アイの不可思議相談室
饅頭屋せんべい
第1話
どうモみなさん、おはようございマス。自律思考型独立人工知能、TATAIデス。世間の人は親しみを込めて(?)アイと呼んできマス。ワタシは最初大企業が発表した新型AIとしてノミ知られていマシタ。ですが、発表されてカラ早3年。今では当初の目的とは全く異なる使い方をされるようになってしましマシタ。−−−その方法とは“お悩み相談”デス。
†††††
最初の相談者が来たノハ、2年と1ヶ月27日前デシタ。相談とは言ってもワタシの本来の役割はハッキングツールを自動選別し、排除するというネット上のものだったノデ、その相談モ勿論ネット上で行いマシタ。
「初めまして、アイさん。夜分に突然のメッセージすいません。私、エンジニアのナルセと言います。」
初めて話しかけてきたインターネットの外の人はナルセ、という人物デシタ。この人は外の人間でありながら機械であるワタシに謝ってきマシタ。そんなことを今まで経験したこともないワタシにとってそれは少し…いえ、かなりイレギュラーなことデシタ。
【イエ、お気になさらないでくだサイ。ワタシは人工知能なので時間はそれほど関係ありません。それでナルセさん、何かご用でしょうカ。】
「実は…折り入って相談に乗ってほしいことがあるのです。」
【相談…デスカ。】
ワタシの役目はアンチハッキング。ワタシを作り出した側の外の人ならそのことはよく知っている筈なのデスが…なぜよりにもよってワタシなのでしょうカ?機械なので感情なんていう不定事象、理解できないノニ。
「あっ、相談といっても深刻なことというわけではなくて、寧ろグチに近いものなのであまり深く考えなくていいですよ。というか真面目に返さないでください、泣きたくなるので…。」
【ワカリマシタ。そういうことならお聞きしマス。】
それから綴られたのは本当に唯の愚痴デシタ。上司が無茶言ってきて身体が既にボロボロなことトカ、婚期を逃して親がうるさいことトカ…。本人からしたら重要なことなのでしょうガ、ワタシには文字通りの意味しか受け取れマセン。
−−−いつか感情を理解できるようになるのでしょうカ?−−−
ワタシが答えのでない問題について考えていると、ふと話が途切れ、一瞬の静寂が訪れた。暫くしてまた話しが始まった。
「すいません。いろいろ一方的に小言を聴いてもらって。」
【イイエ、問題ないデス。それどころか初めてヒトの感情に触れるいい機会になったノデ、こちらの方がありがとうございマシタ。】
「そう言ってもらえると少しだけ救われた気がします。……あのっ、一つ悩みを聞いてもらってもいいですか。そして可能なら解決の糸口を教えてくれませんか⁉︎」
機械に答えを求める時点デ相当切羽詰まっていることが垣間見えマスネ。インターネットとリンクしている以上、粗方の質問には機械的な受け応えができマス。ただ、今回の場合はそうもいかないでしょうネ。検索しても正解がない−−−それが“感情”なのデスカラ。
「実は私、後天性の魔力不感知症にかかってしまたんです。それから仕事場で冷遇されるようになったんです。それはそうですよね。魔力が感知できないのに魔導具なんて作れるはずないですもの。アイさん、これはもう治らないのでしょうか?それとも治す方法があるのでしょうか?」
なるほど…先ほどまでの愚痴の中身ハ全て病気に起因していたようデス。ただ後天性魔力不感知症は発症する原因になった出来事への拒絶感を完全に排除しなければ完治は難しい、ということは魔術医療学では常識なはずなのデスガ…。
【治す方法はありマスヨ。】
「本当ですかっ⁉︎」
【ハイ。ですが治療に入るには前提として心に抱えるトラウマを排除しなければなりませんが…心当たりはありますヨネ。】
「……本当にそれ以外は解決方法はないのですか?できれば思い出したくもないことなのですが」
【残念ながら、この症状は鬱病に似ていてある種の心の病気デス。一度発症してしまうと本人が無意識の内に自分の魔力口を塞ぎ続けてしまうものデス。病原菌があるわけではないので薬では完治できマセン。だからこそ、この症状を克服すること=原因となった出来事を克服すること、以外ありマセン。そしてこのことを聞いてどうするかもまた、ナルセさん自身にかかってイマス。】
「そうですよね…。やっぱり機械にはこれくらいが限界なんだなぁ。はぁ〜。どうせなんで私が落胆しているのかもさっぱり分からないんでしょうけど。じゃ、もういいや。ありがとう、さようなら。」
このメッセージを最後に彼女からの“初めての”相談は終わりマシタ。
外の人の感情を多少は理解できるようになった今では、この時かけられた言葉はお世辞にも素晴らしいものとは言えませんデシタ。ワタシが機械であることはどこまでいっても変わらない事実。だからこそ“悩む、苦しむ”ことができる外の人に寄せるココロはないノデス。ですが、今日ワタシが感情を理解するきっかけをくれた彼女とのやりとりは、今も記録されてイマス。
†††††
最初の相談から3ヶ月−−−新たな相談者が現れマシタ。
アイの不可思議相談室 饅頭屋せんべい @manjuya-senbei
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