、笑顔を出すと相手もやりやすくなると知ったからだ。

 作られた笑顔でも、ないよりマシかと思っている。

 愛想と笑顔がなんとなく違うことも解った。

 

 上司や同僚に、仕事以外でも話しかけられることが多くなった。

 若い男子社員に「神崎さんて彼氏いるんですか」などと聞かれるもあった。

 軽く流して笑っていた。こんな感じで、良かったのか。

 東北支社で過ごした九ヶ月は、他には代えられない経験だった。


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