我が家

-ザハルナッシュ家-


ヴェラが家の前まで来ると、軒先にしゃがんでいる女の人がいた。


「お母さん!」とヴェラが声を上げる。


その声にヴェラの母親-フラヴィア・ザハルナッシュは顔を上げる。

「あら、おかえりなさい。ヴェラちゃん帰ってくる予定だったかしら」

さっぱり覚えてない、という様子の母親にヴェラは訂正する。

「ううん。急に帰ろうかなって思ったの!」

答えにフラヴィアは微笑み返す。

「そうなのねぇ。お父さんも家にいるよ」

そういって、家を一瞥する。

「ありがとう!荷物置いてくるね!」

ヴェラは、扉を開け家に入った。


リビングを抜け、自分の部屋に向かう。

父親の書斎をノックすると、「どうぞ」と返事があったので静かに開けて入る。


「ただいま!お父さん!」


父親-ルキウス・ザハルナッシュは書物から顔を上げ、口を開く。

「おや。帰ってくる予定だったのか。さっぱり忘れていたよ」

フラヴィアと同じ反応にヴェラはくすくすと笑い、先程と同様に急に帰りたくなった旨を伝えるはめになった。




久々に3人で摂る食事は、ヴェラの好きな魚料理だった。

きっとルキウスが気を利かせて作ったのだろう。

好きな料理を快調に食べるヴェラを2人は優しく見つめ、ちょっとだけ、ヴェラは恥ずかしくなる。



「最近の村はどう?」

食事も終わり、お茶を飲みながら二人に尋ねる。

「そうねぇ…、いつも通りだと思うけど…」

「いたって普通だな」

そう答える二人に、ヴェラは苦笑いする

「この村は相変わらず、って感じね」


「あぁでも、最近研究でも進んでるのかな。ここ1,2か月で前より知らない顔を見るようになった気がするよ」

すこし考えてルキウスが答える。


「へぇ、そうなんだ。研究所でなんか面白い研究しているのかな」

そういえばあまり知らないな、とヴェラは思考をめぐらせる。

「どうだろ。どうせ魔象ましょうじゃないかな」



ひと通り話したあと、汚れを流し、部屋に戻る。


ベッドの中で、昼間の2人の反応を思い出してまた、くすりとする。

同時に、ヴェラは2人にただの帰郷だと嘘をついたことを、なんとなく居心地悪く感じていた。2人に隠し事はしたくないけれど、この話は大きな影響のある力だ。2人は私が何を研究しているか知ったら心配するかもしれない。安心できるまでは隠していたい。


それにしても2人ともそっくりの反応をしていた。

フラヴィアとルキウスはヴェラぐらいの歳の娘がいる親としては老けている方だ。

というのもヴェラは小さい頃に拾われており、2人とは血が繋がっていない。


(私は娘らしくできているのかな…)


小さい頃から盛大な無茶をするヴェラを、叱ると言うよりはたしなめ、懸命に育てくれた大好きな2人だ。

王立第三魔法大学に主席で入ると聞いた時は、2人ともものすごく喜んだことを思い出す。


自分を拾ってくれて本当の娘のように優しくしてくれる2人に、隠し事をすることになんだかもやもやとした気持ちになる。

ヴェラは少しだけ自分の銀髪を恨めしく思い、またベッドに潜った。





-ルクスフォード家-


厳しい《いかめしい》門を開け、広い庭を通り、屋敷の背の高い扉を開ける。


扉を開け、ホールに入ると、周囲に音が鳴り響く。


ホールには誰も居ないが、扉が開く音を聞きつけた男性の使用人が出てくる。


見慣れた使用人だ。


「私です。王都より戻りました」

アイシャは使用人 -クーリに告げる。


「これは、アイシャお嬢様。おかえりなさいませ」

使用人はアイシャから上着を受け取る。

「ありがとう、クーリ。私は自分の部屋に行きますね」

「お2人にはお伝えしておきます。夕食は屋敷で取られますか?」

「ええ。そのつもりです」

「承知しました。では後ほどお呼びいたします」

「ありがとう」

アイシャは自分の部屋に歩き出す。

「失礼致します」

そう告げて、クーリは頭を下げてまた自分の仕事に戻っていった。



部屋に戻り、荷物を置き、机の横の椅子に座り眼鏡を外す。

慣れたものとはいえ、半日の移動で溜まった疲労が体に押し寄せ、そのままうつらうつらと夢の世界に降りていった。



こんこんと扉を叩く音で目を覚ます。


「お嬢様?起きていらっしゃいますでしょうか」

アイシャは女性の声で目を覚ます。


「今起きました。食事でしょうか」

アイシャは椅子に坐り直す。ちらりと外の暗さを見たが、すっかり暗くなっていた。


「はい。すぐいらしゃいますか?」


「ええ。行きます」


「わかりました。では支度をしてまいります」


アイシャがそう答えると、すぐに階段を降りる音がし、女性の気配が遠のいた。


アイシャは鏡を見て髪を整え、そして自分の部屋を後にした。


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魔象ましょう

魔象ましょうとは魔力流や魔力溜りなどをはじめとした、自然界における魔法現象とその影響のこと。

動植物の異常発達・魔物化、大規模な自然災害、魔力流や魔力溜りの制御による被害の軽減など、研究が期待されている課題は多くある。

ルクス村はある意味で辺境の地に自然界の観測に適している、それでいて研究機関が充実しており自然界を研究するためには悪くない立地となっている。

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異世界と13の発明 いく @qulomium

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