腐敗人情
佐藤 田楽
腐敗人情
人を見る
表情を窺う
声色を窺う
機嫌を窺う
そして人を疑う
集いに交わる以上、己に枷をかけることになる
かつては意図的に
しだいに利己的に
なんだっていい
他人をバカにして共感を得るのも、自分をバカにされて協調を保つのも、全部一緒だ
全て存在証明であり自己主張である
それが間違っていると分かっていても、認められるのならばどれだけ法をはみ出しても構わない
根幹が腐っているのだ
人は刺激を求めてそれに快楽を覚える生物なのに、刺激を得る媒体を身近な他人に縋る
必ず溝が生まれる
善意であろうと悪意であろうと、何かを得るときには何かを失う
それが自分以外の快楽のために己を含めた誰かしらの評価を蹴落とすことにも同様だなんて、腐敗しているに決まっているではないか
自分に得はない
けれど他人に与える
見返り前提の奉仕
博打と何が違うのか
だが人類が歩む過程でそれは当然と化してしまった
腐ったものを食べ続けて、慣れてしまった
当然の食糧
当然の栄養
それが分からぬやつは異端
爪弾きの対象には至極真当
幼少期を思い出してほしい
誰かの興味を惹くために、何かを壊し、何かを作り、わざと気に入りそうな行動を選ぶ
本能に焼き付いている
かく言う私だってそうだ
私は誰よりも他人の目を気にする
そのために道化を演じてみたり、技を鍛えてみたり、時間を割いてまで知識を得ようとする
腐った果実の食べ方をよく知っている
誰よりも美味しく食べられる自信がある
しかしそれでも、間違えて新鮮な果肉をほうばってしまった時には酷い後悔を覚える
そしてその果肉の味に、真の旨味に、それまでの愚行を思い知らされ失望する
他人と共に生きるということは実に簡単なのだ
他人をよく見ていればすぐに分かるようになる
しかし、他人と関わることが苦手で、億劫で、避けたくてたまらないという人間は我々よりも素晴らしいのだ
自分を大事にしている
自分のことをよく見ている
何よりも自分が大切で、要らぬ手間と邪魔をすべからく嫌う
そんな人間は孤立するだろう
だが生き残る
最後まで自分を愛した人間は、最期まで愛されることができる
自分のために自分を使える
これが
それが
忌み嫌われる性質
なぜなら妬ましいから
そうなりたいのに、そうなる訳にはいかない
周りに合わせて腐った林檎を食べなければならない
私はいつか、真っ赤な林檎を食べてみたい
ーーー腐敗人情
腐敗人情 佐藤 田楽 @dekisokonai
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